リス獣人の溺愛物語

天羽

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【本編】5さい

30話 リツと庭師

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庭へ到着して、その広さに俺は目を輝かせる。

この家に来て早1ヶ月と少し。
ラディが心配性なのか外に出たくても、危ないから、迷子になったら大変だからとあまり外へは行けなかった。

ずっと行ってみたいと思っていたグラニード家の大きな庭園は草木や花が丁寧に育てられていてとても綺麗だった。


「ピュキュキュ!」
(ボブ~、連れてきてくれてありがとな!!)


「ワフワフッ!」


お礼を言いながら小さな手でワシャワシャと撫でるとボブは嬉しそうに応えた。


俺はゆっくり歩くボブに乗りながら庭を眺める。
所々にピンクや黄緑のベンチがあったり、もう少し進むと花のアーチがトンネルの様にいくつも続き、その先には華やかなガゼボがあった。


(大きな御屋敷でお金持ちそうだと思ってたけど……ここまで凄いなんて……俺なんてただの貧乏村人だったのに……これからラディの事、ラディ様って呼んだ方がいいのかな……)


柄にもなくそんな事を考えていると、家の方から庭へと出てくる侍女の声が響いてくる。


「リツ様!!リツ様どこですか!!!お戻りください!!……あぁ、どうしよう……ラディアス様がお留守なのに……」


最後の声は咄嗟に漏れた言葉のようで、獣の俺達にしか聞こえないくらい小さな声だった。
その声はすごく落ち込んでいるようで可哀想だったーーーーしかし!ここまで来た以上もう少し庭で遊びたい!
そう思って侍女に謝りながらも、見つからない様に隠れながら探索を続けた。



「ピュァピピ~」
(そういえば、にわのていれをするがいるんだよな~、すごいな~こんなにきれいにていれして)

俺も村にいた頃鉢植えで花を育てていたことがあった。
……まぁ、村の子供にぐちゃぐちゃにされたんだけどね。

あの時は辛くて沢山泣いて、もう育てないって思ったけど、ここの人達はすごく優しい人ばかりでそんな事する人はいないからまた育てたい。

そんな事を思いながら綺麗に手入れをされて生き生きと太陽に向かって伸びる花たちを眺めていた時ーーー。


「ん?こんなとこで何してんだ?」


そう声をかけてくる聞いた事のない声音に俺は持ち前の人見知りを発揮してビクリと身体を動かす。

だが、友達のボブは何だか嬉しそうで尻尾をブンブンと振り回していた。


「ピュァ……?」
(な、なんだ……?)


俺は恐る恐る顔を上げると目の前には俺と同い年くらいのベージュ色の髪を後ろで1つに結んだ少年が居た。


「おーボブ!久しぶりだな!……ん?リス?ボブはリスの友達が出来たのか?」


「ワフッ!!」


「へへっそうか、良かったな~。ほらほら、怖くないぞ……おいで」


少年はボブの上にいる俺に向かってニカッと笑う。
その無害そうな笑顔に俺は少しずつ近づいていくと、少年に優しく顎を撫でられた。
少年の慣れた撫付きがとても気持ちよく「キューン」と声を漏らすと「へへっ気持ちいいか~」と嬉しそうだった。


「俺はヘレスって言うんだぜ!6歳だ!!お前はーーーん?……リ、ツ?……もしかしてこのスカーフの刺繍お前の名前か?」


「キュ、キュー!!!」
(そうだ!おれのかあちゃんがつくってくれた!)


俺は宝物を自慢したくてスカーフを自慢気に見せびらかす。


「そうか!リツなよろしく!俺はここの庭師だ……と言っても、ただ父さんに着いてきてるだけだけどな!!
……俺、花とか作物育てるのが好きなんだ!それにグラニード公爵夫人のパール様は、よくこの庭園をよく褒めて下さる。とても広い庭でやり甲斐もあるし、良い人達ばかりで俺はここが大好きなんだ!」


少し照れたようにはにかむヘレスは自分のやりたい事に向かって頑張っていて輝いて見えた。


「ピューーー!!」
(ヘレスすごいよ!おれおうえんする!)


身体の全てを使い応援を表現しているとヘレスが「ぷっ……」と吹き出して笑う。


「あはははっ!面白いリスだな!そういえばラディアス様がリスを連れてきて大切にしているって言ってたっけ……?お前がそうなのか?」


「ピ!!」
(うん!ラディにたすけてもらったんだ!)


「やっぱりな~、じゃあこんな所に居ないで早く帰ってやらねぇと!ラディアス様が心配するぞ?日も暮れてきたし……それに、なんか屋敷の中騒がしいし……」


「……ピ!!」


そう言われ意識を向けると……確かに、なんかやばい事になっている。

俺はその状態に慌て、ボブを見ると……特に気にしていない様子でニコニコしていた。

……クソ!脳天気なやつだ俺の友達は!!
まぁ、そんなとこも可愛いんだけど。


もうなんでもいいやと開き直り、ボブを撫でていると、俺の目の前に、どこか威圧感のある影が俺とボブを覆う。


「リーツー……」


「ピュ!?!?」
(こ、このこえは……)


ギギギ……と鳴るように恐る恐る振り返ると、ニッコリと笑ってはいるが笑っていない……明らかに怒っているラディが腕を組み仁王立ちしていた。


「どうしてうちのリツはこんなにも僕を心配させるのかな~?ねぇリツ、僕に何か言うことは?」


「ピ、ピピッ……」
(ご、ごめん…なさい……)


ボブの上で震える俺を見て「はぁ……」とため息を吐くと、困った様に眉を下げ微笑んだ。


「本当にもう……まったくリツは、どれだけ僕を心配させたら気が済むの?リツが居なくなったって聞いて心臓止まりそうになったよ……ボブも!リツを連れ出してはダメだろ?」


「クゥーン……」


落ち込むボブと俺を見て「ふっ……」と呆れた様に優しく微笑むと、俺を持ち上げお腹とおでこにキスをするラディ。


「……ん?君は……」


そう言って目線を向けるとビクッと肩を動かすヘレス。


「ご、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。
邸宅の庭師である父のアドルフと共に御庭の手入れをさせて頂いております、ヘレスと申します」


先程の砕けた言葉遣いと打って変わってしっかりとした所作で挨拶するヘレスに驚く。


「ヘレス……そうか、いつも庭の手入れをありがとう。母もとても気に入っている。これからも宜しく頼む」


「はい、ありがとうございます。父にも伝えておきます」


「それと、リツの世話をしてくれていた事にも礼を言う。怪我や迷子になっていなくて安心した」


「とんでもございません。俺は何もしていませんので」


ヘレスがそう言うと「では……」と言って俺を肩に乗せたラディはその場を後にした。
ボブもラディと俺の後に続き歩き出し、その表情は耳と尻尾を力なく垂らし少し落ち込んでいるようだった。


不意にヘレスの方を見る。

パチリと目が合うと、ニカッと笑ったヘレスは両手を口元に当てーーーー


「ま・た・こ・い・よ」


と口パクで言って小さく手を振った。


……また来ていいんだ……。


何だか心が暖かくなって、俺も小さな手をヘレスに向けて振った。




ーーーーーその夜。



「リツ!勝手に外へ出てはいけないって言っただろ」


「ピ……ピュィ……」
(う、ごめんなさい……)



ラディにめちゃくちゃ怒られました……。








ーーーーーーー
次回から10歳!!!
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