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終章
32
しおりを挟む「あのな、前からクレーム来てるんだよ。この間も、他の男性利用者を部屋に呼んで、ちょっかいかけてただろ?」
「あら? そうだっけ?」
手を口元に当てて誰かしらとすっとぼけた口調で思い出すふりをはじめた。
サルースでは、原則身内以外の人間を、自室に入れるのはNGとなっている。
職員の知らない所で、利用者同士の人間関係のトラブルや盗難や事故などを防止するためである。
利用者の部屋はほとんど個室なので、基本的にカーテンだけ閉まっている状態にしている。
入所時から何度か職員に注意されるが「勝手に入ってきたの。私は人気者だから」「おとーさんいないから、さみしいの」の一点張り。
ルール違反を常習的にしているということだ。
発覚の経緯は、シーツ交換や掃除に回っている女性と男性スタッフ達によるものだった。
彼らは障害があり、コミュニケーションや臨機応変が苦手な人も少なくない。
普段はグループホームに住んでいて、そこからサルースに通っている。
グループホームの職員が、彼らのお金やお菓子が増えているのに不審に思い、聞いたところ「お金やお菓子貰った」という話。そこからサルースの職員達へ話が回った。
周子の部屋に行くたびに、男性利用者にちょっかいかけてるのを見て「これでおあいこね」と言わんばかりに彼らにあげていた。
彼らが困っている顔を見て楽しんでいた。
緊急面談として、サルースの現場リーダーとグループホームの彼女達の担当者、そして彼女達を呼んだ。
よくも悪くも彼女達は素直なタイプで、施設でのルール違反以外にも、他の利用者達やスタッフ達への嫌がらせを見たとバンバン出てきた。
彼女達はシーツ交換で、ベット上の物の配置に細かく指定され、それ通りじゃないと「おつむの弱い子達だから仕方ないね」とか「どんな育ちしたらこうなるの」と追い詰めていた。
齟齬のないように、現場リーダーに手伝ってもらって、タブレットで写真撮って、それ通りにおくとやっていたが、毎回微妙に位置が変わっていることが多かった。
1人は「周子さんが意地悪するから、行きたくない」と漏らしていた。
元々10人いたが、周子が来てから、2人ほどやめてしまった。
容姿や見た目のことを貶されたり、仕事の出来について言われるので、精神的に追い詰められるようになったからだ。
彼らは勤務年数が長いベテランで、周子が来る前は、利用者達やスタッフ達から、仕事面で評判よく、可愛がられていた。
しかし周子が来てから、口数が減ったり、失敗が増えるようになり、彼女の部屋に行った後は憂鬱そうな顔をしていた。
元気ない彼らをスタッフ達はもちろん、利用者達も心配していた。
あるスタッフは周子の顔を見ると怖がるようになった。
またあるスタッフは、周子に嫌味言われているのを見て、陰でこっそり泣いていた。
利用者がその一部始終を見ていて、慰めていた。
面談で周子の生活態度がバンバン出ててきた。
施設側も黙ってるだけでなく、見つけたら声をかけるものの、すぐにすっとぼけたり、開き直るので、手をこまねいていた。
ただひたすら記録をつけるしかなかった。
「そんないじめてないというのなら、職員さん達に聞こうか? これから面談があるんだから。結花もしっかり話聞いてな、お前の将来の姿かもしれんぞ」
少し口角があがる良輔に、結花は「なによ! うるさいわね」と甲高い声を出す。
良輔から「静かにしろ」と冷たく突き放された結花。
ゆいちゃんは世界一可愛いから、娘と孫に囲まれて、一生愛されキャラでいるの
だいたいお母さんが意地悪なんてするわけないじゃん。
それやられる方が悪いのよ。お母さんを不愉快にさせた罰よ!
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