フツウノコイ

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「──んん?星のピアス?」
「そ、そう。なんか、知らない?ほら、土本って美形好きだろ?それなら知ってるかと思って……」
「いやいや、俺が好きなのは美形じゃなくて晴樹な?そこんとこ間違えんなよ」
「わ、わかったわかった。お前が天中一筋なのは、わかったから。で……そいつのこと……わかる?」
「んー……」
 
 思案する様子を見せるのは、但人の友人である土本耕太だ。彼はいわゆるオタクというやつで、絵を描くのを趣味にしている。高校から一緒の同学年、天中晴樹と付き合っており、同じゲイということもあって親しくしているのだ。耕太は但人の知らない分野にあれこれと詳しいこともあり、それならと彼を頼った次第である。耕太は眉を寄せつつも肌身離さず持ち歩いているiPadをペンで操作し、その画面を但人へと見せた。

「あ、出た。こいつ?」
「──あ!」

 そこにはまさしく先程見た男性と同じ人物が、キラキラとした笑顔で映っていた。但人は歓声を上げるが、その反応に、耕太は呆れた溜息をつく。

「んだよ、ベテルか。有名人じゃん」
「ベテル……?なに……外人?」
「違う違う、それは『ステラネーム』。名前は鈴宮シュウ。「トライステラ〈ヒエムス〉」のセンターだよ」
「すてらねーむ?とらい……すてら……ひえむす?」
「おまっ、ほんとなんも知らねーな。アイドルだよ、アイドル。最近売ってる事務所、『ネビュラ』のグループのひとつ。ここは基本星モチーフにしてて、所属してるやつは星の名前が割り当てられんの。それが『ステラネーム』な。シュウはステラネームが「ベテルギウス」だから、ベテルって呼ばれてる。まぁ、普通にシュウって呼ぶやつもいるけど……」
「シュウ、くん……。アイ、ドル……。」
「ネビュラのアイドルはみんな会って話せて触れる、が基本だから、調べりゃ会える手段も見つかるんじゃない?」
「……!あ、ありがとう、土本!俺、調べてみるよっ!」

 耕太の情報を元に『ネビュラ アイドル』とスマートフォンで調べてみると、すぐに事務所のウェブページが見つかった。耕太が説明していた通り複数のグループが所属しているようで、その中にはお目当ての「トライステラ〈ヒエムス〉」のページと、「鈴宮シュウ(すずみやしゅう)/ ベテルギウス」のページもあった。現在は小さなライブハウスや配信を中心に活動しているようで、貼られたリンクの動画チャンネルを見るとすぐに彼らが動いている映像を確認できた。
 画面越しのシュウは実際に見た印象よりももっと可愛らしく、まさしく「アイドル」をしていて、それだけで胸が高鳴ってしまう。動画の最後には二週間後にライブを行う旨が告知として紹介されており、但人はすぐにそれへ申し込み、終演後の握手会つきチケットを手に入れた。アイドルも芸能界も今までとんと興味はなかったが、どうしてももう一度、シュウに会いたかったのだ。

「ありがとうございました~っ!!」

 ──手を繋いで深く礼をする三人に、わあっと声が上がる。ライブ後、但人は初めて感じる高揚に包まれていた。待ちに待ったライブ当日。そこで見た「トライステラ〈ヒエムス〉」のパフォーマンスは素晴らしかった。シュウのダンスは圧倒的な迫力で、彼が踊るとそこしか見えなくなるほど、惹きつけられてしまった。小柄な体格や可愛らしい顔からは想像もつかないダイナミックな動きは、まだ目に焼き付いている。……この日までシュウをオカズにして何度もオナニーをしたことを、心から後ろめたく思ってしまうほどだった。

「す、すごかったです!俺、ライブ来るの初めてだったんですけど……っ、超、感動しましたッ!!」

 終演後の握手会も、興奮状態で但人はシュウに話しかけてしまった。普段は周りを気にしてあまり大きなリアクションをしない但人だが、今日はそんなことに構っていられなかった。ギュッと手を握り溢れる想いを伝えると、シュウは大きな目を更にくりくりと開いて、まっすぐに但人を見つめる。

「──あれ。君、この前隣にいた人だ。9月9日の一限、真ん中の左側。そうだよね?」
「……えっ!?」
「俺、一度見た人は忘れないんだ。まさか同級生がライブを見に来てくれたなんて嬉しいなぁ。これからもよろしくねっ♡」
「……!」

 ギュ、と握り返される手と、去り際にばいば~い♡と振られる手に、呆然としたまま但人は会場を去る。まさか、シュウが自分を覚えていただなんて。こんな普通の、目立たない印象の自分を、覚えてくれていたなんて……!想い人から認知されていたという事実に、夢見心地な気分で但人は帰路に着く。シュウから握って貰った手は、その日、洗うことができなかった。

「……おーい!」
「……?」

 次の日。
 今日も一限からの授業にあくびを噛みしめながら教室へ向かっていると、大きく声をかけられた。普段めったに他人から呼び止められることなどない但人は、何事かと振り返る。すると──そこには。

「!? べ、ベテル、くん……ッ!?」

 ──そこにはなんと、つい先日会うことの叶ったシュウが居た。
 更に何事かと、但人は動揺を露わにする。当然だ。想い人でありあんな凄いパフォーマンスをする人気アイドルから、こんな平々凡々な自分が声をかけられるなんて!?!?
 あからさまに狼狽えれば、逆にむすりとシュウは頬を膨らませる。

「もうっ、ここ大学だよ?普通にシュウって呼んでよ。同級生でしょ?」
「どっ。同級生……ッ♡」
「そうだよ、同級生。……せっかく同じ大学なら、ファンじゃなくて友達になってほしいって思ってさ。それで声を掛けたんだ。今日の一限なら、きっと会えると思って」
「と、ともだち……ッ!?お、俺とッ!?」
「そう。俺、ここではアイドルとか関係なく、普通に大学生やりたいんだ。但人と一緒なら、俺もそういう普通の俺でいられそうな気がしてさ」
「う……♡た、但人……ッ♡いやッ、う、嬉しいけど……ッ!♡」
「じゃあ決まりね♡後で昼、いっしょに食べよ?♡」
「っう、うん……!♡♡♡」

 突然ゼロ距離のお誘いを受け、その日から、シュウの「友人」としての但人の生活が始まった。連絡先を交換し。大学で会える日は共に食事をしたり、図書室で勉強したり、他愛のない話をしたり。そうでない日はメッセージのやり取りをし、シュウに誘われるまま、映画や舞台、他のアイドルのライブに付き合ったり。そんな夢のような日々を三ヶ月ほど過ごし、ふわふわとした気持ちで今日も待ち合わせたシュウに会うと──いつもとはどこか違う色香を纏ったシュウが、含むように、尋ねてきた。

「ね。今日は但人を連れていきたい所があるんだ」
「連れていきたい所?また二.五次元系の舞台?」
「ううん。もっと……大事な所♡」
「……?」

 わざとらしく屈んでこちらを上目遣いに見つめてくるシュウに不思議な胸騒ぎを覚えつつも、おとなしく但人はシュウについてゆく。すると彼は繁華街から離れた妖しげなネオンの瞬く路地裏を進み、そして──。

「行こ、但人♡」
「っ──、ッ──!?」

 ──その中でも一際目立つラブホテルへと、但人の腕を引いて入っていった。
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