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11章 双子、失踪事件

変わらないあなたと、変わった私 inノルンside

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レオンやサクラがいなくなり、私やセイルはそれぞれ地と風の精霊に双子の行方について情報を集めているけれど、有力な手掛かりはなかなか入ってこなかった。

地の精霊への指示とは別に、私は以前お仕えしていた時にいただいた先代様の魔力でできている伝書鳥を使い、連絡を取ってみた。
すると先代様は、「ここに来い」という一言と家の場所を知らせるだけで、それ以上の事は何度聞いても教えてくれなかった。

以前サーヤ達を助けてくれた時は、”先代の聖獣レオヴィアス”という立場があったからとても威厳やカリスマ性があるように見える方だったけれど、実際の先代様は少し・・・いや、だいぶ違っている。


「先代様、レオンの気配を感じ取ることはできますか?」
「うーむ・・・にわかに感じるが、ここまで微量だと場所までは・・・」
「まぁ、先代様の力をもってしてもわからないなんて・・・先代様もお年を召されたんですね」
「むっ?!何を言う!息子へ聖獣の力は継承したが、我の力はまだまだ衰えておらぬ!身体だって・・・」
「はいはい、わかりましたから服を脱ごうとなさらないで下さい。女性の前で失礼ですよ」

私は現在、隠居している先代様の家にお邪魔している。

別に私がこの家に来なくても、レオンを探してもらえればそれで良かったのに「まだわからぬ。もう少しでわかるかもしれないから、それまではここにいろ」と、かれこれ数日ここに通い詰めては引き止められていた。

私はもう先代様に仕えているわけではないのに・・・でも、結局ここにいるだけでやる事が特にない私は、以前同様にご飯や洗濯、片付けなどいろいろお世話をしてしまう。

・・・習慣と言うのは恐ろしいモノだわ。
なんだか便利な側仕えが来たと思われてるようで、とても腑に落ちない。

「先代様、出したモノはきちんと元の場所に戻してくださいと何度言ったらわかるのですか?」
「うぐっ、そっ、それは後で戻そうと・・・」
「それは数時間前にも聞きました。それに、着ていた物は洗濯に出すかたたんでおくかして下さいませ。・・・現在恋仲の方はそんな事もして下さらないのですか?」

先代様に仕えていた頃は、町の近くに居を構えていたから様々な種族の女性が出入りしていた。
”聖獣様”も”獣”としての本能があるため、欲望というモノは人よりも強く発散する場がどうしても必要だったのだ。

もちろん出入りする女性はだいたい私を邪険にしたけれど、ちょっと脅せばもう二度と近寄ってすら来ない小者ばかりだったし、永く付き合うこともない”発散相手”など私の眼中になかった。

「そんな者・・・我には不要だ」
「あら、今はユキさんが家の事をしてくださっているようですが、ずっとこの家にいるわけではありませんでしょう?ご子息と恋仲で添い遂げるおつもりなのですから」
「・・・そうだな」
「先代様も別の側仕えか、家事のできる方をお迎えすればよろしいではありませんか。・・・あ、でも恋仲になる方は長続きした試しがないので側仕えが良いでしょうね」

先代様は、基本的に来るものは拒まないが、去る者も追わない。

恋仲になった女性はたいてい先代様との結婚を夢見るが、次代に継承するまで半永久的に生きてきた先代様は“確実に相手は我よりも先に老いて死ぬ。それなら一時の快楽で充分だ“と言って、決して女性を愛さず半年~1年で必ず別れを告げてきた。
今も特定の女性がいないという事は、きっとそのままなのでしょうね。

「ノルン・・・我の元へ帰って来い。愚息へ正式に聖獣の任を継承した今、我はお主と共に緩やかな余生を歩めるようになったのだ」
「私は現在、サーヤに加護を与えている身ですので、丁重にお断りさせていただきます」
「なっ?!我よりも人間の方が良いと申すのか??!!確かに“落ち人”であるが故、多少変わった人間ではあるが・・・はっ!!もしや、あの人間の旦那である黒エルフに懸想して・・・ふがっ」
「ふふっ、先代様。バカも休み休みに仰ってくださいませ」

真剣な顔をしながら、変な勘違いをして迫ってきた先代様の顔にクッションを投げつける。

一歩外に出ると”聖獣様”・・・いえ、今は”先代の聖獣様”だけれど、そういうスイッチみたいなモノが入るのに、こうして家の中にいる時は、”早とちりや考えなしで暴走する上に、家の事は何もできないダメ男”という、今の聖獣レオヴィアス様とは別の意味でレオンに見せたくない御方だった。

人間体の姿は、相変わらず綺麗な銀髪と褐色肌がミステリアスで惚れない女はいないと思わせるくらい美形なのに、どうして親子揃って中身が残念すぎるのかしら・・・
永く生きるのなら、生活するための術くらい身につければ良いのに・・・そう考えるとサーヤの旦那様であるエリュシオンは何でもできて何でも作れる完璧な人よね。

マデリーヌやハルバード、そしてサーヤとエリュシオン、会った事はないけれどセイルが今でも深く愛しているリナリア。
身近で深く愛し合っている人達を想像しては、そこまで想い合える事が羨ましいと何度思ったことか・・・今もそう思いながらため息をつくと、先代様が何かを感じ取るような反応を示した。

「む?!」
「・・・っ、レオンの気配が感じ取れましたか?」
「ふっ、ようやく隙をみせたな、ノルン」
「え?・・・あっ」

素直にレオンの事ではないかと思い込み先代様に思わず近づくも、両手を掴まれ壁に押し付けられてしまった。
子供じみた真似をする先代様にも、そんな手に引っかかったうかつな自分にも腹が立ち、とりあえず反論しようと口を開いたけど別の方法で塞がれてしまう。

「なんの冗だ・・・んんっ」
「んっ、ハァッ・・・主の口唇は以前と変わらず甘くて柔らかい。いつまでもこうしていたくなる・・・」
「・・・っ、やっ、放して・・・んっ」

家に呼ばれた時点で、私の意志に関係なくこうなるだろうと思っていたから、本当は家になんて来たくなかった。

サーヤ達が今のレオヴィアス様に襲われたりしなければ、今回みたいにレオンやサクラが失踪などしなければ、私はこの方に二度と関わるつもりもなかったのに・・・――――――――


でも、私は昔のままの私じゃない。
マデリーヌとハルバードみたいにとまではいかないけれど、私自身を愛し、大切にしてくれる人以外・・・いえ、私を愛してるわけではない先代様に、これ以上身体を許すつもりはない!!

私は地に着いたままの足から床に向かって魔力を放ち、土でできた杭で先代様を攻撃した。
もちろんそれに気づいた先代様は、予想通り私から距離を取るために離れたので、すかさず得意の回し蹴りで先代様を吹っ飛ばした。

「・・・痛っ~~~~っ、お主、いつの間にこんな体術を?我にも蹴りがみえなかったぞ?」
「ふふっ、女性には秘密がつきもの。先代様の元を離れてからどれくらい経ったとお思いですか?それに、さほど痛いと感じていないはずなのに大げさです」
「むぅ、ノルンは相変わらず我に厳しいのう。そこは昔のままではないか」
「それは外面だけは良い先代様が、家の中では何もできないダメな方だからではありませんか。私が昔のままの私だと思わないで下さいませ」
「なっ?!・・・やはりお主、我と離れている間に新しい男ができたのだな?どこのどいつだ!!そんなヤツ、我がこの世から魂ごと消してくれるわっ!!!」

なんだかまた変な勘違いで暴走した上に、物騒な事まで言い始めてしまった。
こうなるとなかなか止まらないので放置するに限るのだけれど、暴走中の先代様は放置できない言葉を言い放った。

「~~~~~~っ、だぁぁぁっ!我のノルンを穢した輩を探ってるこんな時にレオンの邪魔が入りおって・・・うるさいうるさいっ!我は今大事な・・・――――――――」

(ドゴォォォォォッ、メキメキッ)

「先代様。今、なんて言いました?」

先代様の顔を鷲掴みして床に叩きつけた後、なるべく冷静に、にこやかに聞いてみた。

「え?・・・我のノルンを穢した輩を・・・」
「そんなくだらないことではありません。レオンの邪魔ってなんでしょう?レオンが何か先代様に訴えてきたんですか?」
「くだらな・・・?!・・・こほん、あぁ。レオンが「たすけて、おじちゃん」と・・・」
「!!!!!」


先代様のその言葉を聞いていてもたってもいられなかった私は、躊躇する先代様に「後で1つだけ言う事聞いてあげますから早くっ!!」となんとか急かし、レオンやサクラの元へ駆けつけたのだった。
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