転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

文字の大きさ
188 / 231
5章 イズナバール迷宮編

252話 同類

「シュナさん、ゲンマさんのサポートを」
「はい!」

 シンは、シュナがゲンマの傷を治しているのを確認すると自分もポーションで骨折を治し、魔力回復薬を飲んでマントの効果を発動、ヴリトラの眼前に並ぶ。

(ゲンマの超人剤が切れるまで2分ちょい、それで仕留められれば苦労は無いんだが)

 内心の不安を隠しながらヴリトラに向かって余裕の笑みを浮かべるジンは、

「そんじゃ、そろそろ終わらせようか?」
『どこまでも舐めおってえええ!!』

 ──ブゥン!!

 唸りを上げてシンに迫るヴリトラの腕はしかし、

 バシイ!

 シンの狼牙棒ドラゴンテイルのフルスイングと相殺される。

『ぐう!!』
「あぐっ……」

 円錐状の無数の突起スパイクで前腕を打ち据えられたヴリトラは苦痛の声を、そして全力を出した反動で両手両腕の骨が砕けたシンは苦悶の表情を上げながらそれでも睨みあう。
 力比べは互角か──否、
 今の一撃でシンは両腕が破壊されたのに対し、ヴリトラは弾き返されただけ、しかも、

 ──ヴォン!!

 ヴリトラの腕は2本ある、反対側から唸りをあげながら迫る爪は怪しく光る──

 ドスッ!!

 頭上からルフトの魔弓ミーティアから放たれる鉄杭がその掌の比較的薄い鱗を突き破る。
 さらに足元では

「っりゃああ!! ──イテテテテ」

 その脛をゲンマの持つ轟雷牙が浅く斬りつける。

『く……有象無象があ!!』

 激昂するヴリトラは頭上にブレスを、足元は尻尾を、それぞれ2人に向けて放つが、ブレスはリオンに相殺され、狙いもつけずに振るう尻尾はかわされてしまう。

「うおおおお──っとと」
「なに逃げてんのよゲンマ! さっきみたいに斬りなさいよ!!」
「無茶言うんじゃねえ! こっちも腕が折れたり滅茶苦茶なんだぞ!?」
「そんなのアタシが治してあげるわよ!!」

 足元で言い合う2人を睨みつけるヴリトラは、

『……有象無象の分際で我を斬る? 何度もそう上手くいくと思うなあああ!!』

 ──ヴォン!!

 ヴリトラはそう吠えると、再度ゲンマに向かって尻尾を振るう!

「ああああ!? ええいクソ、カウンターストライク!! ──って、え?」

 ──ズバシュ!!

 ゲンマの轟雷牙は1度目の時よりもすんなりとヴリトラの尻尾を斬り飛ばす。

『ぐぬうううううう!? キサマ、よくもおおお!!』

 ヴリトラは更に怒りの雄たけびを上げ、今度は左足を上げてゲンマを踏みつけようとする、しかし、

 ──ザシュ!!

 これもゲンマによって返され、腿の付け根から無くなった左足は出血を強いられる。
 左足を失いバランスを崩したヴリトラは重くなった両翼を何とか羽ばたかせ、飛び上がることは出来ないもののその場で姿勢を整える程度のホバリングは可能だった。

『…………』
「あれ……もしかして、このままいける?」

 斬撃の反動が来るも、骨が折れるまでには至らないゲンマはその顔に自信を漲らせてヴリトラの顔を見上げる。
 それを見たヴリトラはまたも激昂、残った右足でゲンマを蹴り飛ばそうと大きく振りかぶる。

『虫けらがあああ!! シンドゥラ、こやつを排除した後はキサマの番だ!!』
「なんだ──?」

 シンはあまりにも短絡的なヴリトラの行動に疑問を持つが、それが何なのか分からない──だから反応が遅れた。

「おおおおりゃああああ!!」

 ──ザンッ!!

『ぐうううおおおおおおお!!』

 ヴリトラの右足は左同様に腿から斬り飛ばされ、その痛みとバランスを崩してヴリトラはその場に前のめりに倒れこむ。
 そして同時に、

「ああああああああああ!!」

 さすがに3度目は耐え切れなかったのか、両腕の骨が砕けたゲンマが絶叫をあげる。

「今さら折れた……? ──まさかヴリトラ!?」

 痛みに蹲るゲンマを見ていたシンが振り返って見たものは、

 ──バサアッ!!

 両足と尻尾を失い体を軽くした・・・・ヴリトラがハンドスプリングで飛び上がり、弱々しくも必死の羽ばたきで頭上のリオンに飛びついた姿だった。

『捕まえたぞ、臆病者共が!!』

 ガブリ──

『うああああああ!!』

 リオンは今度は肩口よりも深く、首の付け根を食いちぎられてバランスを崩すと、羽ばたきを止めたヴリトラの重量も重なり、地上に落下する。

「──ぐあっ!!」

 リオンの背に乗っていたルフトもそのまま地上に投げ出されると、左肩から地面に激突して悲鳴を上げる。
 ヴリトラの猛威は留まらず、

『我を見くびった報い、その身で味わうがよいわ、”天雷”!!』
「やべえっ、”ゲート”!!」

 ──カッ!!

 シンが転移門を発動させた直後、ヴリトラを中心に半径100メートルの範囲に一条の光が降り注ぐ。
 天雷──ヴリトラの通常振るう無数の雷が束ねられた1本の雷の柱は、ヴリトラの身体ごと周囲をその電撃で焼き尽くす!!
 そして、

 シュウ……シュウ…………

 焼けた地面からは蒸気が上がり、草は蒸発、土も所々ガラスのように変質する中、

『──なるほど、転移門ごときで逃げられるとは思わなんだが、そう使ったか、しかし』

 シンの作った転移門はゲンマ、シュナ、ルフトの3人の頭上に展開されており、頭上から降ってくる雷を他所へと逃がす事で直撃を避けるようにしていた。

『足手まといを庇って自分は直撃とはな……愚かな事を』
「ハ……丁度肩がこってたんでね……おかげで少し軽くなったわ」

 手足にはめた魔道鎧アトラスの防御結界で幾分か威力は減衰させたものの、直撃のあおりを受けて地面に這い蹲るシンの姿がそこにはあった──。


──────────────
──────────────


 憎い──全てが。
 身勝手な口上で我等を虐げた勇者が、その勇者に敗北した己が、暴走する勇者を監視する為だなどと己に嘘をついてまで命乞いをした自分が、勇者に対抗する為とはいえ仲間を喰らって力を奪った事が、結局再戦する事無く勝手に人間如きに誅された勇者が。
 そして──勇者と同じ世界から来た魂を持つこの男が。

『惨めよな、そんな役にも立たぬ有象無象を庇って動けなくなるとは』
「別に……役立たずでもなけりゃあ有象無象でもねえさ……一緒に手前を討つ仲間だって言ってんだろ、ヴリトラ」

 仲間、仲間と言うたか!

『なにが仲間か、この中の誰一人としてキサマに並び立とうとする者など居らぬではないか!!』

 我に対して攻撃する手段を持たぬ小娘に、自らが傷付くのを恐れて剣を振るえない小僧、遠くから矢を射るしか出来ぬ臆病者に、魔竜の分際で己が攻撃が貴様を巻き込むことを危ぶんで遠巻きに見ておるだけの無能、どこに仲間がおるというのか!?
 違うであろう!
 キサマにとって仲間とは、キサマと同じ場所に立てる者とは、ただ勝つ事を見据える事の出来る者であるはずだ!!
 勝つ為ならば手足を何度でも折ればよい、身体を苛む痛みなど、敗北の屈辱、命乞いの恥辱に苛まれる心の痛みに比べれなんと生ぬるい事か! そんな事すら耐えれぬ者がキサマの仲間なものか!
 反撃を恐れて遠巻きに攻撃する者が、味方を巻き込むのを恐れて敵を仕留めにこれぬ者がキサマの仲間であるものか!
 キサマと並び立てる者は、敵の喉笛に噛み付くためならば己の身体を切り刻ませて身軽になって飛べるような、そして、

『ぐむぅ……』

 ブチブチブチブチ──!!

「ちっ……イヤな解決策を」
『フン、キサマも我の立場ならばやるであろうよ……ムゥン!!』

 バキャン!!

 重力結界などという煩わしい枷を取り除くためなら、その翼をもぐくらいの潔さの持ち主こそが、キサマと同じ目線に立てる者。
 ──ただ一人、我こそがキサマの唯一無二の同類よ。
 だと言うのに、何故にキサマはそちら・・・側に立っている、我と対立する!?
 癒えることの無い傷を刻まれながら何故、我の側に来ぬ!!

『──傷つく事を躊躇い勝利を取りこぼすようなやつ等を、それでもまだ仲間と呼ぶか! そやつ等にはキサマが見ておる世界など見えておらぬわ!!』
「いつかは見るかもしれない……そもそも見る必要もねえよ」
『まだぬかすかあああ!!』

 ──カッ!!

「……ちっ、詠唱無しで使えるようになったか」

 五体を完全に取り戻した我に向かってシンドゥラが忌々しげに毒づく。
 よくも言いよるわ、これがキサマの使う魔法であるならば、今の我がかなり消耗しておるのも察しておろうに。
 見え透いた芝居ブラフなど、キサマを見続けていた我に通用などせぬわ。

 ──シュン!!

『うぬぅ──!?』

 我との会話の際に薬を飲んだか、初手と変わらぬ速度で我に向かってあの棒切れを振るってきよる。

 ゴッ!!

『ぬ、ぬうううう!!』
「がはっ!!」

 その一撃が我の首筋を強打するが、ヤツは当然のように己の骨の砕く。
 それでも折れた指で棒切れを離さず、しかし我の振るった腕に絡まり弾き飛ばされる。
 く……有象無象は排除できたが、その代償に身体の動きがかなり悪うなっておる。今の状態ではヤツの攻撃を捌ききれず最終的には……確かに、仲間などとは認めぬが、それでも勝利の為の布石としては機能したか、腹の立つ。
 だが我とてこのまま負けるわけには……む、なんだアレは?
 我は視線の遥か先に5つの人影を見つける。

『シンドゥラめ、この期に及んで伏兵を忍ばせておいたか……そうはいかぬ』

 策を弄する前に叩き潰してくれるわ!

 バサッ──!!

 ………………………………。
 ………………………………。

 ────ズゥン!!

「ひゃあ!!」
『キサマらがシンドゥラの奥の手か?』
「へ……シンドゥラ?」

 ……ただの空回りか、くだらん。良く見ればどれも大した強さは感じられぬな。

『そうか──ならば死ね』

 ──ブン!

「うおおおおおお!?」
『────ぬ』

 ──ブン!

「うおおおおおお!!」

 何だと? 我の爪を2度もかわした、この虫けらが?
 ────まさか。

 ──スゥ

「みんな右へ逃げろ、ブレスが来るっ!!」

 ────見つけたぞシンドゥラ、キサマに対抗する手段を。
感想 497

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。