リス獣人の溺愛物語

天羽

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【本編】5さい

11話 ラディの家族

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俺を肩に乗せたラディは広い廊下の先にある大きな扉をコンコンとノックをした。

少しして扉が開くと、いい匂いと共に優しい顔つきのお爺さんが迎えてくれた。
姿勢が良く長身で黒のスーツを着ている……きっと執事さんだろう。

お爺さん執事がラディに目を向けてから今度は俺と目が合うとにこりと微笑んだ。


「お待ちしておりました。さぁ、旦那様と奥様、弟君のライオネル様がお待ちです」


「あぁ、遅れてすまない」


ラディはお爺さん執事に一言声かけるとそのまま俺を肩に乗せてダイニングルームへと足を進めた。






「父様、母様、ライオネル、お待たせしました」


ダイニングルームには既にラディの家族であろう人間がテーブルを囲み、侍女に椅子を引かれ着席したラディが無表情な顔つきで告げた。


「ピ!!」
(うおぉ!うまそうだぁ!)


花柄の刺繍がされる綺麗なテーブルクロスの上には、見た事のない美味しそうなご飯が置かれ、漂ういい匂いに俺の小さな黒い鼻がピクピクと動く。


……それにしても……


俺はラディの家族に視線を向ける。


ラディも凄く美形だけど、この家族なら納得だなと感心する。

ラディの父ちゃんは、騎士様なのだろうか…体格がよく銀色の髪は後ろに撫で付けオールバックにしている、隙がないイメージ。
そして顔が良い。


ラディの母ちゃんは金色のウェーブがかかった髪で、おっとりとして物腰柔らかそうなイメージ。
同じく顔が良い。


ラディの弟は銀髪にくせっ毛なのか髪の毛がふわふわしている。
俺と歳は近そう。クリクリの目が可愛い。
やっぱり顔が良い。


「ラディアス、待っていたぞ……その子が拾ってきたリスか?」


ラディの父ちゃんが俺に視線を向ける。


「ピュ!!」
(はじめまして!!)


俺はラディの方に乗ったまま短い片手を上げて挨拶する。


「ほぉ、これは驚いた」


「父様、この子はリツと言います。昨日簡単にはお話しましたが、外部稽古の帰りに森から飛び出すリツを発見し保護しました。数日間何も食べていなかったようでかなり弱っていたので連れてきました。
飼い主が見つかるまで私が面倒を見てやりたいのですが良いでしょうか?」



「ピュ?」
   (ん?)


ラディの話に俺は疑問を覚える。


何で家族なのにそんなに畏まって話すんだよ。
もっと俺と話す時みたいに砕けて話せばいいのに。


そう思いラディの父ちゃんを見ると、何故か少し寂しそうな顔をしていた。


「あぁ、それは別に構わない。稽古や勉学も手を抜かずしっかりとやるように」

「はい、ありがとうございます」


そう言うと、暫く沈黙が訪れた。


そんな沈黙を破ったのはラディの母ちゃんだった。


「それにしてもリスちゃん……あ!リツちゃんだったわね!スカーフも巻いてすごく可愛いわ。まだ子供かしら?珍しい瞳をしているし、本当にただのリスなのかしらね?」


「ピ!!」
(おれ、じゅうじんだ!)


「はい。リツはとても賢いし、それに珍しい瞳をしているので、私も獣人なのではと思ったのですが、先日先生から、獣人は産まれて数ヶ月の内に獣人化出来るようになると教わったので、リツの大きさから考えてそれは無いかと……な、リツ」




ラディは少し笑みを浮かべて俺の顎下を人差し指で撫でた。


「ビー……」
(おれ、じゅうじんなのに……)


その時、俺の小さくて丸い耳は確かにラディの父ちゃんと母ちゃんの声を拾った……「ラディアスが笑った」と。
きっと獣である俺だけにしか聞こえ無かったはずだ。


……ラディ、俺の前ではすごく良く笑うのに、代わりのいないただ一つの大切な家族の前では何で笑わないんだよ……。


……いつか失ってしまった時に絶対に後悔するぞ。
そう思いながらラディの綺麗な髪を少しだけ引っ張ってやった。


「そうよね~、でも本当に可愛いわ!後で私の所にも来てちょうだい。リツちゃんの綺麗な瞳、もっと近くで見たいわ」

手を合わせながら笑顔で言うラディの母ちゃんはとても綺麗だった……まぁ、俺の母ちゃんにはあと一歩及ばないけど。


「おれも!おれも!」


可愛らしい高い声で手を上げるラディの弟。
確か……ライオネルだ!

ライオネルは俺をじっと見つめると、ふにゃりと笑って「かわいいねぇ」と言った。


「ピピィ」
(ぜったいおれよりもおまえのほうがかわいいぞ)


ライオネル……今日からお前は俺の弟だ!
そう思いながら俺はライオネルに短い腕を伸ばした。


「わぁ!かあ様かあ様!リツがおれのほうむいた!」


ライオネルは笑顔で俺に小さい手を振っていた。



……だが、そんな可愛いライオネルが数年後に急成長を遂げる事を俺はまだ、知る由もなかった。
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