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第3章学園入学
虐めているのは悪役令嬢ではない
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乙女ゲームにおいて、最強にして伝家の宝刀と呼ばれるイベント、それこそは
ーお茶会でのヒロイン虐めー
乙女ゲームの世界において、テンプレ展開発動条件を全て揃えたその時。
必ずと言って良いほど発動するイベントだ。これに抗える悪役令嬢は奇跡と言っても良いだろう。というか、上流階級社会の粘っこい虐めが発生する以上悪役令嬢は抗える隙がない。
つまり、悪役令嬢の私にとって、100害あって1利にもならない、ク…コホン。迷惑なイベントである。
発動条件は当然、ヒロイン、ヒーロー、悪役令嬢、お茶会。これらが揃った時に必ずと言って良いほどにおこる。
損な役回りが確定している私は、当然関わりたくも無い。
このハエが集ってしまうほどカビが生えたイベントを、これまであらゆる手段を用いてしれっと条件を満たさないようにしてきたと言うのに。
予想外な数々の展開によって現在条件をオールクリアしている。
こうなっては仕方がないので、ライザは如何に時間を短縮してお暇するかに重きを置くことにしていた。
そんな訳で、お茶会主催者であるヒロインが戻ってきたのを見計らい、歓迎するふりをして席を立ち上がり、ふらりとわざとらしくよろめいたライザは〝体調がすぐれないのです…〟と言ってこの場を抜けようとした。
だがしかし、皇太子が〝まぁぁあ!?毒をもられたんじゃ無いの!?王宮から爺やを呼んできてちょうだい!〟とかなんとか、何故か大騒ぎしだすので、思いの外大変なことになりそうだと考え直したライザは体調が治ったふりをした。
恐らく第2王子の人柄の信用のなさに、本当に心配してくれたのだと思う。※皇太子に此処まで警戒されるほど、この第2王子は何をしでかしてきたんだと言うのは、想像するのが怖いのでしないようにしている。ーーなんか、人殺し興味あるみたいなこと言ってたし。
ーーと言うか、皇太子の毎度の如く私を巻き込んでくるこの行動は、わざとでは無いと思いたい。そうで無かったら、やはりいつかしばき倒そうと思う。
兎にも角にも、私が綿密に揃えないようにしてきた、お茶会でヒロインを虐めるイベント発動条件は、貴族社会で生きている以上何処かで揃ったとも思えるので、今は気持ちを切り替えよう。
え?私が虐めなきゃ良いって?
そう考えた人は考えがあまい、綿飴みたいにフワフワであまい、あま過ぎて脳みそが溶けそうだ。
私は乙女ゲームに転生して、もう十数年。この世界において、発動条件が揃ってしまえばテンプレの展開は必ずと言って良いほどに繰り広げられ、悪役令嬢としてその展開に必要な私は絶対に巻き込まれる。
全てはそう。わざとなのか、偶然なのか、無能なのか有能かわからないベルン皇太子によってーー…
ーーかくして、お茶会でヒロインが虐められると言うストーリーが今此処に、始まろうとしていたーー
♢♢♢
「折角私が参加してあげているのに。随分と待たせるじゃないの?」
「も、申し訳ございません。まさか皇太子様がいらっしゃるなんて思っても居なかったので…」
「あらあらあらあら、私が悪かったとでも?」
小姑のような言い回しで詰られている気の毒なお人こそ、何を隠そうこの世界の主人公。その名も、イリン・ヒロアニア。このお茶会の主催者である。
彼女はれっきとした乙女ゲームのヒロインで、本来ならこうして虐められて居るところをヒーローである皇太子に颯爽と助けてもらえる筈の人だ。
ーーまぁ、何故かその皇太子が虐めてるので、一向に助けて貰えないのですが…
残りのヒーローである2人の様子を見るため、チラリと視線をやった。
まず、第2王子は既に興が削がれたようで、話を切り出すそぶりは一切なく、節目ガチに優雅にお茶を啜っている。
次に、隣に座っているルイスに視線をやると、私の視線に気づいたルイスと目があった。小首を傾げてニコッと笑いかけてくる。
……まぁ、うん。やはりと言っては何だけれども顔が好みだ。他の2人の存在感も凄いけど、より一層後光が強く見える。
あっつ、室内温度が何だか熱い。変な汗かいてきたかもしれない。
兎にも角にも、ルイスは皇太子とヒロインの会話に興味が無いようだ。
…まぁ、ベルンも気が済んだら解放するでしょう。今度こそ巻き込まれないように、私もなるべく存在を消してよう。
油断すると入学をしたころの二の舞になってしまう。あれは、恐ろしい経験だったーー。
入学式イベントはヒーローとヒロインの出会いがメインとして描かれるが、大体にして悪役令嬢とヒロインの最悪な出会いでもある。
まだあの時、この世界の強制力に対してピュアと言っても過言では無かった私は、まんまとこのイベントを発動させてしまった。
クッキーを配るヒロインに難癖つけ始めたベルンに巻き込まれ、最後はまるで私がヒロインを牽制したみたいな感じに纏められてしまったのだ。
冷静に考えればヒロイン、ヒーロー、悪役令嬢が揃ったらば悪役をやるのは私しかいないのだから展開上仕方ない。
それにしても、だ。あまりに神がかった強制的なゲーム補正にゾッとしたものだ。
ーー私は、同じミスを2度しない、それを胸に刻んで社会人やってきたのよ。
予測不可能な皇太子と言えども、まだ社会経験の浅い世間知らずな10代そこらの若者に過ぎない。
私が気を付けていれば、イベントは回避できるはず!※ライザも前世で社会経験長い訳でもない。
「ちょっと、ライザもなんか言ってやりなさいよ。あんた何分待たされたのよ?」
「そんなに大した時間は待ってませんよ」
「嘘よ!だって招待状には15時開始って書いてあるわ。なのに今何時?16時20分よ、約1時間待ちぼうけさせられたのよ?公爵令嬢である貴方が!たかだか伯爵令嬢に!」
何で呼ばれてもいない筈のお茶会の招待状を貴方が入手しているんでしょうか?ー…と言うのはさておいて。想像以上に皇太子の台詞が悪役サイドっぽい。ちゃんと対応しなければ、ヒロインを嵌めたのは私みたいになりそうで恐ろしい。
「殿下」
ライザは背筋をすっとのばして、ティーカップをそっと置いた。
「花巻時間ーー…と言うのをご存知ですか?」
「…花?いや知らないわ何それ?」
「いいですか?この招待状には〝15時〟とは書いてあるものの、〝15時丁度〟とは書いておりません。つまり、此処に書かれているのは〝大体15時〟とも解釈出来るので、1時間など誤差です」
「それが、花…何とか時間?聞いたこともないわよ。普通招待状に〝15時開始〟と記載したら開始は15時に決まってるわ」
「花巻時間です。王都では馴染みのない文化ですが、地方に行くとそう言う風習もあるのです。心にゆとりを持って行動出来ますからね」
「へぇ~、そんなものがあるのねぇ。確かに時間にカリカリしてもしょうがないものね」
ーーっよし。何とか乗り切った。
前世で待ち合わせに毎度遅れてくる後輩の言い訳がこんな所で役に立つなんて。人生何が為になるかわからないわね。
有難う、前世の後輩。
肩の力が抜けそうになったその時、一度落ち着きをみせたその場で、思いがけない人が口を開いた。
「何で、第2王子とライザを2人きりにしていたの?」
ーお茶会でのヒロイン虐めー
乙女ゲームの世界において、テンプレ展開発動条件を全て揃えたその時。
必ずと言って良いほど発動するイベントだ。これに抗える悪役令嬢は奇跡と言っても良いだろう。というか、上流階級社会の粘っこい虐めが発生する以上悪役令嬢は抗える隙がない。
つまり、悪役令嬢の私にとって、100害あって1利にもならない、ク…コホン。迷惑なイベントである。
発動条件は当然、ヒロイン、ヒーロー、悪役令嬢、お茶会。これらが揃った時に必ずと言って良いほどにおこる。
損な役回りが確定している私は、当然関わりたくも無い。
このハエが集ってしまうほどカビが生えたイベントを、これまであらゆる手段を用いてしれっと条件を満たさないようにしてきたと言うのに。
予想外な数々の展開によって現在条件をオールクリアしている。
こうなっては仕方がないので、ライザは如何に時間を短縮してお暇するかに重きを置くことにしていた。
そんな訳で、お茶会主催者であるヒロインが戻ってきたのを見計らい、歓迎するふりをして席を立ち上がり、ふらりとわざとらしくよろめいたライザは〝体調がすぐれないのです…〟と言ってこの場を抜けようとした。
だがしかし、皇太子が〝まぁぁあ!?毒をもられたんじゃ無いの!?王宮から爺やを呼んできてちょうだい!〟とかなんとか、何故か大騒ぎしだすので、思いの外大変なことになりそうだと考え直したライザは体調が治ったふりをした。
恐らく第2王子の人柄の信用のなさに、本当に心配してくれたのだと思う。※皇太子に此処まで警戒されるほど、この第2王子は何をしでかしてきたんだと言うのは、想像するのが怖いのでしないようにしている。ーーなんか、人殺し興味あるみたいなこと言ってたし。
ーーと言うか、皇太子の毎度の如く私を巻き込んでくるこの行動は、わざとでは無いと思いたい。そうで無かったら、やはりいつかしばき倒そうと思う。
兎にも角にも、私が綿密に揃えないようにしてきた、お茶会でヒロインを虐めるイベント発動条件は、貴族社会で生きている以上何処かで揃ったとも思えるので、今は気持ちを切り替えよう。
え?私が虐めなきゃ良いって?
そう考えた人は考えがあまい、綿飴みたいにフワフワであまい、あま過ぎて脳みそが溶けそうだ。
私は乙女ゲームに転生して、もう十数年。この世界において、発動条件が揃ってしまえばテンプレの展開は必ずと言って良いほどに繰り広げられ、悪役令嬢としてその展開に必要な私は絶対に巻き込まれる。
全てはそう。わざとなのか、偶然なのか、無能なのか有能かわからないベルン皇太子によってーー…
ーーかくして、お茶会でヒロインが虐められると言うストーリーが今此処に、始まろうとしていたーー
♢♢♢
「折角私が参加してあげているのに。随分と待たせるじゃないの?」
「も、申し訳ございません。まさか皇太子様がいらっしゃるなんて思っても居なかったので…」
「あらあらあらあら、私が悪かったとでも?」
小姑のような言い回しで詰られている気の毒なお人こそ、何を隠そうこの世界の主人公。その名も、イリン・ヒロアニア。このお茶会の主催者である。
彼女はれっきとした乙女ゲームのヒロインで、本来ならこうして虐められて居るところをヒーローである皇太子に颯爽と助けてもらえる筈の人だ。
ーーまぁ、何故かその皇太子が虐めてるので、一向に助けて貰えないのですが…
残りのヒーローである2人の様子を見るため、チラリと視線をやった。
まず、第2王子は既に興が削がれたようで、話を切り出すそぶりは一切なく、節目ガチに優雅にお茶を啜っている。
次に、隣に座っているルイスに視線をやると、私の視線に気づいたルイスと目があった。小首を傾げてニコッと笑いかけてくる。
……まぁ、うん。やはりと言っては何だけれども顔が好みだ。他の2人の存在感も凄いけど、より一層後光が強く見える。
あっつ、室内温度が何だか熱い。変な汗かいてきたかもしれない。
兎にも角にも、ルイスは皇太子とヒロインの会話に興味が無いようだ。
…まぁ、ベルンも気が済んだら解放するでしょう。今度こそ巻き込まれないように、私もなるべく存在を消してよう。
油断すると入学をしたころの二の舞になってしまう。あれは、恐ろしい経験だったーー。
入学式イベントはヒーローとヒロインの出会いがメインとして描かれるが、大体にして悪役令嬢とヒロインの最悪な出会いでもある。
まだあの時、この世界の強制力に対してピュアと言っても過言では無かった私は、まんまとこのイベントを発動させてしまった。
クッキーを配るヒロインに難癖つけ始めたベルンに巻き込まれ、最後はまるで私がヒロインを牽制したみたいな感じに纏められてしまったのだ。
冷静に考えればヒロイン、ヒーロー、悪役令嬢が揃ったらば悪役をやるのは私しかいないのだから展開上仕方ない。
それにしても、だ。あまりに神がかった強制的なゲーム補正にゾッとしたものだ。
ーー私は、同じミスを2度しない、それを胸に刻んで社会人やってきたのよ。
予測不可能な皇太子と言えども、まだ社会経験の浅い世間知らずな10代そこらの若者に過ぎない。
私が気を付けていれば、イベントは回避できるはず!※ライザも前世で社会経験長い訳でもない。
「ちょっと、ライザもなんか言ってやりなさいよ。あんた何分待たされたのよ?」
「そんなに大した時間は待ってませんよ」
「嘘よ!だって招待状には15時開始って書いてあるわ。なのに今何時?16時20分よ、約1時間待ちぼうけさせられたのよ?公爵令嬢である貴方が!たかだか伯爵令嬢に!」
何で呼ばれてもいない筈のお茶会の招待状を貴方が入手しているんでしょうか?ー…と言うのはさておいて。想像以上に皇太子の台詞が悪役サイドっぽい。ちゃんと対応しなければ、ヒロインを嵌めたのは私みたいになりそうで恐ろしい。
「殿下」
ライザは背筋をすっとのばして、ティーカップをそっと置いた。
「花巻時間ーー…と言うのをご存知ですか?」
「…花?いや知らないわ何それ?」
「いいですか?この招待状には〝15時〟とは書いてあるものの、〝15時丁度〟とは書いておりません。つまり、此処に書かれているのは〝大体15時〟とも解釈出来るので、1時間など誤差です」
「それが、花…何とか時間?聞いたこともないわよ。普通招待状に〝15時開始〟と記載したら開始は15時に決まってるわ」
「花巻時間です。王都では馴染みのない文化ですが、地方に行くとそう言う風習もあるのです。心にゆとりを持って行動出来ますからね」
「へぇ~、そんなものがあるのねぇ。確かに時間にカリカリしてもしょうがないものね」
ーーっよし。何とか乗り切った。
前世で待ち合わせに毎度遅れてくる後輩の言い訳がこんな所で役に立つなんて。人生何が為になるかわからないわね。
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