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約束の場
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二人が通されたのは、誓約の宮と呼ばれる場所だった。控室はあるが、実際の誓約を行うのは天井の高い小広間。
中央には水盤が清らかな水をあふれさせており、囲むように立会人がきている。
立会人は、神殿の神官とスチュワートの家族、そして誓約の魔女と呼ばれる一族の者だ。
王族はさておき、神官が基本的に白っぽい衣装なのに対し、魔女は漆黒のマントに同じ色のフードを深くかぶってなんとも怪しげな佇まいだ。
「早速ですがスチュワート王子、こちらへどうぞ」
見覚えある老神官が呼び掛けるのに、鷹揚に頷き返して足を進める。その後ろから、ライラがちょこちょこと小走りについてくる。仕草の一つ一つがとても可愛らしく、スチュワートとしては笑みが抑えきれない。
だがその場にいる他の者たち、彼の両親などはいっそ冷ややかなほど真顔だ。神官たちも無言ながら困惑している様子で、あまり雰囲気が良くない。
そのことに気づいたスチュワートはむっとして一同を睨んだが、父からは睨み返され母には素っ気なく目を逸らされる。神官たちは無言のまま、二人が来るのを待っていた。
その隣で『魔女』だけはすっぽりフードをかぶって佇んだまま。こちらを見ているかさえわからない。
明るい光の満ちる誓約の宮で、その真っ黒づくめの姿は不吉な異物のように思われる、のだが。実際のところは魔女は神殿の女神官から派生したと言われている。神の言葉を市井に伝える、そんな役割を持つ者だと。
その魔女と神官の間に設えられた誓約の陣にスチュワートとライラが入ると、老神官が一歩進み出て言う。
「では殿下、ライラ嬢。……誓約の儀を始めますぞ」
厳かな言葉と共に、両脇に控えていた神官がそれぞれ錫杖を掲げる。先端に取り付けられた凝った細工の水晶が、射し込む光にきらめいた。
『……∽ゑβヶ∀Ξй£……』
神官の祝詞は、古代の神聖言語と呼ばれ、只人には理解できない。その言葉を長々聞かされると、何だか眠くなってくる。
さすがにスチュワートは眉間に皺を寄せながら耐えていたが、隣のライラは俯いてその頭が時折かくっと揺れた。明らかに居眠りしているようで、かわいそうだがつついて起こす。
彼女がはっと顔を上げたところで、錫杖が勢い良く床に立てられ、金属音を響かせた。
「では、スチュワート殿下、ライラ嬢。誓言を」
ここで二人が誓いの言葉を述べ、神官と家族、そして魔女にその誓いを認められることで正式な婚約が叶う。
実はスチュワート、前の婚約者とも正式な婚約はまだ結んでいなかった。それ故に破棄が叶った訳だが、彼自身幸運だったと思っている。
前の婚約者は美しく身分も高い貴族令嬢だが、取り澄ましていて愛想が悪く、その癖小賢しく生意気なことにスチュワートより学業成績は良かった。型通りの社交には付き合ったものの、常に素っ気なく彼に対する敬いも感じさせない、無愛想な女だった。
中央には水盤が清らかな水をあふれさせており、囲むように立会人がきている。
立会人は、神殿の神官とスチュワートの家族、そして誓約の魔女と呼ばれる一族の者だ。
王族はさておき、神官が基本的に白っぽい衣装なのに対し、魔女は漆黒のマントに同じ色のフードを深くかぶってなんとも怪しげな佇まいだ。
「早速ですがスチュワート王子、こちらへどうぞ」
見覚えある老神官が呼び掛けるのに、鷹揚に頷き返して足を進める。その後ろから、ライラがちょこちょこと小走りについてくる。仕草の一つ一つがとても可愛らしく、スチュワートとしては笑みが抑えきれない。
だがその場にいる他の者たち、彼の両親などはいっそ冷ややかなほど真顔だ。神官たちも無言ながら困惑している様子で、あまり雰囲気が良くない。
そのことに気づいたスチュワートはむっとして一同を睨んだが、父からは睨み返され母には素っ気なく目を逸らされる。神官たちは無言のまま、二人が来るのを待っていた。
その隣で『魔女』だけはすっぽりフードをかぶって佇んだまま。こちらを見ているかさえわからない。
明るい光の満ちる誓約の宮で、その真っ黒づくめの姿は不吉な異物のように思われる、のだが。実際のところは魔女は神殿の女神官から派生したと言われている。神の言葉を市井に伝える、そんな役割を持つ者だと。
その魔女と神官の間に設えられた誓約の陣にスチュワートとライラが入ると、老神官が一歩進み出て言う。
「では殿下、ライラ嬢。……誓約の儀を始めますぞ」
厳かな言葉と共に、両脇に控えていた神官がそれぞれ錫杖を掲げる。先端に取り付けられた凝った細工の水晶が、射し込む光にきらめいた。
『……∽ゑβヶ∀Ξй£……』
神官の祝詞は、古代の神聖言語と呼ばれ、只人には理解できない。その言葉を長々聞かされると、何だか眠くなってくる。
さすがにスチュワートは眉間に皺を寄せながら耐えていたが、隣のライラは俯いてその頭が時折かくっと揺れた。明らかに居眠りしているようで、かわいそうだがつついて起こす。
彼女がはっと顔を上げたところで、錫杖が勢い良く床に立てられ、金属音を響かせた。
「では、スチュワート殿下、ライラ嬢。誓言を」
ここで二人が誓いの言葉を述べ、神官と家族、そして魔女にその誓いを認められることで正式な婚約が叶う。
実はスチュワート、前の婚約者とも正式な婚約はまだ結んでいなかった。それ故に破棄が叶った訳だが、彼自身幸運だったと思っている。
前の婚約者は美しく身分も高い貴族令嬢だが、取り澄ましていて愛想が悪く、その癖小賢しく生意気なことにスチュワートより学業成績は良かった。型通りの社交には付き合ったものの、常に素っ気なく彼に対する敬いも感じさせない、無愛想な女だった。
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