【完結】悪役令嬢ライザと悪役令息の婚約者

マロン株式

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第3章学園入学

知ってはいけない1 イリンside

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「今夜、アウステル公爵家で殺人事件が起きるのね…」

 そう言って、カレンダーの日付を指先でそっと撫でた。


 アウステル公爵家殺人事件が起きる当日の朝ー…私は前世の記憶を思い出した。

 そうして自分が何者なのかを理解した。此処は乙女ゲームの世界で、私はイリン・ヒロアニアと言う名前のヒロインとして生まれたのだと。

 私は歓喜した。
 この世界でのメインキャラ達が誰と恋愛して結婚し、結ばれるかは私次第であり、誰にもヒロインの恋心を邪魔することは出来ないから。

 私には前世から推しが居た。それ以外の選択肢は有り得ない。
 
 推しの名はルイス・ネヴァキエル。
 ヴェルネ公爵家の1人息子であり、学園入学前には公爵位を受継ぐことになる。
 乙女ゲームが発売された当初は攻略対象者では無く、第2王子の友人であり皇太子の敵として現れ、ストーリーを盛り上げるために用意されている、所謂サブキャラという存在で登場する。

 だが、彼は魅力があり過ぎた。女受けのする容姿と甘いヴォイス、そして腹の中に黒々としたものが垣間見える妖艶な笑みと物腰。

 それらの要素は多くの女心を射止め、キャラ人気投票でメインキャラを押し退けて圧倒的一位になってしまった。

 神出鬼没で謎に包まれた彼の生い立ちを気にするファンがあまりにも多く、最新版のゲームで深掘りして語られるにまで至った。つまり最新版では、ルイス様の攻略ルートが追加されることが決定したのだ。

 

ー・なのに私は、ゲームの最新版を買いに行く途中で、事故に合い死んでしまった。

 当時高校生でしか無かった私は、親に頼み込んでやっとゲームを買うお金をもらい予約した。
 待ち切れなくて、ネットでのネタバレ情報すらも読んでしまうほどに待ち焦がれていた。

 なのに、私は死んでしまった。
 これがどれ程悔しかったのか、誰に想像出来るだろうか。


 考えてみれば、私がこうしてこの世界に生まれ変わったのは、死ぬ前の願望を神に聞き入れられたからなのかもしれない。

 この世界で、私はあの人と結ばれるのだと信じて疑わず、学園生活が始まるのを楽しみにしていた。

 殺人事件が起こる当日の朝なら、殺人事件を防げるんじゃないかって?

 そんなこと、私に出来る訳が無い。だって、下手に動いてしまったら未来が変わってしまう。

 彼の傷が浅いまま私に出会ってしまったなら、学園で起こるはずの恋愛イベントが全て無くなってしまうだろう。
 
 ルイス様が悲しむ顔を想像しただけで、胸が痛むけれど、これも私と愛を育むイベントへ辿り着くために彼が超えなければならない試練なのだ。

 今日という日を想像するだけで辛くて悲しい。心優しいヒロイン力のせいか涙さえ出てくる。
 何故ならルイス様を待ち受ける試練の数々は、今日を境に起こると私だけが知っているから。

 今夜、彼は周囲が炎に包まれてゆく中で目を覚まし、殺された家族の死体を目にして絶望する。邸宅は幸せな思い出と共に跡形も無く燃やされて、彼の手には親の残した爵位と財産以外何も残らない。

 幸せな子供時代は今夜で終わりをつげ、それからは不幸の連続だ。

 そしてーー…そんな彼の傷付いた心を癒せるのは、運命の相手である、私だけ。

  そんな彼をこの手で慰めたい。

 けれども、私が下手に動いてしまったことでストーリーが変わってしまうのが嫌だ。

 

 だから此処は我慢の時だわ。

 ぁあルイス様、学園生活が始まるまで会いにいけないの、そんな私を許して。今はまだ、会うことが出来ないのよ。

 だけど、早く会いたい。
  
 会いたい

 会いたい


 我慢するほど気持ちが募ってゆくが、私は早く推しに会いたいという自分の中の葛藤をなんとか乗り越え、数年が経過し学園生活を迎えた。

 私がこうして耐えられたのは目眩くめくるめくルイス様との学園生活が始まると信じて疑わなかったからだ。


 
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