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〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉花街編
【18】四日目――魔法士様と、魔法で −2− ★
しおりを挟む「にゃん……にゃっ、にゃ、なんでぇ、おなまえ……っ。やらやらしたぁっ、から……? ごめ、ごめんにゃさい……っ」
ぐすんぐすんと泣くアリシアを見て我に返ったのか、フィリップの顔がハッとなる。一瞬苦しげに歪んだような気がしたけれど、涙で霞むアリシアの視界ではよく見えない。
彼は「違うっ、ごめん」と力強く言って、彼女の上に覆いかぶさった。
「ふゃ……にゃあぁ、あぁ」
フィリップやユースタスより背の低い、よりアリシアと近い体躯の彼が、上から彼女にキスをする。唇から脳へ、爪先へ、まるで電撃が走ったかのようだった。
「ごめんね、イかせすぎて、唇も敏感になっちゃった……? 苦しい? つらい? 無理させて、本当にごめん……」
「あっ、あぁぉっ、やあぁ――!」
「あれ、今、またイった? すごい潮――」
子どもの頃からしてきたような優しいキスにさえ、雷に貫かれるような快感をおぼえて。本当にまた果てていて。
ただ触れ合うだけのキスに、もう空っぽだと感じるほどにまた勢いよく潮を吹かされて。
(壊れてしまった、駄目になってしまった、おかしくなってしまった……!)
自分でこうさせたくせに心配そうにする紅い瞳と向き合って、アリシアの情緒はぐちゃぐちゃだった。
「ふぇ、潮吹きっ、とまらにゃくて……っ、ごめんらさい……! いっぱい、きもちくて……んにゃ、淫乱でぇ……へん、変になっちゃったぁ……」
「ごめん。泣かせたかったんじゃない。大丈夫。今日も可愛いよ。ごめん……。許してくれ。――アリシア」
耳元で聞こえたフィリップの声に、やっと感じられた彼の存在に、アリシアは縋りつく。ぎゅっと抱きつく。
小柄に見える魔法士様は、意外や意外、触れてみるとがっしりとしていた。
「好き、大好きです……。ふぃり――っ、カルノ様ぁ。愛しておりま――にゃむっ」
いきなりキスで黙らせられ、唾液を啜るように舌を吸われる。アリシアの頭はパチパチした。くちゅくちゅと深いキスを交わした後で、彼は焦ったような悔しいような顔を見せる。
「かりゅ、カルノさまぁ……きもちいぃ……かるのしゃ……」
「だからっ、それ――」
「っ、あぅ」
彼の表情が痛々しげで悲しくて、声が大きくてびっくりして。アリシアはさらに涙する。ちょろちょろと小水も漏れ、身も心もつらいのにまた気持ちよかった。
だらしなくなってしまったアリシアのそこを、彼はちらりと一瞥する。どう思われているのか、それも怖い。
「……、イリス、姫」
「は、い」
ふたりの紅と碧の瞳が、想いを違えたままに交わる。気持ちを探りたいのに、今は見つめあうだけで苦しい。
「……ごめん、言葉が足りなかったな。僕の名を呼ぶなと言ったのは、そういうことじゃなくて」
「へ……?」
魔法士様の色白の顔が、彼の頬が、林檎のように赤くなる。
「すべて僕がしているのは、わかっているんだけど――本当に寝取られているような気になるから」
「えっ」
アリシアが素っ頓狂な声を出すと、彼に差す赤みはさらに濃くなった。
「僕の名を呼んで〝助けて〟と言って、こいつの名を呼んで媚びているようだと、きみを魔法士に犯されているように感じる、から。……やだ」
彼の表情は苦虫を噛み潰したように苦しげで、恥ずかしそうで、不覚にもアリシアはそれにときめいてしまって。
(だって……だって、それは――)
「ごめん、おかしいとは思うんだけど……。ああ、そうだね。もう、今夜はずっと〝僕ら〟でいよう。――僕の名を呼んでくれ。アリシア」
「…………フィリップ様」
「そう、それでいい」
フィリップはアリシアにキスをして、「愛してる」と言ってまたキスをした。耳元ではなかったので、声は彼のものではなかったけれど。それはフィリップの言葉だった。愛だった。
(ああ、良かった……! いつもの殿下の独占欲でいらっしゃいました! 私の淫らさを厭われたのではなかった……!)
安堵のせいか身体の力が抜け、ふわっと楽になる。今夜はもう大丈夫だ、と全身で感じた。
彼らしさと彼の想いを感じられれば、伝わってくれば、もう漠然とした恐怖や不安はない。
(私……〝お客様〟に変えられてしまうのは怖いけれど。〝フィリップ様〟になら、おかしくされたって構わないもの――)
しばらくのキスの後、彼はアリシアの秘処へと手を伸ばす。そっと花芽を撫でて訊く。
「指、中に入れていい?」
「んっ……どうぞ」
「ふふ、何本入るかな」
フィリップは悪戯っぽく笑って、もう片方の手をアリシアの目の前に差し出して。
「彼の手って細いよね?」と意味ありげな口調で言った。
「そうですね?」とアリシアは頷く。魔法士カルノの手はまるで少女のように繊細で、アリシアの手よりちょっと大きいくらいの可愛らしいものに見えたのだ。
「ねえ、アリシア。何本か、一気に入れてみるのはどうかな……? 嫌?」
「いっき、に?」
「いっぱいイかせちゃったから、もう大丈夫だと思うんだよね。ああ、決して傷つけはしないよ。きみの限界は、わかってる」
彼の今の手を見て、記憶の中のフィリップの手を思い浮かべて。しばしアリシアは考えてみる。
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