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終章

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面談は2階の小さな会議室だった。
 結花と良輔、そして杖をついた周子。向かいには大磐だ。

 周子さんですね、施設内では人気者です。
 いつも誰かとお話されています。
 しかし、少し気になることがありまして。
 息子の良輔さんには以前から何度かお話してます。
 まず他のご利用者さん達への嫌がらせのお話です。
 周子さんが入所されてから、何人か利用者の事故がありました。
 息子さんから頂いた差し入れを一緒に食べようとした後に、アレルギーで体調不良になった方が2人。
 最初は知らずにやっていたそうですが、それが何回も続いてました。利用者本人もすっかり忘れている所もありましたが、職員がチェックしている隙をついて、そのアレルギー持ちの利用者にこっそり混入させていたのです。その食品というのが、クッキーなんです。卵入りの。

 あと、夜間中に男性利用者を入室させているんです。その話し声が結構大きいものでして。
 他のご利用者達――特に両隣の利用者達からクレームが来ています。
 巡回中の職員達も何度か見かけては、声描けていますが、これも隙をついて、すぐに男性ご利用者を入室させています。
 ここでの生活で、身内以外の入室はご遠慮頂いています。
 事故やトラブル防止の観点からです。
 これは、入所時の生活ルールの書類にも書かれています。それを守って頂くことを署名して、承諾したという扱いになります。
 1回目ならともかくですね、周子さんの場合何回も、常習的にやっています。
 ここは確かにルールに厳しい所があります。
 周子さんに合う所がもっとあるのではないでしょうか。
 
 大磐の口からでるのは周子の生活、遠回しの退所のお願いだった。
「えー、お母さん、人気者なんだから、夜ぐらい、部屋に連れ入れるぐらいさ、いいじゃん?」
 大磐の話に対して、結花は周子を擁護する言葉を出した。
 周子も「そーよ? 勝手に来るのよ? 鈴木さんも、石田さんも……私のことが好きだからねぇ。それにちょっと寝れないからおしゃべりに付き合ってるだけよ? 恋愛感情? そんなのないよ。 まー、からかうのは楽しいけどねぇ」
 周子は頬に手を当て、見逃せと言わんばかりに、ふふと笑う。
「それにねぇ、りょうちゃんが持ってきたお菓子をみんなで分けて食べたいだけよ? 1人じゃ無理だもの。それがたまたま、アレルギーになっただけよ? そんなの自分で理解しているんだから、勝手に食べたんでしょう。そこまで見てられないわ。ねぇ、ゆいちゃん?」
 しれっと食べた本人が悪いと話す。

 周子の言い分に良輔は言葉を失う。

 うそだろ? これ、悪気がないということか?
 俺が差し入れに持ってきたお菓子で、利用者がアレルギーで、体調不良になった。
 母のことだ。他の人に配るのは確かにありそうだ。
 昔から色んな人にいい顔したいのか、お菓子や金品を配っていた。
 それで自分がいいことしたと思っている。
 妹のトラブルも金品やお菓子を持って渡して、解決したつもりでいる。
 それが相手の苦手なものだろうが、断ろうがお構いなしだ。いわゆる押しつけというものだ。
 それで困惑した姿や断っている姿を楽しんでいる。
 息子の私から見ても、うちの母は性格が悪いと思う。
 いわゆるナチュラルボーンクズ。自覚のない加害者。
 世間話というのも、あれは相手の弱点を探しているだけだ。
 そこを無意識について、陰で密かに楽しむ。
 一言でいうとかなり陰険だ。
 母の性格の悪さでスタッフ達が、利用者達がどれだけ振り回されているのだろう。
 夜間に男性利用者を無断で入室させて、お話しているの話を最初電話で聞いた時に、まじかよと声だした。
 その男性利用者達にも家族がいるだろう。
 もしそういうのが表沙汰になったとき、双方で揉める可能性がある。仮に大磐さんが間に入ってくれたとしても、こじれる可能性もある。
 しかも男性利用者”達"だから余計質悪い。
 複数いるわけで、何人いるのかと、思うだけで頭を抱えたくなる。
 男性利用者達とその家族に頭をさげないといけないのである。
 もちろん家族のいない人もいるだろうが。
 
 俺は自分の家族の生活と父のメンタルを優先して、母を入所させた。
 妻に極力母とは関わらせないようにさせたかった。
 父も長年母のわがままと性格の悪さに辟易してたから。
 その性格の悪さは妹にがっつり継がれている。
 父としても母を見るとトラブルメーカーの妹がちらつくだろうし、その逆もしかり。
 男漁りさせるために、母を入所させたわけではない。
 
 これ以上、母の無意識な嫌がらせで、他の利用者達やスタッフ達のメンタルや人間関係をめちゃくちゃにさせたくない。トラブルを起こしたくない。
 大磐さんの言うとおり他所に行った方がいいのか?
 しかも今いるとこ2件目だし。
 他に受け入れしてくれるとこなんてあるのか?
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