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三
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聖女の資格は『星が詠める者』に与えられる。星の動きを知り、災害を予測することが出来るその能力は、神から与えられたとても稀有な力だ。
「――とにかく、ジュリエンヌ、お前との婚約は破棄する! そして破門だ!!」
ロドリグは小鳥令嬢に向けていた甘やかな顔を般若のように歪めて私をびしりと指差した。
しいん、と会場中が再び静まり返る。あちらこちらから突き刺さる視線を感じて、私はひとつ息をついた。
「あの、よろしいでしょうか」
「なんだ、今更弁解か。いいだろう、聞いてやる」
おずおずと挙手をすると、ロドリグは勝ち誇った顔で偉そうにこちらを見ている。
「本当に今さらで申し訳ないんですけれど……」
私は一度眉を下げて俯き、それからパッと顔を上げた。
「人違いですわ」
「は……?」
「ですので、人違いかと。私、ジュリエンヌ・ペルチェでも聖女でもございませんが」
「え……?」
「最初にお伝えしようと思ったのですけれど、ロドリグがお話を遮られるので……途中の地回説につきましては、私も天文学を学ぶ者として看過できませんでしたのでついムキになってしまいました。私のような部外者が熱くなってしまって申し訳ありませんでした」
私は深く頭を下げる。
そう、私はジュリエンヌではない。ペルチェ伯爵家の者であることには間違いはないけれど、天文学者として高名でもない。
そもそも、プレヴァン家との婚約は、先日解消されたと聞いていたが……私の聞き間違いだったのだろうか。
「な……ん……!?」
そう不思議に思いながら顔を上げる途中、ロドリグの両の拳がわなわなと震えているのが見えた。
視線を合わせて見れば、やはり怒りの篭った瞳で私をきつく睨みつけていらっしゃる。
「しかし、お前のその髪色は!」
「そうですわね、桃色の珍しい髪色は、聖女の証ではありますけれど」
「しかもその瞳の色だって……、同じだろう、星詠みと!」
「ええ。姿形はよく似ております」
でも、違うのだ。
同じ桃色の髪に藍色の瞳。背丈も同じ。だが、ジュリエンヌは私よりも美しく、私よりも賢く、私よりも才能に優れている。
なんせ、星詠みの聖女であり、我が家随一の天文学者。
「私は、リディアーヌ・ペルチェと申します。ご存知ではない方も多いかと思いますが、ジュリエンヌは双子の姉です」
――そして、私が世界で一番敬愛する人物だ。
私なりに最大限の笑顔で、そう告げた。
私たちは二人とも社交には疎い。
ペルチェ家の娘は桃色の髪に藍色の瞳の聖女だという情報だけがきっと王都には届いていたのだろう。
学者の家系だ。確かな結果を残してゆく姉と共に、私も領地で日々勉学の研鑽を積んでいた。
王都に来て夜会に顔を出すことなど一生ないと思っていたが、今夜はとある理由により、こうして出席する運びとなった。
「――とにかく、ジュリエンヌ、お前との婚約は破棄する! そして破門だ!!」
ロドリグは小鳥令嬢に向けていた甘やかな顔を般若のように歪めて私をびしりと指差した。
しいん、と会場中が再び静まり返る。あちらこちらから突き刺さる視線を感じて、私はひとつ息をついた。
「あの、よろしいでしょうか」
「なんだ、今更弁解か。いいだろう、聞いてやる」
おずおずと挙手をすると、ロドリグは勝ち誇った顔で偉そうにこちらを見ている。
「本当に今さらで申し訳ないんですけれど……」
私は一度眉を下げて俯き、それからパッと顔を上げた。
「人違いですわ」
「は……?」
「ですので、人違いかと。私、ジュリエンヌ・ペルチェでも聖女でもございませんが」
「え……?」
「最初にお伝えしようと思ったのですけれど、ロドリグがお話を遮られるので……途中の地回説につきましては、私も天文学を学ぶ者として看過できませんでしたのでついムキになってしまいました。私のような部外者が熱くなってしまって申し訳ありませんでした」
私は深く頭を下げる。
そう、私はジュリエンヌではない。ペルチェ伯爵家の者であることには間違いはないけれど、天文学者として高名でもない。
そもそも、プレヴァン家との婚約は、先日解消されたと聞いていたが……私の聞き間違いだったのだろうか。
「な……ん……!?」
そう不思議に思いながら顔を上げる途中、ロドリグの両の拳がわなわなと震えているのが見えた。
視線を合わせて見れば、やはり怒りの篭った瞳で私をきつく睨みつけていらっしゃる。
「しかし、お前のその髪色は!」
「そうですわね、桃色の珍しい髪色は、聖女の証ではありますけれど」
「しかもその瞳の色だって……、同じだろう、星詠みと!」
「ええ。姿形はよく似ております」
でも、違うのだ。
同じ桃色の髪に藍色の瞳。背丈も同じ。だが、ジュリエンヌは私よりも美しく、私よりも賢く、私よりも才能に優れている。
なんせ、星詠みの聖女であり、我が家随一の天文学者。
「私は、リディアーヌ・ペルチェと申します。ご存知ではない方も多いかと思いますが、ジュリエンヌは双子の姉です」
――そして、私が世界で一番敬愛する人物だ。
私なりに最大限の笑顔で、そう告げた。
私たちは二人とも社交には疎い。
ペルチェ家の娘は桃色の髪に藍色の瞳の聖女だという情報だけがきっと王都には届いていたのだろう。
学者の家系だ。確かな結果を残してゆく姉と共に、私も領地で日々勉学の研鑽を積んでいた。
王都に来て夜会に顔を出すことなど一生ないと思っていたが、今夜はとある理由により、こうして出席する運びとなった。
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