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10.ミランダの自白②禁忌の双子

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「そういう顔をしている時は、年相応だな」

 膝の上にミランダを乗せ、腕の中に閉じ込めるようにして、顔を覗き込む。

 自分の感情に歯止めが利かず、次から次へと涙の粒を落としていたミランダは、恥ずかしさのあまり真っ赤になった顔をクラウスに向け、ギリギリと歯軋りをしながら憤怒の表情を浮かべた。

「クッ、……ハハハハッ」

 昼間、謁見の間で見事な口上を述べた姿からは想像もつかない、その可愛らしい様相に、普段滅多に笑わないクラウスから、笑い声が漏れる。

「……そちらが素か? 随分と可愛らしい顔をする」

 自分だって先程まで、私を睨みつけて怖い顔をしていたくせに!

 なおも笑う姿に腹を立て、クラウスの夜着を両手で引っ張ると、ミランダはそのまま自分の顔を拭くように、ゴシゴシとこすりつける。

 普段なら絶対にやらない……というより、人前で泣くことすら皆無なのだが、涙と鼻水でグシャグシャにしてやった夜着を眺め、ミランダは何故だか仕返しに成功したような、得意げな気持ちになった。

「……ん? それが報告書にあった、姉妹への虐待か?」
「恐らくは……、でももしかしたら、産後の肥立ちが悪く療養中だったお姉様を、平手打ちした件かもしれません」
「療養中のアルディリア王妃を、平手打ち!?」
「はい。あ、たくさんお話をして泣いたら、ぼんやりしていた頭が、少しスッキリして参りました」

 加護持ち故、お酒が抜けるのも早いのですよとミランダが嬉しそうに話すと、クラウスは無言でグラスに手を伸ばし、残っていたワインを口に含む。

 二本の指で耳を挟むようにしながら、ミランダの頬に再び手をあてがい、その顔を、自分のほうへと向けさせた。

 そしてそのまま、ミランダの唇に、口付けを落とす。

「ん? ……ん!? んん、んんん――!!」

 突然クラウスの顔が間近に迫り、唇を塞がれたミランダは、その腕の中で激しく暴れるが、非力なミランダがいくら力を込めたところで、鍛え上げられた男の身体はびくともしない。

 息をしようと唇を開いたところで、クラウスのがさついた唇から先程のワインが流し込まれ、ミランダの喉を潤していく。

 膝の上で身体を固定された上、顔半分を大きな手の平に包まれた状態では、その腕から逃れるどころか、抵抗することすらままならない。

 これ以上ない程に目を見開いたミランダは、こくんと軽く喉を鳴らしながら、ワインをすべて胃に流し込んだ。

 ミランダがすべて飲み込んだのを確認し、唇を離すと、少しだけ顔を上気させたクラウスが、湿った舌で自らの唇をぺろりと一舐めする。

「どうした? アルディリア国王を篭絡した、その手管を俺にも見せてみろ」

 だから先程、それは嘘だと申し上げたでしょう!

 悪戯が成功した子供のように笑うクラウスを睨みつけると、その肩口に頭を押し当て、せめてもの抵抗に、ミランダは渾身の力を込めてグリグリと頭を動かした。

 その様子が可笑しかったのか、彼女を抱きしめたまま、肩を震わせて笑い続けるクラウスに、強い口調でミランダは告げる。

「それ以上笑うと、もう何もお話してあげませんよ!」
「ああ、それは困るな。……気を付けよう。続けてくれ」
 
 一向に反省する様子のないクラウスは、そんなミランダを瞳に映し、相好を崩しながら話の続きを促す。

「それでそれから……、ああ、もう! 陛下のせいで、どこまで話したか分からなくなってしまったではありませんか!」

 追加のアルコールが、自白剤の効果を後押ししているのだろうか。

 またしても霞がかり、ぼんやりしてきた頭に舌打ちをしながら、ミランダは頬を膨らませる。

「お姉様はそのままアルディリアに嫁ぎ、政略結婚であったはずのこの婚姻は、意外にも愛に溢れたものとなりました」

 元々真面目で勤勉、努力家で、人の上に立つに相応しく、思いやりに溢れた優しい心を持つ、ミランダ自慢の姉である。

 母親似のミランダとは異なり、茶色い髪と瞳を持つファゴル大公似のアリーシェ。

 整ってはいるものの、華やかさに欠ける地味な顔立ちも後押しし、王妃に相応しくないのではとアリーシェに反発していたアルディリアの貴族達も、その人となりに触れ、次第に信頼を寄せるようになった。

 所詮は政略結婚だと他人行儀だった国王も、懸命に自分を支えようとするその姿に絆され、愛し愛されるうちに、アリーシェは本来の自分を取り戻していったのである。

 翌年には男児を出産し、その地位を盤石なものとしたアリーシェだったが、再度の懐妊により、その幸せは終わりを迎える。

「大帝国アルイーダが滅び、四大国に分裂する原因となった双子の皇女。アルイーダ最後の女帝クラリスと、アルディリアの初代女王マルグリットの話はご存知ですか?」

 親から子へ、物語は紡がれる。
 揺らぐことのなかった大帝国は、双子の皇女によって滅び、恵みの時代は終焉を迎えた、と。

 ――それから二百年余り。
 四大国の王族において、双子は未だに禁忌とされ、生まれた場合は後から出てきた子を、谷底へ投げ入れ、殺してきた。

 そこまで話し、ミランダはそっと目を閉じる。

「……そう、お姉様のお腹にいたのは、ふたり、だったのです」


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