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10さい
38話 ラディの師匠
しおりを挟む「それでは行って参ります」
「ピュキュ!」
(いってきまーす!)
「行ってらっしゃい、稽古頑張ってきなさい。
リツちゃんも楽しんできてね」
「えー…リツ行かないで俺と一緒に勉強しよ?」
「お前は1人で授業に行け、ライオネル」
「うわっ、兄様怖い」
黒いオーラをモヤモヤと出して怒りを顕にするラディは確かに怖くて、その表情を俺に向けられたら震える所だったと思う。だがそれと同時に、そんなラディの言葉に冗談ぽく返すライオネルの鋼の心は素直に尊敬する。
「さ、リツ行こうか」
俺に声をかけラディは馬に騎乗する。
10歳から乗馬訓練を行っていたラディ。
才能があったのかラディは直ぐに乗りこなし、始めてから2年程度しか経っていないにも関わらず、かなりの速度で走れる様になっていた。
因みにライオネルも少し前から習い始めているようだ。
剣術稽古の為、動きやすい様に黒のハイネックに黒のパンツ姿のラディの腰には剣が差してある。
ラディは首元から小さな革製のポーチをかけると、その中に俺を入れて馬の手綱を強く握りしめた。
「夕刻までに戻ります」
相変わらずの無表情でそう言うと、ラディは馬を走らせ屋敷を後にした。
。。。。。。
グラニード公爵家が治める土地は自然豊かで、遠くから見た街並みも整備が行き届き、のどかな場所だった。
グラニード家は代々騎士の一族で武力に長けていると言うのは皆が知る事実。
それに加え、冷酷無慈悲で恐ろしいとも噂されているみたいで、それを恐れてグラニード領地で悪事を働く人は殆ど居ないのだとか。
ラディが外部稽古に護衛を連れて行かないのは、そんな理由や、ラディ自身同年代の子に比べてもかなり腕が立ち、成人した騎士にも負けない強さがある事で必要無いと判断したらしい。
……なんでも、外部稽古で教えて貰ってる師匠って言う人は、傭兵ギルドのギルドマスターで、もの凄く強いみたい。
魔導師ギルドのギルドマスターであるハビー先生と知り合いってだけでも凄いのに、ラディの父ちゃんは一体何者なんだろうかと少し怖なった時もしばしば……。
そんな事を考えながらもラディと俺を乗せた馬は公爵領を抜け、平原をかけて行き、大きな木々や草花が生える自然豊かな森へと進んで行った。
「リツ、もうすぐ着くよ」
馬車の時はもう少し時間がかかっていたようだったが、馬を走らせると想像より早く着くみたいだ。
俺はキョロキョロと辺りを見回す。
「ピュ~」
(うわぁ~綺麗だ)
稽古場と聞いて、俺はもっと闘技場みたいな……ゴツゴツとした石壁の建物の中とかで剣術稽古をするのかと思っていた。
……しかし、俺が見た光景は、可愛い子鳥のさえずりと木漏れ日が地面へと綺麗に輝くのが印象的な自然豊かな森だった。
耳を澄ませば近くに川があるのか、なだらかで落ち着く音を奏でていた。
そんな森の中にポツンと一軒家。
ラディはこの一軒家の前で馬を止めるとサッと降りた。
「ここだよリツ……さぁ、師匠に挨拶しようか」
俺に向かって笑みを浮かべると、少し大きめな一戸建ての家のドアをコンコンと叩く。
「……師匠、僕です。本日もよろしくお願いします」
ラディが無機質な声でそう言うと暫くしてドアが開く。
「おーはいはい!もうそんな時間か……ってお前!まだ全然早いじゃねぇかよ!!ちょっと待っとけ!」
ハリのある低く深い大きな声に俺は少しビックリしながらも声の主を確認する。
……おぉ、これは……大男?ゴリラ?……筋肉すっげぇ。
2m以上は確実にある身長に、ゴツゴツの筋肉で横幅もすごいことになってる。
上半身裸のその男は目元や身体のあちこちに大きな切り傷の様な傷跡が沢山ある。
いかつい顔も相まってかなり怖い……。
この人に持たれた日には俺なんてゴマ粒だよ……。
握りつぶされて死んじゃうよ……。
そんな事を考えブルブルと震えていると、家の中に1度戻ろうとした大男の師匠は、俺に気付いたようで視線を俺に向ける。
「おぉー!!お前がラディアスの言ってたリス獣人か!なんだか想像よりもだいぶちっこいな!!!」
至近距離で大男の師匠に見つめられ、俺は更に震える。
「ちょっと師匠!リツが震えているのが分からないんですか!!離れてください」
怒りを顕にしたラディが俺を両手で包んで守ってくれる。大男の視線から逃れた俺は、ドクドクと緊張した身体を落ち着かせる様にゆっくり呼吸を繰り返した。
「相変わらず生意気だな~まだまだチビのくせしてよ」
「ちょっ!離してください」
大男の師匠がラディの頭をぐしゃぐしゃと撫でるとラディが心底嫌そうに師匠の腕を掴んでいたがビクともしていなかった。
流石、傭兵ギルドのギルドマスターだと俺は感心する。
「そんで、お前リツって言ったな?何やら訳ありなんだろ?俺はガロウィって言うんだ、よろしくな」
「ピ……ピュイ」
(よ、よろしく……)
ニカッと笑った師匠……ガロウィさんはゴツゴツの大きな手を差し出してくる。
俺は未だに震えながらも小さなモフモフの手を出しちょこんとガロウィさんの手に触れる。
「おぉ、こりゃ可愛いな!どうだ?俺ん家に住まないか?」
「絶対に住みません」
デレッとしたガロウィさんの言葉に重ねて、ラディが俺を隠して反対する。
そんなラディに「がはははは」と大きな口を開けて笑うガロウィさん。
ラディはウザそうにしてるけど、何だかんだ陽気なガロウィさんとの相性は良く、仲良いな~と俺は思うのだった。
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