リス獣人の溺愛物語

天羽

文字の大きさ
上 下
17 / 120
【本編】5さい

13話 予感 sideカオン・グラニード

しおりを挟む



私、カオン・グラニードはグラニード公爵家の主人だ。

また王国騎士団の団長でもあり、これまで数々の魔獣討伐の遠征にも出かけた。
皆を指揮する立場であり、常に冷静に物事を判断しなければいけない。


……しかし、今日起きた事は私の中でも予想外で現実が受け止められず、妻のパール・グラニードと揃って時間が止まったかのように動けなくなってしまった事は情けなくもしょうが無いと思う。





食事が終わった後の自室ーーーー




「あなた……リツちゃんって…」


「あぁ……かなりの確率であの子はだろう」


執事に紅茶を入れてもらい、妻と話す。

一部始終を見ていた執事も内心驚いている様だったが、それが表に出ることはなかった。
その姿に流石だと拍手を送りたくなったのは私だけの秘密だ。


「でも、何故獣人化しないのでしょう……魔力も感じなかったし」


そうなのだ。

獣人は私達人間と違って身体能力が高い代わりに極端に魔力量が少ない。
だが、大人の獣人と違って子供はまだ魔力を自身の身体にしまい込む事が難しく、いくら少量の魔力でも私達が感知出来ない筈がないのだ。


だが、あの子からは魔力を何も感じない。


「だが、あの瞳は……」


そう、あの瞳は魔力量の多い証。

そして、昔は人間や獣人と共存していたの色とも似ていた。


ただの獣が持つはずのない瞳の色と能力。
一部の獣人からも卑下される小型獣人の子供が何故あの様な色を持っているのか……聞きたいことは山ほどあるが、今のあの子は言葉を喋ることが出来ない。

私は小さくため息を吐く。


「ねぇ、あなた……もしかしてあの子は敵国が送り込んできたなんて事ないわよね……だってそれしか危険を犯して獣の姿で人間を騙すような事しないと思うのだけれど……」


私もそれは考えた。

獣人は本来の獣の姿は心を許した人にしか見せないと聞いた。
遥か昔、獣人との共存を決めたこの国には、勿論騎士団の中にも数多く獣人の兵が居るが、団長である私でさえ1人として本来の獣の姿を見たことは無い。

なんでも理性よりも本能が強く出てしまうらしい。


グラニード家は王家との交流も深い。
その為、潜り込む理由は幾らでもあるが、そこまで考えて私は首を横に振る。


「いいや、あの子はまだ子供だ。警戒心もさほど無かったし、食事にも誰よりも先に手をつけていた。その線は薄いだろう……それに……」


私はまだ幼いながらにも大人っぽい雰囲気を纏うラディアスを思い浮かべる。


「それにラディアス……あの子はまだ7つにも関わらず、人の作意に敏感で、善し悪しを測ることの出来る優秀な子だ。そのラディアスがあの子リスには優しい表情で話しかけるのだ、それはないと私は思う」


「確かにそうね。それにしても、魔力を感じないのは不思議よね?ラディもリツちゃんに魔力を感じなかったから、リツちゃんが人間ぽい事をしても、ただのリスとして疑わなかった訳だし……」


「あぁ、でもあの子はきっと獣人にはかなり珍しい、魔力が高い子だと思う……それこそ私たちよりも遥かに。保護された時の状況からして、何らかの形であの子の身体の中で魔力が圧縮し、閉じ込められているのかもしれない。
近々、魔導師ギルド所属の知人に連絡してあの子リスを見てもらうように手配しておく」


「そうね、それよりま~たギルドの知り合いですか?」


パールは意地悪な笑みを浮かべる。


「い、いいだろ別に。アイツらの方が気を使わずにいれて居心地がいいんだ」


「ふ~ん、まぁあなたのことは昔から何でも知っているし、今に始まったことでは無いのだけれど」


無邪気に笑うパールに俺は1つ咳払いをする。



カオンは若かりし頃、窮屈な家が嫌でよく平民のフリをしてギルドの依頼を受けていたのだとか……。



「ふふっ……それにしても、いつも無表情で大人っぽいラディがリツちゃんの前では無邪気に笑うの見て、私正直…嬉しかったのよね。
リツちゃんが居ればあの子も何か変わるんじゃないかって」


「あぁ、そうだな。あの子には今よりも幼い時期から色々と重荷を背負わせてしまって私も苦悩していたからな……私の若い時のように窮屈な家だと思って欲しくはないが、立派な後継者となるよう詰め込みすぎてしまって反省している。あの子リス……リツ君がラディアスにとって癒しになればいいのだが」



……リツが居れば何かいい方向へと変わる気がする。
そんな確信に近い予感を胸に私とパールはお互いを見つめ笑みをこぼした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪魔に祈るとき

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:16,877pt お気に入り:1,324

いっぱいの豚汁

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:1,192pt お気に入り:0

天使志望の麻衣ちゃん

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:1

なんで元婚約者が私に執着してくるの?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:11,395pt お気に入り:1,875

【短編集】あなたの身代わりに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,107pt お気に入り:579

処理中です...