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【第2部】20.恋敵
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トモに女ができた、と知り、腹を立てている女がいた。
俺のことは忘れろ、と言われても、諦めきれない。
彼女は《リカ》と言った。
(特定の女は作らない。寝るだけなら会ってもいい、って言ってたのに。誘っても会ってすらくれなくなって……。せっかく会えたと思ったら、恋人がいるだなんて!)
イライラしていた。
リカは、トモと同じ組にいた男・広田を呼び出した。
何年も前から、しつこく自分に言い寄ってくる男だ。以前自分の勤めていたクラブに顔を出していて、店を変わっても付いてきている。一応はお得意様だ。
呼び出した居酒屋の個室で向かい合って座っている。
「ねえ、トモの女ってどんな女か知ってる?」
「呼び出してきたかと思えばトモのことかよ」
「何よ」
トモの名前を出すと、広田は不機嫌な顔になった。
広田はトモが嫌いだということは知っているリカだ。広田も同じ組にいたが、解体されてからは行き場がなく、別の組に鞍替えしたということも知っていた。忠実な構成員たちほど、新しくトップに立った男の伝で堅気になったらしいが、広田には厳しかったようだ。その点トモは堅気になるための努力をしている、そんな話も聞いている。
「いや、別に。だいたいトモには会ってない」
「ふうん」
「まあ、噂は聞いたし、見かけたことはある。普通の女だった」
「可愛い系? キレイ系?」
「いや……どこにでもいるような女だったと思う。どっちでもない。つーかまだガキだった気がする。俺はリカのほうがずっと綺麗だと思うけど」
おずおずと広田は言った。
「だったらなんで、トモはわたしに振り向いてくれないのよ」
忌々しげにリカは言う。
自分に自信はあるし、今の店には引き抜かれて来た。人を惹きつける魅力はあるほうだと思っている。男だって寄ってくる。……なのに一人だけは靡かなかった。
「……知るか。トモの目が腐ってんだろ。つーか、おまえもそんなにあいつがいいのか?」
「うん」
「顔も性格もイマイチだろうが。金があるわけでもないし」
「……だって上手だもん」
「え?」
「すっごく優しいの。今までのどの男よりも」
「……寝たのか?」
「な、何よ」
広田がギリギリと歯噛みし、リカを睨んだ。
「もうかなり前の話。三年くらい前かな、最後にしたのは。久しぶりに連絡くれて会って……それっきりね。てっきりわたしに気が向いたんだと思ったのに。寝る相手がいないから誘っただけなのね、きっと。だいたい最近は全然遊んでくれなかったし、連絡すらとれないし、つきあってって言っても女がいる、だなんて」
リカが広田に不満をぶちまける。
広田はリカに惚れているし、リカが男達を手玉に取っていることもわかっていた。が、まさか彼女までがトモと関係をもっていたとは思わなかった。
広田のほうが顔も性格もいいと言われているが、トモのほうがモテるのが不思議だった。トモがなぜ女うけがいいのか、広田には理解できない。トモは確かに男気があって、女子供に暴力的にはならなかった。他の男達が高圧的な態度を取っても、トモは諫める側だった。
「ね、あんたさ」
「なんだよ」
「あたしに惚れてんのよね」
「わ、悪いかよ……てか知ってるんなら俺と付き合ってくれてもいいだろ」
「そうね……トモの女、ちょっと懲らしめてくれたら、つきあってあげてもいいかな」
「え……」
広田の顔が固まる。
「どうせ、そのうちトモに飽きられて捨てられちゃうんでしょ。今まで一人に絞ったことないし、ずっとその女だけなんてまあないでしょ。トモの女になるくらいだったら、今まで散々男と遊んできてるはずだし、だったら、カウント一人くらい人数が増えてもいいじゃん」
「トモの女と寝ろってことかよ」
広田は眉を顰める。
「そうは言ってないわよ、懲らしめるの、ちょーっと痛い目に遭わせてって話」
「なっ……」
「あんた日照りなんでしょ? だったら、ついでにその女とヤっちゃったっていいんだし? それがトモに知られたら、きっと別れるわね。トモは独占欲強い男だもの。なんだかんだ自分のオモチャを取られたら惜しくなる男だから。でもあたしのことは欲しがらないのはムカつくけど」
「そしたらリカがトモの女になるのかよ」
鼻の頭にしわを寄せ、あまり賛同できなさそうな顔をしている。
「どうだろ? だったら嬉しいけど、今さらもういいかな。トモは頭が固いしね、どのみち無理かな」
「俺に何の得もねえじゃんか」
「……ま、今更トモを手に入れてもつまんないし。あたしを振ったのを後悔させてやりたいかなって。そうねえ、あんたが協力してくれるなら、一度くらいはあんたと寝てもいいわ」
「えっ」
「てか、彼女になるのもマジで考えてあげようかな」
「……ほんとか!?」
広田は興奮気味に声をあげた。リカは立ち上がり、広田の隣に座り直した。
「うん、いいよ。あんたのほうが一途に思ってくれそうだし? そうね、やってくれるなら約束してあげる」
リカは広田に顔を寄せるとキスをした。
「これは手付け」
リカにキスをされて、広田は舞い上がった。
こっちもね、とリカは広田の股間をぎゅっと掴んだ。
「うっ」
広田は小さく呻いて赤面し、すぐにその場所が反応した。
「うっそ、可愛い。なあに、その反応」
「うるせー……」
「あたしとシたい?」
「…………」
広田は悩んだが頷いた。
「じゃあ、先払いでもいいかなあ? ちゃんと条件飲んでくれるっていうならね?」
リカはまた顔を近づけ、唇が触れる距離で囁いた。
手は広田の反応した股間を撫でている。
「……うん、飲む」
じゃあ場所変えよっか、とリカは広田を誘った。
「待て、このまま立てないから」
収まるまで待ってくれ、と暗に示唆した。
「ここでしちゃう?」
「バカっ、それは駄目だ」
「ふふっ、かーわいい」
こんなガードの緩い女なんだ、とわかってはいても広田は弱みにつけこまれてしまう。
「ちょろいわあ……」
リカはぺろりと舌なめずりをした。
俺のことは忘れろ、と言われても、諦めきれない。
彼女は《リカ》と言った。
(特定の女は作らない。寝るだけなら会ってもいい、って言ってたのに。誘っても会ってすらくれなくなって……。せっかく会えたと思ったら、恋人がいるだなんて!)
イライラしていた。
リカは、トモと同じ組にいた男・広田を呼び出した。
何年も前から、しつこく自分に言い寄ってくる男だ。以前自分の勤めていたクラブに顔を出していて、店を変わっても付いてきている。一応はお得意様だ。
呼び出した居酒屋の個室で向かい合って座っている。
「ねえ、トモの女ってどんな女か知ってる?」
「呼び出してきたかと思えばトモのことかよ」
「何よ」
トモの名前を出すと、広田は不機嫌な顔になった。
広田はトモが嫌いだということは知っているリカだ。広田も同じ組にいたが、解体されてからは行き場がなく、別の組に鞍替えしたということも知っていた。忠実な構成員たちほど、新しくトップに立った男の伝で堅気になったらしいが、広田には厳しかったようだ。その点トモは堅気になるための努力をしている、そんな話も聞いている。
「いや、別に。だいたいトモには会ってない」
「ふうん」
「まあ、噂は聞いたし、見かけたことはある。普通の女だった」
「可愛い系? キレイ系?」
「いや……どこにでもいるような女だったと思う。どっちでもない。つーかまだガキだった気がする。俺はリカのほうがずっと綺麗だと思うけど」
おずおずと広田は言った。
「だったらなんで、トモはわたしに振り向いてくれないのよ」
忌々しげにリカは言う。
自分に自信はあるし、今の店には引き抜かれて来た。人を惹きつける魅力はあるほうだと思っている。男だって寄ってくる。……なのに一人だけは靡かなかった。
「……知るか。トモの目が腐ってんだろ。つーか、おまえもそんなにあいつがいいのか?」
「うん」
「顔も性格もイマイチだろうが。金があるわけでもないし」
「……だって上手だもん」
「え?」
「すっごく優しいの。今までのどの男よりも」
「……寝たのか?」
「な、何よ」
広田がギリギリと歯噛みし、リカを睨んだ。
「もうかなり前の話。三年くらい前かな、最後にしたのは。久しぶりに連絡くれて会って……それっきりね。てっきりわたしに気が向いたんだと思ったのに。寝る相手がいないから誘っただけなのね、きっと。だいたい最近は全然遊んでくれなかったし、連絡すらとれないし、つきあってって言っても女がいる、だなんて」
リカが広田に不満をぶちまける。
広田はリカに惚れているし、リカが男達を手玉に取っていることもわかっていた。が、まさか彼女までがトモと関係をもっていたとは思わなかった。
広田のほうが顔も性格もいいと言われているが、トモのほうがモテるのが不思議だった。トモがなぜ女うけがいいのか、広田には理解できない。トモは確かに男気があって、女子供に暴力的にはならなかった。他の男達が高圧的な態度を取っても、トモは諫める側だった。
「ね、あんたさ」
「なんだよ」
「あたしに惚れてんのよね」
「わ、悪いかよ……てか知ってるんなら俺と付き合ってくれてもいいだろ」
「そうね……トモの女、ちょっと懲らしめてくれたら、つきあってあげてもいいかな」
「え……」
広田の顔が固まる。
「どうせ、そのうちトモに飽きられて捨てられちゃうんでしょ。今まで一人に絞ったことないし、ずっとその女だけなんてまあないでしょ。トモの女になるくらいだったら、今まで散々男と遊んできてるはずだし、だったら、カウント一人くらい人数が増えてもいいじゃん」
「トモの女と寝ろってことかよ」
広田は眉を顰める。
「そうは言ってないわよ、懲らしめるの、ちょーっと痛い目に遭わせてって話」
「なっ……」
「あんた日照りなんでしょ? だったら、ついでにその女とヤっちゃったっていいんだし? それがトモに知られたら、きっと別れるわね。トモは独占欲強い男だもの。なんだかんだ自分のオモチャを取られたら惜しくなる男だから。でもあたしのことは欲しがらないのはムカつくけど」
「そしたらリカがトモの女になるのかよ」
鼻の頭にしわを寄せ、あまり賛同できなさそうな顔をしている。
「どうだろ? だったら嬉しいけど、今さらもういいかな。トモは頭が固いしね、どのみち無理かな」
「俺に何の得もねえじゃんか」
「……ま、今更トモを手に入れてもつまんないし。あたしを振ったのを後悔させてやりたいかなって。そうねえ、あんたが協力してくれるなら、一度くらいはあんたと寝てもいいわ」
「えっ」
「てか、彼女になるのもマジで考えてあげようかな」
「……ほんとか!?」
広田は興奮気味に声をあげた。リカは立ち上がり、広田の隣に座り直した。
「うん、いいよ。あんたのほうが一途に思ってくれそうだし? そうね、やってくれるなら約束してあげる」
リカは広田に顔を寄せるとキスをした。
「これは手付け」
リカにキスをされて、広田は舞い上がった。
こっちもね、とリカは広田の股間をぎゅっと掴んだ。
「うっ」
広田は小さく呻いて赤面し、すぐにその場所が反応した。
「うっそ、可愛い。なあに、その反応」
「うるせー……」
「あたしとシたい?」
「…………」
広田は悩んだが頷いた。
「じゃあ、先払いでもいいかなあ? ちゃんと条件飲んでくれるっていうならね?」
リカはまた顔を近づけ、唇が触れる距離で囁いた。
手は広田の反応した股間を撫でている。
「……うん、飲む」
じゃあ場所変えよっか、とリカは広田を誘った。
「待て、このまま立てないから」
収まるまで待ってくれ、と暗に示唆した。
「ここでしちゃう?」
「バカっ、それは駄目だ」
「ふふっ、かーわいい」
こんなガードの緩い女なんだ、とわかってはいても広田は弱みにつけこまれてしまう。
「ちょろいわあ……」
リカはぺろりと舌なめずりをした。
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