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終章
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しおりを挟む川口さゆり(80)
私は呉松さんの部屋の隣なんです。
毎晩、おじちゃん連れ入れておしゃべりしてる。
呉松さんが来てからなかなか眠れなくって。
男性利用者は日替わりね。社食のメニューよ。
職員さん達に注意されたら、いーじゃんって。
なんて言えばいいかしら、穏やかな口調なんだけど、すっごい嫌味ったらしいの!
以前ね、私の杖を使って歩いてるの職員さんが見つけたの。
あれ、名前を孫がシール貼ってくれて大事にしてたの。
私が部屋にいない隙を狙って、持って行ったの。しかも名前シール剥がれてたの!
呉松さんに聞いたら、シールを上からテープで貼り付けるのなんてみっともないし、字が汚いから、剥がしたって。
あんなキャラクターもののシールはダサいって。
信じらんなかった。あの人のみっともないという勝手な理由でよ⁈
長く使ってたからシールがボロボロになってたしね。
あれは2年生のひ孫が1年生の時に、覚えたての漢字で、私の名前書いてくれたの。
可愛いひ孫がつたない字で頑張って書いてくれたからね。そりゃ嬉しいよ。
あの人にとっては、汚くってみっともないものかもしれないけど、私にとってはひ孫からささやかなプレゼントだと思ってるの。
それをいとも簡単にあの人は壊してくれた。
そうそう、この間後藤さんが転んだでしょ?
で、呉松さんが大声出して職員さん呼んでたわ。
後で彼女が言ってたんだけど『後藤さんの杖を"拝借"して、私の部屋までに取りに来れたら、返してあげるってやったら、こけたの』って。
すっごい怖かったわ。
まるで世間話するような感じだったもの。
後藤さんが必死で取り返そうとする姿を楽しんでて。
ほら、後藤さんって自分で歩けるようになろうと、よく立ち上がったり、歩いたりして、転んでるでしょ。
すごい気持ち分かるの。
職員のお兄さんお姉さんの負担にならないよう、頑張ろうって。
それで職員さん達が電話で謝ってるのを見てて。
もしかして、呉松さんそういうの分かった上で、わざと杖を自分の部屋に持って行ってたんじゃない?
あの人の性格ならあり得そうよ!
呉松さん、結構、職員さん達や他の利用者達の会話とか動き、よく見てるし、盗み聞きしてるよ。
だって、私と息子や娘家族の面会の時、息子や娘婿にちょっかいかけてくるの。
うちの娘と結婚してくれとか、いい人いたら紹介してよって、邪魔してくるのよ。
職員さん達は呉松さんに言ってないし、そう聞いてる。
あの人が職員さん手籠めにして、教えてるのかしら?
そういえば、誰だっけ?
若いお兄さんいるでしょ? 少し前に来た子よ!
夜だけかしら? 昼間はあんまり見ないけど。
背が低い、坊主頭の、ちょっと気弱そうな人……西海さん、だっけ?
あの人が教えてるのかも。
男性を夜部屋に入れるのを黙っとくように言われてたり、私達の家族の面会の時間教えてって強く言われてるのかもね。
それはそれで大丈夫なんかしら?
西海さんって方、少し前まで引きこもってたって話を自分からしてたわ。
夜は職員さん2人だけだし、大変よね。
呉松さん、昔っからあんな感じって聞いてるの。
私の友達の美世子ちゃんが、長年呉松家でお手伝いさんで来てたの。
優しいし、話上手だけど、仲が深まった頃に、恩に着せて相手を脅すみたいな感じだって。
みよちゃんは、自分の子供の進学費用を支援してあげるって言われて、断ったみたいだけど。
ある人は、会社の資金繰りがいまいちになって、呉松さんから支援されてたそうよ。
言うほど高い金額ではなかったし、1回だけだったみたいなんだけど、それ以来、ずっとそれを引き合いにして、今度は呉松さんの家に金銭的な支援するように言われたんだって。
末娘なんて、本当は家事出来ないのを隠して、みよちゃん達にやらせて、それを自分でやった風にして、夫と結婚したんだって。
結婚後も、呉松さんとみよちゃん達が出入りして、家事やらせてたの。
呉松さんと末娘は、みよちゃん達にコーヒーいれさせて、なーんにもしないの。
で、末娘の気に入る味じゃなかったら、コーヒーぶっかけられるって。
呉松さんはニコニコ笑って「みよちゃんが悪いんでしょ」って後始末させるの。
いつもみよちゃん言ってた。
『あの末娘はアラフォーになっても、コーヒー1杯、自分で用意せず、私にさせるのよ。気に食わなかったら八つ当たり。あれで、よく結婚できたもんよ。まぁ、家事できないのに、私達に家事させて、家庭的な自分を演出させてただけだし。あれに末娘の旦那は騙されたのよ。奥様もいい年して末娘から離れたくないのか、しょっちゅう出入りしてるんだし。逆だったらすぐ離婚よ。されても不思議に思わない』
みよちゃんの言うとおり、呉松さんはちょっと怖いというか、性格悪いと思う。
他に被害者いると思うわ。
応援ありがとうございます!
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