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5章 イズナバール迷宮編
220話 会議・中編
「コミュニティの代表が使うにしては質素な部屋ですねぇ……」
「以前も言ったが、上のリタイアで私にお鉢が回ってきただけの役職だ。それに、探索者にとっては迷宮内こそが家みたいなものなのでな」
「さしずめここは安全な休息ポイントですか」
簡素な造りの家具でまとめられた小ぢんまりとした部屋は、素朴な木材の色、そして森かはたまた草原か、緑色のシーツや敷物に埋め尽くされている。ルフトの故郷をイメージしての事だろうか。
ルフトの勧めに従い正面のテーブルを囲むよう席についたジン達に、エルの反対側に座ったルフトは真剣な面持ちで話しかける。
「エル君、実のところ私が話をしたかったのは君なんだ」
「あの……」
「そう畏まらなくてもいい……というのは酷な話だな。別に君に対して危害を加えるつもりも圧力をかけるつもりも無い。その為にジンもこの場に来て貰っている」
そもそもルフトにはエルと個人的な接点は何も無い。エル個人を見れば、ここ最近話をする機会が増えたジン、彼と行動を共にする事の多い人間、という認識でしかないのだが、その背中にチラチラと見え隠れするモノには多いに問題があるからだ。
古代迷宮イズナバール、最深部踏破を目指す裏で行われる4国間の領有権問題、その争いの渦に帝国の手が、直接介入など無くともそれを臭わせるものすら存在するのは好ましくない。
「きみに対して含む所がある訳では無い──が、キミはここにいるだけで問題の火種になる可能性があるのだ。ジンからは止められたがあえて聞いておきたい、エル君、君は帝国の、それもかなり高い立場にいる者の縁者だね?」
核心部分はぼかしたものの、自分の立場を明確にさせる問いかけにエルは躊躇い、ジン達に助けを求めるように視線を巡らせる。そこには、
「~~~~~~~♪」
耳を手で塞いだまま目を閉じ、リズムに合わせてクネクネと身体を揺らす二人の「聞いてませ~ん」という露骨な態度に思わずあっけに取られ、それを見てやっと顔に笑顔と余裕を取り戻したエルは、ルフトの目を見ながらはっきりと答える。
「はい、僕──いえ、私の父はルフトさんが仰るとおり、帝国の要人と言って差し支えない立場にいます、しかし──」
さらに言葉を続けようとするエルに、ルフトは片手を上げてそれを制し、
「大丈夫、それだけ聞ければ充分だとも。きみが身分を隠している事についても充分に理解は出来る。ただ、それを蒸し返して問題にしようとする連中は当然出てくるだろう」
そこで言葉を切ったルフトはエルを見つめる。
ルフトの言葉を聞いたエルは表情を硬くしたまま俯く。
庶民の子であれば理解する必要の無い話だが、幸か不幸か、エルは8歳でありながら事の背景を推察し、話の趣旨を理解する程度に聡明な子であった。
だからこそ答えられない。
もしも今後、ルフト達「異種混合」が迷宮踏破を最初に達成した場合、たとえそれが事前に協定を結んだ末の結果だろうとも横槍を入れてくる者達は確実に存在する。ことは国益に繋がる話だからだ。
そしてそこに、いくら個人的な依頼関係とはいえジン達の名前があれば、そこを彼等はつついて来るだろう。
そこで確実に問題になるのは、氏素性のハッキリしないジン達ではなく、帝国という明らかに厄介な名前を背負ったエル達である。
迷宮踏破にエルが率いる護衛達の戦力は実にありがたい。逆に言えば、彼等の迷宮攻略を帝国が後押ししていると取られかねない、痛し痒しな問題である。
ならば解決策としては至極簡単、エル達がこの街から離れる事である。
だからこそエルはその答えを口にすることが出来ないでいる。
「……………………………………」
ルフトは、8歳の身でその洞察が出来るエルに対して内心感嘆し、そして未だ8歳であるからこそ、その決断が下せない事に同情する。
沈黙が続く中、いい加減飽きてきたのか、ルディが口を出す。
「そんなに心配なら、いっそ一筆書いてもらったら?」
「何────?」
「だから、エルは現在帝国のいかなる権利も有していない。何があろうともその責任を誰かが負うことは無い、とでもさ」
中々に無茶の過ぎる提案だが、それが帝国の公式見解だというのであれば少なくとも煩い口を塞ぐことは可能だ、デメリットさえ受け入れるというのであれば。
デメリット──つまり、命の危険。
大々的に公表する必要は無いにしても、少なくとも4国の息のかかったコミュニティと探索者ギルドには通達する必要がある。そうなれば当然、帝国の貴人であるエルの身辺は穏やかでなくなる事は間違いない。
そこまでしてジン達と行動を共にするのか、その2択に──
「お願いします! 近日中に正式な書類は用意いたしますから!!」
エルは即答した。
「いやいやエル坊、流石にそれは無茶が過ぎる。何より──お前の身が危険に晒されるって事は、彼女達は命を懸けてお前を守る事になる。無駄に犠牲を強いるつもりか?」
ジンの言葉は底冷えするような冷気を伴って耳に届くが、エルはそれを真っ向から受け止め言い返す。
「そんなの今さらですよ。僕の事は既に裏では色々出回っているはずです、だったら逆にこちらが不利になる情報を与えて、向こうが二の足を踏むように仕向けます」
「なるほど……俺好みのいい回答だ」
キッパリと言い放つエルの態度に、ジンはニヤリと笑みを浮かべると、エルは嬉しそうにこちらも笑顔で返す。
そんな2人のやり取りを見ながらルフトはルディに耳打ちする。
(なんと言うか、アレは本当に8歳の子供か? 帝国の皇族相手にあれだけ言いたい放題のジンも大概だが……)
(ジンは関心の無い相手にはヘコヘコ下手に出て関わろうとしないけど、仲の良い相手にはあんなもんだし、これはと認めた相手には敬意も払うし色々便宜も図るんだ……だから、安心していいよ♪)
(……そうか、それは嬉しい事を聞いたよ)
ルディの言葉に安心したのか──10歳の子供に太鼓判を押して貰って安心するルフトも変わっているが──改めてルフトは、エルに先程の質問を繰り返す。
「ではエル、きみはあくまで個人として我等のコミュニティ「異種混合」と共にイズナバール迷宮の攻略に力を貸してくれる、それでよろしいかな?」
「はい……いいえ、僕はあくまでジンさんの側で色々と勉強をしたいと思っているだけです、迷宮に潜るのはたまたまで、デイジー達はそんな僕の護衛をしているだけです」
「うむ、それで構わない。では改めてよろしく、我等「異種混合」は貴殿たちを歓迎する……ああ、書類は早めにな」
「はい!」
ガシッ──!
ルフトから差し出された緑青の手を強く握り返すエルを見て、ジンとルディもそれに重ねるように手の平を乗せると、4人で頷きあう。
そしてその後、ホールでいまだ飲めや踊れやの連中の前に立ったルフトは、その場で正式にジンとエル達のパーティが、名目上は個人依頼扱いだが、自分たちの傘下に入り迷宮踏破を目指すことになったと通達する。
そして同時に、高級素材の手軽な採集方法とそれに伴うギルドからの専属以来、潤沢な運営資金をジンの口利きでそれが叶った事も話すことで、ジン達は反対意見も無く受け入れられた。
そして改めて迷宮踏破とコミュニティの繁栄を誓い、宴は夜通し続いていった。
「以前も言ったが、上のリタイアで私にお鉢が回ってきただけの役職だ。それに、探索者にとっては迷宮内こそが家みたいなものなのでな」
「さしずめここは安全な休息ポイントですか」
簡素な造りの家具でまとめられた小ぢんまりとした部屋は、素朴な木材の色、そして森かはたまた草原か、緑色のシーツや敷物に埋め尽くされている。ルフトの故郷をイメージしての事だろうか。
ルフトの勧めに従い正面のテーブルを囲むよう席についたジン達に、エルの反対側に座ったルフトは真剣な面持ちで話しかける。
「エル君、実のところ私が話をしたかったのは君なんだ」
「あの……」
「そう畏まらなくてもいい……というのは酷な話だな。別に君に対して危害を加えるつもりも圧力をかけるつもりも無い。その為にジンもこの場に来て貰っている」
そもそもルフトにはエルと個人的な接点は何も無い。エル個人を見れば、ここ最近話をする機会が増えたジン、彼と行動を共にする事の多い人間、という認識でしかないのだが、その背中にチラチラと見え隠れするモノには多いに問題があるからだ。
古代迷宮イズナバール、最深部踏破を目指す裏で行われる4国間の領有権問題、その争いの渦に帝国の手が、直接介入など無くともそれを臭わせるものすら存在するのは好ましくない。
「きみに対して含む所がある訳では無い──が、キミはここにいるだけで問題の火種になる可能性があるのだ。ジンからは止められたがあえて聞いておきたい、エル君、君は帝国の、それもかなり高い立場にいる者の縁者だね?」
核心部分はぼかしたものの、自分の立場を明確にさせる問いかけにエルは躊躇い、ジン達に助けを求めるように視線を巡らせる。そこには、
「~~~~~~~♪」
耳を手で塞いだまま目を閉じ、リズムに合わせてクネクネと身体を揺らす二人の「聞いてませ~ん」という露骨な態度に思わずあっけに取られ、それを見てやっと顔に笑顔と余裕を取り戻したエルは、ルフトの目を見ながらはっきりと答える。
「はい、僕──いえ、私の父はルフトさんが仰るとおり、帝国の要人と言って差し支えない立場にいます、しかし──」
さらに言葉を続けようとするエルに、ルフトは片手を上げてそれを制し、
「大丈夫、それだけ聞ければ充分だとも。きみが身分を隠している事についても充分に理解は出来る。ただ、それを蒸し返して問題にしようとする連中は当然出てくるだろう」
そこで言葉を切ったルフトはエルを見つめる。
ルフトの言葉を聞いたエルは表情を硬くしたまま俯く。
庶民の子であれば理解する必要の無い話だが、幸か不幸か、エルは8歳でありながら事の背景を推察し、話の趣旨を理解する程度に聡明な子であった。
だからこそ答えられない。
もしも今後、ルフト達「異種混合」が迷宮踏破を最初に達成した場合、たとえそれが事前に協定を結んだ末の結果だろうとも横槍を入れてくる者達は確実に存在する。ことは国益に繋がる話だからだ。
そしてそこに、いくら個人的な依頼関係とはいえジン達の名前があれば、そこを彼等はつついて来るだろう。
そこで確実に問題になるのは、氏素性のハッキリしないジン達ではなく、帝国という明らかに厄介な名前を背負ったエル達である。
迷宮踏破にエルが率いる護衛達の戦力は実にありがたい。逆に言えば、彼等の迷宮攻略を帝国が後押ししていると取られかねない、痛し痒しな問題である。
ならば解決策としては至極簡単、エル達がこの街から離れる事である。
だからこそエルはその答えを口にすることが出来ないでいる。
「……………………………………」
ルフトは、8歳の身でその洞察が出来るエルに対して内心感嘆し、そして未だ8歳であるからこそ、その決断が下せない事に同情する。
沈黙が続く中、いい加減飽きてきたのか、ルディが口を出す。
「そんなに心配なら、いっそ一筆書いてもらったら?」
「何────?」
「だから、エルは現在帝国のいかなる権利も有していない。何があろうともその責任を誰かが負うことは無い、とでもさ」
中々に無茶の過ぎる提案だが、それが帝国の公式見解だというのであれば少なくとも煩い口を塞ぐことは可能だ、デメリットさえ受け入れるというのであれば。
デメリット──つまり、命の危険。
大々的に公表する必要は無いにしても、少なくとも4国の息のかかったコミュニティと探索者ギルドには通達する必要がある。そうなれば当然、帝国の貴人であるエルの身辺は穏やかでなくなる事は間違いない。
そこまでしてジン達と行動を共にするのか、その2択に──
「お願いします! 近日中に正式な書類は用意いたしますから!!」
エルは即答した。
「いやいやエル坊、流石にそれは無茶が過ぎる。何より──お前の身が危険に晒されるって事は、彼女達は命を懸けてお前を守る事になる。無駄に犠牲を強いるつもりか?」
ジンの言葉は底冷えするような冷気を伴って耳に届くが、エルはそれを真っ向から受け止め言い返す。
「そんなの今さらですよ。僕の事は既に裏では色々出回っているはずです、だったら逆にこちらが不利になる情報を与えて、向こうが二の足を踏むように仕向けます」
「なるほど……俺好みのいい回答だ」
キッパリと言い放つエルの態度に、ジンはニヤリと笑みを浮かべると、エルは嬉しそうにこちらも笑顔で返す。
そんな2人のやり取りを見ながらルフトはルディに耳打ちする。
(なんと言うか、アレは本当に8歳の子供か? 帝国の皇族相手にあれだけ言いたい放題のジンも大概だが……)
(ジンは関心の無い相手にはヘコヘコ下手に出て関わろうとしないけど、仲の良い相手にはあんなもんだし、これはと認めた相手には敬意も払うし色々便宜も図るんだ……だから、安心していいよ♪)
(……そうか、それは嬉しい事を聞いたよ)
ルディの言葉に安心したのか──10歳の子供に太鼓判を押して貰って安心するルフトも変わっているが──改めてルフトは、エルに先程の質問を繰り返す。
「ではエル、きみはあくまで個人として我等のコミュニティ「異種混合」と共にイズナバール迷宮の攻略に力を貸してくれる、それでよろしいかな?」
「はい……いいえ、僕はあくまでジンさんの側で色々と勉強をしたいと思っているだけです、迷宮に潜るのはたまたまで、デイジー達はそんな僕の護衛をしているだけです」
「うむ、それで構わない。では改めてよろしく、我等「異種混合」は貴殿たちを歓迎する……ああ、書類は早めにな」
「はい!」
ガシッ──!
ルフトから差し出された緑青の手を強く握り返すエルを見て、ジンとルディもそれに重ねるように手の平を乗せると、4人で頷きあう。
そしてその後、ホールでいまだ飲めや踊れやの連中の前に立ったルフトは、その場で正式にジンとエル達のパーティが、名目上は個人依頼扱いだが、自分たちの傘下に入り迷宮踏破を目指すことになったと通達する。
そして同時に、高級素材の手軽な採集方法とそれに伴うギルドからの専属以来、潤沢な運営資金をジンの口利きでそれが叶った事も話すことで、ジン達は反対意見も無く受け入れられた。
そして改めて迷宮踏破とコミュニティの繁栄を誓い、宴は夜通し続いていった。
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