文字の大きさ
大
中
小
21 / 96
第二章 帰還勇者の事情
第六話 取り巻く状況
ユウキたちが、地球に帰還してから、数日が経過していた。
レナートは、特に王城は火が消えたような状態になっていた。
「お父様?」
「セシリアか・・・」
「どうされたのですか?」
「騒がしかった日々が懐かしくて・・・」
「そうですね。でも、ユウキ様は約束通りに・・・」
「そうだが・・・。そうだ、セシリア。ユウキからの”お願い”はどうするのだ?」
「受けます。ユウキ様だけではなく、サトシ様やマイ様のご両親ですよ?」
「そうだな。儂も、ユウキたちの”チキュウ”での両親に会って話をしたい」
「はい」
セシリアは、ユウキから地球の土産だと、サトシが小学校に上がる時の写真を貰っている。同じように、ユウキの写真も欲しいと言ったのだが、ユウキの写真は火事で燃えてないと言われた。
「それで、アメリアは?」
「はい。お父様とユウキ様のお話をきかせましたら、納得したのか、徐々にですが部屋から出るようにはなっています」
「そうか、よかった。それで、セシリア。ユウキから頼まれたことは?」
「生き残っている勇者の名簿ですよね?」
「そうだ」
「各所に問い合わせていますが、帝国や教会は、権力を誇示したいのかすぐに教えてくれましたが・・・」
「そうか、小国家群はダメか?」
「はい。ギルドにも問い合わせてみましたが、いい返事は貰えませんでした」
「そうか、ひとまずわかっている分だけでも渡すことにするか?」
「はい。ユウキ様からも、解る分だけで十分だと言われています。しかし・・・」
「そうだな」
二人とも、全員の判明は無理だとわかっているが、できるだけ多くの名前を調べようとは思っている。
ユウキが欲しているのは、生き残っている者の把握という目的もあるが、地球で”死んだ者”として名前を公表するためだ。29名以外は、死んだことにするが、自分たちが把握している者たちとして、名前を出そうと考えている。
セシリアたちが作っている名簿に、ユウキたちと対立した勇者の名前を追加する。
300名には届かないが、280名ほどの名簿が完成する。不明な勇者は、初期に死んでしまった者や、自ら命を絶った者が含まれる。
名簿は、セシリアたちが作成してユウキにわたす手はずになっている。
「セシリア。それで各国の動きは?」
「大きく2つに分かれます」
「そうか、ユウキたちの予想通りだな」
ユウキのよそうでは、無関心を装う者たちも現れると読んで、3つに分かれると予想していた。
”魔物の王”の討伐を、信じる者たちと、疑う者たちだ。
「それで?」
「はい。連合国は、私たちの報告を”嘘”と決め込んで、勇者たちを中心とした討伐隊を派遣するようです」
「そうか、派遣先は・・・」
「まだ、正式な情報ではありません」
「わかっている」
「ユウキ様の予想通りです」
「そうか、上層部は、”魔物の王”が倒されたと思っているのだな」
「はい。今回は、今までと違って、教会勢力が動いています」
「そうか・・・。監視体制の強化は急務か?」
「はい」
「セシリア。負担を掛けるが頼むぞ」
「はい。お任せください」
セシリアは、それほど心配はしていない。
ユウキたちと考えた防衛戦を信頼している。万全ではないことも理解している。そのために、国民の目という確かな情報網の構築に成功している。レナートの国民の多くは、難民だ、住み慣れた土地を、家族を、故郷を、追われた者たちの子孫だ。それが、今では大陸を代表する国家にまで成長している。
教会は、”魔物の王”が討伐されている事実を掴んでいる。しかし、連合国や小国家群に”討伐”の事実を伏せている。大きな理由が、自分たちが”異端”だと指摘した勇者たちが討伐したという事実を隠した。それだけではなく、---ユウキたちは頼ったが---大陸でほぼ唯一と言ってもいい位の、反教会勢力の国家なのが、状況を悪くしていた。
連合国の一つであり、教国の総本山があるヴィリエでは、総大主教を中心とした密談が行われていた。
都市の名前を持つ総大主教と、総大主教の腹心であるドミニクが一人の枢機卿から話を聞く為に呼び出していた。
「ファンブル枢機卿。総大主教にご報告を」
「はい。猊下。魔物の王が倒されたのは間違いないようです」
「そうか、異端の者たちなのか?」
「残念ながら・・・。卑怯にも、勇者たちが旅立つ情報を得て、先んじたと思われます」
「ファンブル。貴殿の見識を疑うわけではないが、事実だけを報告すればよい」
「はっ。猊下。もうしわけございません」
「ファンブル。異端者たちは、至宝を手に入れたのか?」
「わかりません。どうやら、”魔物の王”との戦いで、命を落としたようで・・・」
「ドミニク!」
「はっ。影に探らせましたが」
「彼の国は、祝福からも見放されているためか?」
「そのようで・・・」
「信徒たちへの影響は?」
「ありません。我が勇者たちが対応しております」
「そうか、引き続き情報収集と、魔物への対処を続けよ」
「はっ」
ファンブル枢機卿は、総大主教に深々と頭を下げてから、部屋から出ていった。
「使えない奴だ」
「はっ」
「現世では役に立たない」
「かしこまりました」
ドミニクが、影に消えるように総大主教の前から消えた。
翌日、一人の枢機卿の病死が発表された。
連合国の盟主であり、人族を中心とした国家をまとめ上げている帝国は揺れていた。
「どういうことだ!”魔物の王”を討てば、魔物の被害が無くまるのではなかったのか!」
一段高い所に座る豪奢な衣装を身にまとっている者が、周りに居並ぶ者たちを怒鳴りつけている。装飾が過剰な状態は、指や首や衣装だけではなく腹回りには脂肪多寡な状態だ。怒鳴り続けるたびに、腹の贅肉が揺れて見苦しい。それだけではなく、指にジャラジャラと付けた装飾物が不快な音を奏でている。
皇帝の”問”に答える者は居ない。
この会議は、各国のトップが集まっているために、皆が同盟国になり、身分に差はない(ことに、なっている)。
「陛下」
「なんじゃ?」
「レナートが、我らを騙すために・・・」
「ギルド長のおっしゃっている通り、レナートの奴らが騙している可能性を考慮・・・」
この会議も、これで5回目だ。
教会から、”魔物の王”が討伐されたと発表があり、皆が安心した。その後に、どこの国の勇者が”魔物の王”を討伐したのか・・・。
各国が、自国の勇者だと主張して譲らない状況の中で、レナート王国に逃げた勇者たちが”魔物の王”を討伐したと発表した。その後に、連合国の盟主である帝国に、レナート王国から、証拠の物品が届けられた。
「ギルド長。レナートから送られてきた証拠は?」
「真偽の確認を行うために、教会に渡しました」
ギルド長の対応は間違っていないが、大きな間違いを生むことになる。
「教会からは?」
「”魔物の王”の可能性が高いと言われました。”詳細な調査が必要になる”と言われました」
「教皇には、儂から連絡を入れた。奴らは、”魔物の王”のオーブを希望しておる。儂たちは、”魔物の王”の角と魔剣と、それ以外のオーブを受け取ろうと思う」
『おぉぉ』
列席者から拍手が発生する。
「陛下。それで、角は?」
「効用は、言われている通りだ。今、勇者の中に居る錬金術師に薬を作らせている。期待していいぞ」
「陛下!」
「もちろん。連合に参加されている皆には、平等にくばる。魔剣とオーブは」
「帝国が薬を作っているのなら、当然・・・」
一人の太鼓持ちが、立ち上がって帝国の・・・。皇帝を持ち上げる。そして、薬を皆にくばると決めた皇帝の善意を感謝すべきだと熱く語りかける。違和感しか無い弁舌だが、太鼓持ちが話し終えて皆を見回す。太鼓持ちの話に、反論しようとする者はいない。皆、同じ穴のムジナなのだ。
感想 0
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
他サイトにも投稿しております。
※本作品をAIの学習教材として使用することを禁じます。
※無断著作物利用禁止
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
処刑される悪役貴族に転生したので、全財産配って逃げます ~俺が全部手放した瞬間、王国が回らなくなったけどもう遅い~
「ヴァルトハイム伯爵家嫡男ユリウス。貴様の断罪を、ここに宣言する」
断罪の場で、俺は前世の記憶を取り戻した。ここはかつて遊んだノベルゲームの世界で、悪役貴族ユリウスは一年後に処刑される。
冗談じゃない。領地も金も地位も、全部置いて逃げる。それだけを決めた。
ところが、解放した罪人が。配った財産が。放り出したはずの領民が。
なぜか勝手に力をつけて、次々と俺のところへ戻ってくる。
一方その頃、王都では――ユリウスなしで回らない事態が始まっていた。
【老化返却】聖女の若さは俺の寿命だった〜回復魔法の代償を肩代わりしていた俺を追放した報いだ。回復のたびに毛が抜け、骨がスカスカになるが良い〜
「寿命を削って回復してやってたのに……感謝すらしないんだな」
聖女パーティの荷物持ち兼回復術師だった俺は、ある日突然パーティを追放された。
理由は「回復魔法のコストが寿命で、もうすぐ死ぬ無能はいらない」という勝手な思い込み。
だが、彼らは知らなかった。
俺の正体が、この世界の生命を司る世界樹の根源そのものだったことを。
俺の寿命は無限であり、俺がパーティにいたからこそ、彼らは「若さ」と「健康」を維持できていたのだ。
「俺がいなくなったら、誰が君たちの老化を止めるの?」
俺がいなくなった途端、聖女たちの身体に異変が起きる。
回復魔法を唱えるたびに、自慢の金髪はバサバサと抜け落ち、肌は土色に。
若さに溺れていた彼女たちは、骨がスカスカになり、杖なしでは歩けない老婆のような姿へと変わり果てていく。
一方、解放された俺は隣国の美少女皇女に拾われ、世界樹の力で枯れた大地を森に変える「現人神」として崇められていた。
「今さら戻ってきて? ……悪いけど、そのハゲ散らかした老婆、誰だっけ?」
すべてを失ってから「俺」の価値に気づいても、もう遅い。
これは、恩を仇で返した連中が、自らの美容と健康を代償に破滅していく物語。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
処刑された悪女だけが、国を救っていた――姉を処刑して七日後、王都のパンは青く腐った
姉を処刑して七日目、王都のパンが青く腐った。
新王レオニスは、〈灰冠の悪女〉と呼ばれた姉アウレリアの警告を退け、彼女が封鎖していた西大倉を解放した。民へ白いパンを返し、姉の圧政を終わらせる。それが正しい王の最初の仕事だと信じていた。
しかし、配られたパンの内側には青い筋が走り、口にした者たちが次々と倒れていく。
処刑台で姉が残した言葉を思い出したレオニスは、王城の鐘を三度鳴らす。すると現れたのは、姉の秘密警察だと恐れられていた〈灰衣隊〉だった。
封鎖された穀物、焼かれた畑、外国への送金、王都から遠ざけられた軍隊。姉の悪政とされたすべては、王国を青灰病から守るための非常措置だった。
自分が信じたい言葉だけを選び、姉へ毒杯を渡したことを知るレオニス。彼は姉が残した七つの報告書を読み、公爵の逃亡を自らの判断で阻止する。
その南門へ、安全な穀物を積んだ長い輸送隊が到着した。先頭の馬車から降りた人物を見て、レオニスは言葉を失う。
悪女として処刑された有能な王女と、民の拍手を選んでしまった弟王の、逆転と後悔、そして再生の物語。
王国一の美女と結婚してみせろと幼馴染に言われたので、 真面目に自分磨きをしていたら女性を沼らせてしまった件
大好きだった幼馴染が、別の男とキスしている姿を見てしまった。主人公:ホート・ルべル。
都合の良い優しい男だった自分を姉に指摘されて、姉からの教えを胸に騎士を目指して真面目に自分磨きを始める。
与える側から与えられる側になるために、とりあえず自分の仕事をやり遂げる。
そのはずだったのに、いつの間にか女性たちが沼っていた。