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〈ヒーロー〉と〈悪役令嬢〉編
【69】花街にて −2− ユースタス・セルナサスは覚悟する。★
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ぱちり、とユースタスは目を開けた。ここはシシリーが勤めている娼館だ。
とちゅ、とちゅ、とリズミカルに、彼自身が刺激されている。ぶるっと腰が震えて、また目を瞑る。
(いや、まだ夢かもしれないな……)
シシリーが寝込みを襲うとは考えにくいし、と。ユースタスは眠気と快楽に呑まれていく。
(夢精したら、あいつに笑われそう……俺、酔って……眠り薬……知らん娼妓が無理やりってこともないだろし……あの魔法士のやつ、若者をいじめるなよ……)
フィリップやシシリーが死ぬ、どうしようもないエンディングへ導こうと動くこともあった呪い――神や精霊やシナリオとの戦いが終わってから、彼は、シシリー以外の女をひとりとして抱いていない。
やれ、あの娘に手解きをだの、あの女を探れだのと、シシリーやフィリップから頼まれることがなくなったからだ。
城下の花街の人たちはもとよりユースタスの想いを察しているようで、遊女たちも胸を当てたりしてからかいはするが、夜のお相手をとまで誘ってくることはない。
実の兄妹なのに、花街のみんなに、王太子夫妻にと、なぜか外堀を埋められている。シシリーと一緒になるように導かれている。
(シシリー……俺の可愛い妹……)
今日の宴会でも、先日の宴会でも、最中に彼女の視線は感じていた。カールと酒を煽ってからは眠気でよくわからなくなってしまったが。
ああして熱烈な視線は向けてくれても、彼女は心を見せてくれない。何度と肌を重ねても、まだ心の全部を許してくれない。
自分の愛が好感度というカタチで彼女にバレていることはわかっている。自分の愛のそれだけは誤魔化せないと知っている。
ユースタスはシシリーが大好きだ。めちゃくちゃに可愛くて愛おしい。
ただ、今も、躊躇と葛藤が残っている。
「にーさま……にいさま……」
なんと都合のいい夢なのか。生々しく可愛らしいシシリーの声がしてきた。甘い音色のかわいい声。
「あぁ、シシリー……大好き……本当に好き……」
「あら、にいさま……起きたの……?」
「ん……おきた……? あ……?」
会話が成立したから、というか、生々しさがすごくて。ユースタスは再び目を開けた。どっと冷や汗を掻いていた。
これは夢じゃない。のんびりご奉仕されている場合ではない。
「ま……待って、待て、シシリー、どうした!?」
「兄様……きもちい……ユウ兄様……」
「ああ、俺も気持ちいいよ。それはいいんだが。なぜ騎乗位で……あぁ、それ、淫紋……か? いや、そうだな。淫紋だな?」
ユースタスとシシリーはふたりとも裸ん坊になって、ふたりきりで交わっていた。
下腹部に淫紋を光らせたシシリーはふにゃふにゃに笑って、ユースタスの上に乗っている。
彼の雄槍を根本までずっぷりと咥え込み、奥の奥まで触れるように動いている。
(この様子……自分でやったのか? え? なんで?)
気づいたらセックスが始まっていたという衝撃の展開に、ユースタスの頭は疑問符の生成が止まらない。が、いつまでも混乱していてはいけないな、とも片隅で感じていた。
相手がシシリーとなれば、なおさら優しく扱わなければならない。いや、優しくしたい。自分が気持ちよくさせたい。
傷つけないように、尊重して。ずっと大切にしたかった。ふわふわの綿で包むように愛したかった。
「えっと、シシリー、そうだな、頑張って動いてくれてありがとう。疲れただろうし、体勢を変えようか?」
「ん……これ、きもちいい……」
「そうだな、気持ちいいな……」
彼女の中は元気にうねり、子宮口は彼と触れあうたびに吸い付くようだった。彼女はもう何度か果てているのかもしれない。
「赤ちゃん欲しいの……ユウ兄様と……もう妊娠しちゃうの……」
「ああ、避妊薬がなかったら、孕ませちゃいそうだな……気持ちいいな……」
「……飲んでない……よ?」
「ああ、そう、おまえはそんなに飲んでないのか……俺はめちゃくちゃ飲まされて酔い潰れてたが――何を飲んでないって??」
「避妊……ない……」
「は……?」
シシリーはニヤリと蠱惑的に笑んで、がばっとユースタスに抱きついた。体勢が変わったことで秘処の擦れ方も変わり、ユースタスはあられもない声を出す。
「あぅ! はぁ、あ、シシリー……何て……?」
「赤ちゃんが欲しいの」
「…………ちょっと、一度、話し合おうか」
「はなし……?」
ぽわぽわと惚けたシシリーを抱き返し、「動くよ」と伝えて正常位に変える。
「兄様かっこいい……」とユースタスより酔っぱらいらしいシシリーの声を聞いた後で、自身を抜こうと、
「だ、めぇっ、抜いちゃ嫌ぁ」
「あっ、おい!」
したのだが。
シシリーは両脚をユースタスの腰に引っ掛け、ぎゅううっとしがみついた。離さなかった。
「あぉ、奥、おくぅ……、はっ、あぁっ、あぅ――!」
「シシリー……ッ、おい、やめろ、出るから」
「兄様……ユウ兄様……」
「待って、本当に、出る、でる……っ」
ユースタスは必死に思考をめぐらせ、萎えるようなことを想像した。離宮の魔法石に保存されていた悲惨な道のこと、フィリップがアリシアを手にかける展開、そしてシシリーが――
***
「ふう……耐えた……うぅ……」
深いため息を吐くユースタスの顔を見て、シシリーはハッと我に返る。
(あ、兄様、正気に戻られてしまった……?)
無理やり膣内に出させようとしていた自分が、途端に恥ずかしくなった。
「な、なんで、抜こうとするの……? いつもすぐ中で出すのに……馬鹿兄様……」
「その言い方だと、まるで俺が早漏みたいじゃないか。いつもすぐ中に出してなんかない!」
シシリーとて、早漏と言いたかったわけではない。
そもそもユースタスはぜんぜん早漏じゃない。
何度も肌を重ねて慣れていくにつれて、彼からの、かつての遠慮めいたものは溶けていた。
最近では平然と膣内に射精している、ように見える。そう取り繕われている。いっぱい出してもらえている。
「俺は早漏じゃない……そうだ……まだ、できるな」
とユースタスは思い直したように頭を振り、汗をきらきらと床に散らせて。ゆっくり、シシリーの蜜窟をとんとんしはじめた。優しく、優しく。
一世一代の告白、のつもりで始めたこれだが、やっぱりまだ伝わっていないらしい。無理もない。
「兄様……これじゃ、イけない……もっと、」
「飛ばれたら、困るからな。――で? 赤ちゃんが欲しいのか? 淫紋もそのための? あの方たちを見て、羨ましくなってしまったのか」
「きっかけは……そうだけど、そうじゃない……」
「ちゃんと言え、シシリー。どうして、避妊薬を飲まなかった。俺の子種をもらおうとした」
「私も……赤ちゃん……欲しい……」
「それは、俺の子が、か。それとも、自分の子が、か。赤ん坊ならなんでもいいのか。どうなんだ」
「なんでそんなに問い詰めるの?」
「大事なことだからだ」
ユースタスの声は、怒りを孕んでいるようだった。シシリーだって、悪いことをした自覚はある。怒られて当然だとも思う。でも……
「いいから……中に、出してぇ……」
「今日は、中では、出さない」
「なんでっ!」
「淫紋のせいにされたら、困るから……っ、だから、それ、締め付けたりするな! やめろ」
「やっ、やぁ、やぁよ、中じゃないと、いや、嫌ぁ」
「シシリー、ワガママしないでくれ。今度、また」
今度なんて、ない。
弱虫のシシリーに、そんなのない。
「今日じゃなきゃ、駄目なの……ッ、こんなのに頼らないと素直になれない、言えない……」
「シシリー……?」
ユースタスの声色が怖さを帯びても、シシリーは彼の子種をねだるのをやめなかった。彼を離さないようにぎゅっとして、中もいろいろと動かした。
「ずるいって、悪いって、わかってる。まさに悪役令嬢だって、わかってるの。でも、こうでもしなきゃ、私、兄様の子が欲しいなんて言えない……っ」
「……シシリー」
「前世、お兄ちゃんに殺されて、つらくて、虚しくて。私だって、結婚とか、子ども、とか、したかったし。お兄ちゃんが、変なことしなきゃ……、恋愛も、ふつうにできたのかなって、今も思うし。悪役令嬢だけど……悪役令嬢なのに……妹なのに……兄様のこと、すき、になっちゃった、から。……好きなの、兄様。好きなの」
「ほんとうに?」
聞き返すユースタスの声は、打って変わって、どこか子どもっぽかった。シシリーは強く頷いて、彼女の願いを彼に伝える。
「ユウ兄様の赤ちゃんを、私に生ませて」
「……シシリー」
「兄様のモノにして、全部。兄様の赤ちゃん、おなかに欲し――ああっ!」
彼の動きが、変わった。
あえて外して、ゆっくりと持久戦のようにしていたのとは違って。
知り尽くした彼女の弱いところを、彼女の好きなやり方をして責めてきた。
「覚悟はできているんだろうな、シシリー」
「っ、うん、あぁっ」
「本気で孕ますからな」
「うん!」
「泣き言を吐いても、迷っても、もう逃さない――」
青紫の瞳が、ギラリと光って。
シシリーを睨みつけるように、捕まえた。
***
(王弟が、あのクズが、前世のあいつの兄が、昔からずっと俺の〝敵〟だった)
本当は、ずっと、好きだと認めさせてみたかった。
前世の兄に暴力をふるわれるのが日常で、最後は彼に殺されてしまった可哀想な彼女が、今世でも〝兄〟に怯えているのは知っていたのに。
彼女が〝兄〟を好きになるのは、ものすごく難しいことだと、知っていたのに。
初夜の時は、求めたくて、ねだりたくて。
でも、求めてしまわないように……、頑張った。
――違うなら、違うと言ってくれていい。拒絶してくれていい。だが。
――勘違い男だと罵ってもいい。結局、俺が実の妹に手を出したことは変わらない。俺だって変態かもしれない。
――でも、俺のことを好きでいてくれたのではないか。シシリーは。
そう、追い詰めて。好きって言わせたかった。好きって鳴かせたかった。甘く、高く喘ぐ声に、愛が乗るのを聞きたかった。
「俺は、おまえを愛しているよ。シシリー。心の底から。ものすごく」
「あっ、あ……私も……好きよ……」
ぐりっと親指で花芽を擦り上げ、徹底的に彼女を気持ちよくさせる。とろけるように。幸せなように。
――大人びたところに惹かれることもあった。可愛らしく甘えられると嬉しかった。
「傷つけたくない、笑っていてほしい、幸せになってほしい。前世があっても、意味不明な【バグ】でヒロインの能力があっても。おまえの努力は努力だ。チートだとか、才能だけじゃない」
――努力する者は、美しい。おまえは、今も、昔も、ずっと美しい。そして可愛い。
花街関係で一緒に居たら、まあ……。俺とて、色香に惑わされたことも、あったな。実は。
「おまえが俺を愛そうと、前世のおまえの苦しみや悲しみは否定されない。たとえ血の繋がりや兄妹という関係性が同じでも、俺とあいつは違う人間だ」
「、はい」
「おまえが好きなのは、このユースタス・セルナサスであって、べつに兄だから好いたわけでもないだろう? 俺だから、好きになってくれたんだろう?」
「そう、です。――ユウ兄様。愛してる」
「俺も、おまえを愛している。シシリー。前世の忌々しい枷と添い遂げることじゃなく、俺を選べ。おまえは、今世は、俺と、生きろ」
――おまえの前世と違って、この世界では、近い血の子づくりに問題はないんだろう? 調べたらそうだったと、以前おまえが言っていた。あの時から、ちょっとは想ってくれていたのか? 考えてくれていたのか?
なんて、やっとの思いで伝えてくれた、今は問い詰めないでおくが。
「頑張ったな、シシリー」
一度、彼女の頭をよしよしと撫で、また大人らしく触れていく。血の繋がった実の妹と、子づくりをする。
「俺は、おまえと添い遂げるよ」
周りに囃されても、幾人から応援されても、これは、並の道じゃない。
茨の道だと、わかっている。
社会は、世界は、きっと人の一生分くらいでは変わらない。
やがて魔王になるフィリップと、その妃となるアリシアなら、いつか変わった世界も見られるのかもしれないが。ユースタスとシシリーは、異端の彼らほどの時を生きはしない。
――でも、俺が、茨を切り裂くから。
すべての棘は無くせずとも、俺が全力で平らげた道を、おまえと歩んでみせるから。
だから、どうか、この手をとって。
これからも俺とキスをして。俺を愛して。愛させて。
俺のせいで幸せになってしまえ、悪役令嬢。
「最高に幸せにするよ、シシリー・セルナサス。
俺の可愛い妹。俺の最愛――」
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