【R18】オトメゲームの〈バグ〉令嬢は〈攻略対象外〉貴公子に花街で溺愛される

幽八花あかね・朧星ここね

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〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉花街編

【26】六日目――魔王様と、分身と −1− ★

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 ひどく偉大な力をもつ存在と出会った時、並のひとは、きっと、すべてを彼に捧げてしまおうという気になるのだろうと。畏怖の念に心を絡め取られて、目があった瞬間には、もう彼の腕の中にすべてを捕らわれているのだろうと。
 今宵二度目の変身を遂げた彼を見て、アリシアはそう思った。

「お客様……――陛下」
「今宵の我のことは、陛下ではなく〝ザイン様〟と呼べ」
「かしこまりました。ザイン様」

 銀の髪に紫色の瞳をした、麗しい青年――らしい見た目で青楼ファリィサを訪れた彼は、部屋の扉が閉まってアリシアとふたりきりになるや否や、果物の皮が剥けたかのように正体を現した。その中身も結局フィリップであるはずだから、ここで正体と表すのは適切ではないかもしれないけれど。
 娼妓イリスの本日のお客様は、異国の王子のふりをして、このミラフーユ王国に忍び込んでいる男――その真の姿は、この世界の〝魔〟を統べる王。偉大なる〝魔王様〟だった。清らかな川のような銀の長髪に、星降る夜空のような深紫の瞳。
 今の見た目からでは、何歳頃なのかわからない。本人も自分の歳を知らないという。若く瑞々しいようにも、成熟して色気を放っているようにも見える。恐ろしいほどに美しく、尊い存在。
 その雰囲気に圧倒され、アリシアは、まだ責められてもいないのに身体を震わせていた。

「そう怯えるでない。人間どもには〝人食い〟と噂される我とて、そなたを――娼妓の肉を取って食ったりはしない。我が求めるのは、ひとえにそなたの夜であって、そなたの骨や血ではない」
「は、はい……」
「――ああ、そうか。いつものあれが、まだだったな。……おいで、イリス」

 色気と深みのある魔王様の声で、ふいに優しく、彼は娼妓の名を呼んで。黒い衣に包まれた逞しい腕を優美に広げた。

「し……失礼しますっ!」

 アリシアは恐る恐る、その胸元へと近づき――背丈が届かなかったので、彼のお腹へと――身体を寄せる。変身魔法の仕組みをもう教えてもらっているからだろうか、薄布越しに伝わる筋肉の具合からフィリップらしさを感じて、彼女は緊張をわずかに緩めた。

「この身体だと……きみが、いつもより、ずっと遠い」
 魔王様の声のままで、上のほうから彼は言う。

「まお、へっ、いえ、ザイン様は……とても大きくていらっしゃいますものね。まるで子どもと大人みたいな体格差で、ドキドキしてしまいます……」

「ふっ。我はそなたに恋い焦がれているというに、まるで親子みたいだと?」
 またもや演技らしく魔王様の台詞を紡ぐ彼。
「人間と魔族というだけで拒まれ、それでも口説き、やっとのことで心を通わせたのに――煽ってくれるではないか」

「あ、そんなつもりじゃ……っ、――ふぇぇ!?」

 不器用に応えていると、いきなり、ふわっと身体が浮き上がる。背後から誰かに抱きあげられた感覚がして、気づけば彼女の両足はぷらぷらと宙に浮いていた。

「えっ、えっ?」と彼女は目を白黒させる。
『――今日もアリシアは可愛いね』

 背後から耳元へと囁かれた愛しい声に、アリシアはぴくんと身体を跳ねさせた。

「ふぃ、フィリップ様……? で、でも」
「抱っこされている姿も可愛いな」と前のほうから、反対の耳へ注がれる彼の声。
「あれ? へ?」

 アリシアは前を見て、首だけで後ろを振り向いて、行ったり来たりキョロキョロとする。いつ見ても、何度見ても、前にも後ろにも彼がいる。子猫を抱き上げるようにアリシアを抱えた背後の彼と、彼女の薄紅の髪を指に巻き付けて遊んでいる前方の彼。

『びっくりした顔も、とびきり可愛い』と後ろから。
「おい、勝手にこっちの瞳から盗み見るな」と前方から。
「――もちろん可愛いが」どちらもフィリップの声なのに、こちらの彼はなぜか魔王様の言い方のままで。

「ザイン様……ザイン様が、おふたり……?」
「ああ、そうだ。それはそうと、この高さからなら、我が腰を折らずとも届くな……」
「ひゃあん……!」
『もう、こっちの身体のおかげなのに、勝手に先を越さないでよ。ねえ、アリシア。僕にも舐めさせて?』
「にゃっ!? あぁ、ああ……っ」

 まったく訳がわからないまま、両の耳を同時に舌で責められ、アリシアはいつもの夜のように甘く鳴きはじめた。

「んにゃあっ、ふぁあん、あぁ」
「耳だけでこんなに声を上げるなんて、そなたは敏感で可愛いな。ほんのりと染まった耳は、熟れた桃のように愛らしいではないか」
『あはは、腹筋ぴくぴくしてる。感じてくれて嬉しいよ。そろそろ来ちゃう……? ん、いつでもイっていいよ』
「にゃ、にゃ、やぁん、にゃ――っ」

(だめっ、だめ、だめぇ……っ、まだ、下着もドレスも、脱いでいないのに……!)

 ぷしゃああっと吹いた潮は夜着を濡らし、太腿やふくらはぎを伝って、浮いた爪先からぱたぱたと床に落ちていく。

「ああ、耳に好いイキ声だ」
『きみの声を聞くだけでも気持ちいいよ』

 幾夜も幾夜も潮吹きとともに絶頂させられたせいで、吹き癖がついてしまったのかもしれない。

「ふやぁん、にゃん……やぁっ!」

 背後の彼にグイッと腰を押し付けられ、前の彼の下半身へと、アリシアは潮を浴びせてしまう。かけられた彼は「うっ」と声を上げ、彼女のだらしない小穴を塞ぐように、濡れた箇所を押し当てた。

「にゃっ、やあ、ごめんにゃさいっ、にゃあ」

 前からも後ろからも、布越しに硬いものが触れてきて、彼女を責めるようにすりすりと動く。それらは同時にドクドクと震え、彼らの甘い声と一緒に、アリシアへと熱を伝えた。

(うっ、嘘!? もう……!?)

『ああ、アリシア。可愛い。可愛すぎて、もう射精しちゃった……』
「我が姫アリシア。伝え遅れたが、今宵のドレス姿も綺麗だな。ドロドロにする前にもっと見ておけば良かった」
『僕も綺麗だなって思ってたよ。きみは、毎晩、どのドレス姿でも素敵だった』
「とにかくだ、今日は――」

 ふたりのわれで、可愛がってあげよう――……と。
 ふたりの魔王様は、声を重ねて言いのけた。
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