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31,いざ王立学園へ

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王立学園へは馬車で片道20分程度なのでクリスお兄様と話しているとあっという間だ。
クリスお兄様は寮に入っているが、今日だけはと一緒に来たのだ。

馬車を降りると黄色い声が聞こえる。
「クリスフォード様!おはようございます。」
「今日も素敵ですわ、クリスフォード様」

いきなりクリスお兄様に対する熱烈な声。やっぱりモテるのね。格好良いもの。
黄色い声を完全にスルーしてクリスお兄様は私をエスコートしながら、手の甲に頬を寄せる。

「何かあったら僕を頼ってね。」

家族は皆こうするがさすがに人前では恥ずかしい。

「人前ではさすがに恥ずかしいですわ、クリスお兄様」

「ん?虫除けだよ。」

と話す様子は、周りにはまるで恋人同士のように見えた。そしてそのことに気がついていないのはエリナリーゼただ一人だ。



(うわぁ、ドキドキするなぁ。貴族の子供とか怖い人いそうだし、いじめられたら嫌だなぁ。)

クリスお兄様と別れた後、そんな事を思いながら受付の方へ行く途中で声を掛けられた。

「あなた、クリスフォード様とはどういうご関係ですの?見たことありませんが、新入生なのですか?」

そこには燃えるような赤髪に吊り目が特徴の女生徒が私を睨んでいた。その両脇には二人の女生徒、いわゆる取り巻きがいる。さっきクリスお兄様に完全無視されていた女子生徒達だ。
私は初めて同年代の同性から声をかけられた言葉に衝撃を受けた。本能丸出しで攻撃をしてくる様子は野生の動物のよう。なんと醜いことだろう。
相手にもしたくない。高音ボイスがキンキンとうるさかったのでミュートの魔法をかけてスルーだ。

(はぁ~、いきなり喧嘩を売られるなんてほんと最悪だわ。)

今度こそ受付へ行くと、男の人が私を見てなぜか固まっている。
どうしたらいいのか困っていると、もうひとりの受付の女の人が私を見て案内しようとしてくれるが、

「中等部はこっちからの入場よ。」

と言われてしまった。

確かに小さいけどね、小さいけども。
高等部の制服着てるのに…

「高等部の入学式なのだけど…」

「えっ、あ、すみません。」

「あと1年で10センチは伸びる予定なの」

「ふふっ。」

笑われてしまった。
さっきから微妙に失礼だけど、悪意は感じられないのでスルーしよう。これでもスルー力には自信があるのだ。

「これでも毎日牛乳飲んでるのよ?なんで伸びないのかしら?」

「あははっ!気にしなくても可愛いから大丈夫よ。」

「私より背の低い人を知ってる?」

「うーん、あんまりいないわね。特に貴族だと女性でも背が高いから。」

「確かにあなたも背が高いわね。」

「私は騎士コースだからね。」

「あなたは騎士になるの?」

「えぇ、そうよ!」
そう言う彼女はとても誇らしげだ。

「そうなの。頑張ってるのね。陰ながら応援させていただくわね。」

「こんな可愛い子に応援されたら妬かれちゃうな。」

「私は騎士が好きなの。女性騎士なんてすごく格好いいわ!ねぇ、また話したいわ。どこに行けばあなたに会えるかな?」

「ん?騎士の練習場にいることが多いかな。でもあんまり話せないかもしれないよ?」

「そうなの?でも騎士の練習場って興味があるわ。時間を作って行ってみるつもりよ。」

「そう?まぁむさ苦しいところだけど、よかったら来てみてよ。あなたが来たら大騒ぎになっちゃうかもしれないけど。…っと、こんなに話してると入学式遅れちゃうね。名前は?」

「エリナリーゼ・リフレインよ。」

「えっ…?」

「え?」

「エリナリーゼ・リフレインって、アンダルト騎士団長のご令嬢の…?」

さっきまでフランクに話していた彼女は、驚きを隠せない表情だ。

そこへ、カイルが息を切らしながらやってきた。

「エリィ!いなかったから探したよ!早く来ないと始まっちゃう、こっちだよ!あ、ニーナ!今日は俺行けないからよろしくな!」

ニーナさんというのか、この人。

「ではまたね。」

そう言い残して入学式の会場へ入った。
残されたニーナともうひとりの受付の人は唖然としていた。

「今のお方がエリナリーゼ様…」





入学式は恙無く終わり、教室に移動する。

私の顔はほとんど知られていないので、特に誰にも話しかけられることはない。たださっきからチラチラと見られていることだけは感じている。

どうしようかな、と思っていたらカイルが手を振りながらやってきた。

「エリィ!一緒の学園で学ぶことができて嬉しいよ。これからは毎日会えるね!」

「カイル!同じクラスかしら?」

「いや、残念ながら同じクラスではないんだ。でもあとで学園を案内させて?」

「あらほんとに?ありがとう!」

同学年にカイルがいてくれて本当に良かったと、入学式の会場を出たところで話をしていると、いつの間に来たのか、

「エリィ!入学おめでとう!」

と、ヴィークも声を掛けてきてくれた。学年違うのに気遣ってくれるなんて優しいな。

「これからオリエンテーションだよね?」

「えぇ。」

「ではその後、高等部を案内するよ。」

「いえ、学園は私が案内しますよ。先に約束しましたし。」

「そうなのか?でも高等部なら私の方が詳しいと思うよ。」

ヴィークとカイルがなぜかピリピリムードだ。2人とも笑顔なのに顔が怖いわよ?

「じゃあ3人で行きましょうよ。」

と提案してみる。

「………」

「…あぁそうだな。」

カイルが不満げだ。
どうしたんだろう?

というか周りの視線が痛いな。あの子誰?的な嫉妬の視線。ヴィークもカイルも格好良いから、モテるんだろうな。
あれ?なんか私、最初から目立ってない?
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