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【第三章】 旧校舎で肝試し
第45話
しおりを挟む「あいつを、俺の友だちを、殺したのはお前か!」
ルドガーは『死よりの者』を見つけるや否や、迷いなく斬りかかった。
その剣を『死よりの者』の鋭い爪が弾く。
体勢を立て直したルドガーは、また『死よりの者』に斬りかかる。
堅いもの同士がぶつかる高音が何度も教室内に響き渡った。
私は、私を助けてくれた『死よりの者』と戦い続けるルドガーに向かって、叫んだ。
「待って! この魔物は良い魔物かもしれないわ。きっと話せば分かるはず……!」
「人を殺す魔物が良い魔物だって言いたいのかよ!? 俺の友だちを殺す魔物が良い魔物だって!? ふざけるな!!」
しかし私の言葉はルドガーの神経を逆撫でするだけだった。
「そ、そういう意味じゃ……」
「ローズさん。もしその魔物が話の通じる相手なら、このように無暗に人を殺したりはしないと思います」
「それは……きっと、魔物にも事情が……」
ウェンディが倒れている男子生徒を見ながら言った。
男子生徒の近くにはルドガーの置いたランプがあるため、彼がピクリとも動かないことが見て分かる。
「事情って何だよ!? どうしてお前は! 俺の友だちを殺した魔物の肩を持つんだよ!?」
ルドガーの剣が空を切った。
ランプを男子生徒の近くに置いているため、『死よりの者』との正確な距離感が掴めないのだろう。
一方でコウモリ型の『死よりの者』は暗闇に強いらしい。先程からルドガーの剣を正確に避けたり弾いたりしている。
「ローズさん、教えてください。人を殺す事情とは、例えば何ですか? 納得の出来る事情が存在するとお思いなのですか?」
ウェンディが私に問いかけた。
人を殺す納得の出来る事情…………そんなもの、思いつくわけもない。
「だけど……!」
≪いいのです、“扉”よ。我のことは気にせず、ご自身の負傷にだけお気を付けください≫
何も答えられない私に声をかけてきたのは、他でもない『死よりの者』だった。
例によってウェンディとルドガーには『死よりの者』の言葉が聞こえていないようだ。
「あなたがやったの!? それとも……もしかして、誰かにやらされたの!?」
そうだ、と答えてくれるのではないかと期待して聞いた。
この『死よりの者』には、私を助けてくれる優しさがある。
その辺の魔物よりも賢く、きちんと話が通じる相手でもある。
無暗に人間を襲ったのではなく、誰かに命令されて仕方なく従った可能性だってあるはずだ。
…………しかし。
≪いいえ。これは誰かに強制されたのではなく、我が自らの意志で行なったことです≫
「どうして!?」
≪あなた様が気にかける必要のない理由です≫
「お願い、教えて。その理由って一体……」
私が戸惑っていると、隣でウェンディが呪文を唱え始めた。
きっと聖力を使うつもりだ。
「待って、ウェンディさん!」
≪我が消えることを惜しんでくれるのですか。あなた様は優しい方ですね≫
「ねえ、待って! ちょっとだけでいいから、待って!」
「待つな! 呪文を唱えろ、ウェンディ!!」
私の声を遮って、ルドガーの大声が響いてきた。
ウェンディはルドガーの言葉に一つ頷き、呪文を唱え続けている。
≪“扉”よ、悲しむことはありません。これは我の望んだことです。これだけが、我の唯一の望みなのです≫
そう言いながら『死よりの者』はルドガーを振り切って、教室の入り口付近に立っている私とウェンディの方へと飛んできた。
その後ろをルドガーが追っている。
「私にはあなたの言葉の意味が分からないわ!」
≪きっと、分からない方がいいのです。その方が、“扉”の心は痛まない≫
「そんな……」
次に言葉をかけようとした瞬間、ウェンディが呪文を発動させた。
「さあ悪者、これでおしまいです!」
「やめて……」
ウェンディの手から溢れた光が、一直線に『死よりの者』へと飛んでいく。
全身に聖力を浴びた『死よりの者』は、さらさらと灰になって消えた。
≪ありがとう≫
最後に彼が、そう言った気がした。
――――――ガチャリ。
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