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敵対する者にはそれ相応の対応をするよ?

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 部屋を7日分借りきった。いつも女将さんに今日はどうするか聞かれていたのでいっその事定宿にしてしまおうって事にしたのだ。宿のグレードを上げる程、依頼1つの稼ぎは良くないからね。泊まりがけの依頼もないし野営する道具もなし。お金はあってもFランクなのだ。食堂で無料水を頂いて部屋に上がります。部屋に水瓶が欲しいな。
 ソーサーと串焼きは後で食べるのでテーブルに置いて、先ずは買い漁ったスキルチップの検品だ。ベッドの上に胡座をかいて、装備を外したりカバンから荷物を取り出した。
 不快な店から買って来た88枚、露店で買った高いの10枚に捨て値156枚。1枚1枚確認しながら種類分けをしていった。

不快な店
ハチの絵 1
スライム?の絵 1
ウサギの絵 16
カメの絵 24
石の絵 18
犬?の絵 28

 露店で200ヤンもしたハチの絵は192ヤンもぼってたようだ。それでも捨て値分で黒字なんだけど。スキル屋がもっといっぱいあるなら安いのを探して回るのも楽しいかも知れないね。
 スライム?つやつやの石?水溜まり?使ってみなくちゃ分からない。28枚もあった被りチップも、犬か狼か分からない。狐かも?

露店(高いの)
腕の絵 10

 腕だ。マッチョが力こぶ作ってる腕の絵だ。腕力強化の予感がする。ゴロツキ必須スキルなのに売れてなかったのは新規ゴロツキが減っているのだろうか?治安が良くなっているのか?

露店(捨て値)
鳥?の絵 2
サルの絵 1
ウサギの絵 80
カメの絵 68
犬?の絵 5

 初登場のサルと鳥?鳥にも色々あるから使って確かめるしかないが、飛ぶ為のスキルだったりしたら人に扱えるのかな?サルは村人の敵。サル退治に冒険者呼ぶくらい、敵。

取得済
ハチ 1
ウサギ 96
カメ 92
石 18

未取得
スライム? 1
鳥? 2
サル 1
犬? 33
腕 10

 種類分けもできたので、未取得から取っていこう!新規スキルはワクワクするね。先ずはスライムだか水溜まりだかのやつ。

スキル : 急所外物理抵抗

急所外物理抵抗 : 急所以外の物理攻撃に抵抗力を得る為のスキル。急所以外への物理攻撃に関する防御力が極僅かに増す。

 水溜まりではなくてやっぱりスライムっぽいな。けどこれ普通に物理抵抗だよね。急所に攻撃食らったら抵抗あっても痛いでしょ。目への攻撃を抵抗しても一瞬でも視力を失ったらそれだけで命取りだし。次は…鳥。

スキル : 飛躍

飛躍 : 飛ぶ為のスキル。飛ぶ為の能力が極僅かに増し、無駄な動きを極僅かに抑える。

 これは流石にハズレスキルと言わざるを得ない。だって人は飛べないもの。ジャンプするのには使えるのか?飛ぶ道具でも作ればワンチャンあるのか?ないだろ。気を取り直して人の天敵サル!

スキル : 木登り

木登り : 効率よく木を登る為のスキル。木登りに関する移動速度が極僅かに増し、無駄な動きを極僅かに抑える。

 予想通りでほっとする。ノミ取りとか糞投げとかじゃなくて良かった。それにしても木登り限定かー。あいつら壁も登れるだろうに。次は犬か狼。

スキル : 噛み付き

噛み付き : 効率よく噛み付く為のスキル。攻撃速度と命中率が極僅かに増し、無駄な動きを極僅かに抑える。歯の強度が極僅かに増す。

 歯が強くなるのは常時みたい。けど噛み付きなんて食べ物にしか使わないよなぁ、子供のケンカじゃあるまいし。犬でも狼でも良いけど、この辺りに居そうなのはオオカミなのでオオカミって事にしておこう。ややハズレスキル。
 さあ、次は高いヤツ。1枚50ヤンだからそれなりの物であってほしいぞ。

スキル : 腕力強化

腕力強化 : 腕力を強化するスキル。腕力が極僅かに増す。

 これは予想通り。けど無いよりはマシ程度。1枚じゃステータスにも反映されないや。

 終わった…。まだ使ってないチップはいっぱいあるけど、取り敢えず新規取得は終わってしまった。
 ベッドに横になって考える。中古防具の店主は、スキルチップを何度も使う人を見た事ないって言ってたけど、僕は不思議に思ってるんだ。一度の取得で充分なスキルチップが、なんでこんなにドロップするのか?効果も低くて需要もなくて、買い取り1枚5ヤンなら、稼げる人は捨ててるだろうに、街には結構溢れてる。同じような考えを持った冒険者もいるかも知れない。けど検証しなかった?10枚そこらで諦めたのか、今の僕みたいに100枚とか使うのが面倒臭くなったのか。100枚で効果が上がるなら、1枚10ヤンでもたったの1000ヤンだ。お風呂2回入りそびれるだけで強くなれるならみんなやるはずだよね?
 取り敢えずキリよく10枚買った腕力強化を1枚ずつ千切ってスーハーしてみる。効果が出るなら数値も上がるはずだ。
 …結果、数値は上がらなかった。みんなここで諦めたのかも知れない。なら100枚ならどうだろう?走ると硬化は100枚超えてるし、試してみても良いと思う。出来れば結果の見やすい投擲で試したかったが走るでも良さそうだ。
 千切っては吸い、千切っては吸いを繰り返し、間に昼食を挟んで千切っては吸って夜になった。途中からは歯で千切ってたので噛み付きスキルが活躍してたよ。

 お風呂に行って、夕飯を食べて、ソーサー1枚確保してきた。ベッドに並ぶスキルチップを見て心を決めた。全部使っちゃおう。枚数の少ない物からやっつけて、残るはウサギとカメ。寝る時間が惜しいので今夜はウサギをやっつける事にして、千切って吸って、千切って吸って朝になった。どうやら途中で寝ちゃったらしい。
 朝食を食べて昼食分のソーサーを確保したら井戸端にパンツを洗いに行く。洗うための盥は宿から借りた。奥様方が屯ったむろ て洗ってらっしゃる所に混ぜてもらった。パンツ1枚なのですぐ終わり、盥を返して部屋干ししたら、装備を整え採取依頼をこなしに行こう。

ヌメリニガタケ
デラカライタケ
ウサギノミミモドキ

 今日は森に入り、板に書いてもらったうちの、この3種を探す予定だ。無さそうならウラアカキズフサギでお茶を濁そう。走って歩いて木の門へ、そこから柵沿いを行き森に入った。

 ヌメリニガタケは湿った腐木に生える。なので見つけるポイントは自然と倒木に絞られる。傘表面の強いぬめりと60ドンを超える長さが特徴だ。
 デラカライタケは生木の根から養分を吸うので湿った地面に生える。見つけるポイントは湿った場所全体だ。全体的に赤くてラッパ型、20ドン程の大きさ。
 逆に、ウサギノミミモドキは半日陰で湿り気の少ない場所に生えやすい。ウサギの耳と同じく2本セットで生えていて、群生すると耳だらけになって圧巻。20ドン程の大きさで白と茶色と斑があるが効能等は変わらない。

 最近雨が降ってないので乾燥してるだろうし、ウサギノミミモドキなら生えてるかも知れない。先ずは乾燥している事が多い、森と草原の際を見て回る。…生えてない。乾燥し過ぎてるのかな?地面を手で掃き表土を出して鉈で軽く掘ってみると、底の方に白い菌糸が密生していた。

「こりゃあ雨次第だなー。やめやめ」

 土と落ち葉を埋め戻し、とっとと草地に向かいます。ウラアカキズフサギを探す為藪に潜り込んだ。ウラアカキズフサギを採ろうとすると、カツリョクソウが付いてくる。なぜこんなに取れるのか?それは他の冒険者が他の所へ採りに行くからだ。冊子に[ここがおすすめ!]なんて丸付けてある場所にばっかり行くから数も質も劣ってしまうんだ。本当は畑の柵のすぐ外にだって立派なのが生えてるんだよ?

 昼食は草を折り曲げたベッドに寝転がってのソーサー。草丈が高いので風もなく、暖かい日差しに眠くなる。ソーサーへの噛み付き攻撃を執拗に繰り返し、食休みしながら昨夜やり残していたスキルチップに噛み付いた。今の所、頻繁に使ってるスキルは走ると噛み付きだね。効果の程は…誤差…かな?
 薬草をたっぷり採ってそろそろ帰り時間。早めに帰らないとまたギルドが混むからね。カバンが3つになったので収穫量が3~4割増えたと思う。期待して帰ります。走ってー歩いて走ってー歩いて走ってー…なんか違和感。走ってる時間が少し長い?走るの効果が体感レベルで見えるようになったのかな?宿に戻ったらスキルを確認してみるか…。


「こんにちは。常設の確認と買い取りを頼むよ」

「あ、ゲインさん、こんにちは。装備が充実してきましたね」

 買取りカウンターのメロロアさんはずっとメガネをかけている。きっと忙しい時間帯なのだろう。カバンとリュックを差し出して、確認宜しくお願いします。

「リュックには本来、鍋やコンロみたいな野営の道具等を入れる物なのですよ?」

「タオルとソーサーとカバンしか入れてないからねー。何か入れなきゃ勿体ないよ」

「そのうち増えてきますよ。では確認しますね」

カツリョクソウ 品質高 560本×80ヤン 44800ヤン
ウラアカ 品質高 260本×120ヤン 31200ヤン
総額 76000ヤン

「だいぶ採りましたね。上のは打ち止めにした方が良さそうです。下のはまだまだ余裕ですよ?買い取りでよろしいですか?」

 1日2日で売り切れる量じゃないのだろうね。ほとぼりが冷めたら知らせてもらう事にして、全額振込みにしてもらった。雨が降るまでウラアカキズフサギで凌ぐ、か…。

 宿に帰ってきたものの、夕飯までは時間があるので装備を外してサンダル履いたらカバンにタオルを突っ込んで、先に風呂する事にしたよ。
 湯に浸かってさっぱりしたけど、服を洗わないとよれよれだ。明日は部屋着と普段着を買いに行こうかな。それに雨具もあるといいよね。夕飯を食べながら女将さんの娘さんに服屋さんの場所を聞いてみたら女物の店しか知らないって言われてしまった。まあ確かにそれはその通りだ。女将さんが代わって教えてくれたよ。更に洗濯屋さんを教えてくれた。これはマジ助かる。明日は服買って着替えたら洗濯屋さんに洗濯してもらう事にした。

 …何かをしようとすると邪魔が入るのは、きっと神様がイタズラなさっているからに違いない。夜遅くに降り始めた雨は朝になっても止まず、音もなくしやしやと降り続いていた。朝食を食べながら今日の予定を立て直す。
 雨具を用意する重要度が増した。明日明後日にはキノコ狩りに行くからだ。中古防具屋にあると思うので食べたら買いに行こう。で、雨具をその場で装備して着替えを買いに行く。洗濯屋は雨だから無理。諦めよう。予定が決まり、装備を着込んで外に出た。
 最初に向かったのは中古防具屋。中古屋だけど新品も売っている。僕が見向きもしないだけだ。

「いらっしゃい坊や」

 しやしや雨でしっとりしてる僕を見て、何も言わず人にはやらない《洗浄》してくれた。とてもありがたいです。

「ありがとう。今日は雨具を買いに来たんだ」

「ふふ、でしょうね。少し待ってなさい。見繕ってあげるわ」

 店の奥に入って行って、ゴソゴソしてると思われる。よく手入れされた金属製の鎧を見ながらしばらく待っていると箱を抱えて戻ってきた。カウンター横の地面に置くと、こちらにお尻を突き出しながら1つずつ品物をカウンターに並べていく。

「用意できたからこっちにいらっしゃい」

 変な指遣いで招かれて寄ってくと、色んな物が並べられてた。

マント
皮製。フードが付いた前開きのマント。上半身の汚れや寒さ、ダメージから守ってくれる。4000ヤン

ポンチョ
カエル皮製。丸い皮の真ん中寄りにフードが付いて、足元以外の汚れや寒さ、ダメージから守ってくれる。6000ヤン

耐水ジャケット上下
カエル皮製。フード付き。リュック以外の全身を汚れや寒さ、ダメージから守ってくれる。16000ヤン

耐水ブーツ
カエル皮製。足から膝下までを汚れや寒さ、ダメージから守ってくれる。9000ヤン

 カエルの皮は柔らかいが薄い。その為裏から布張りしてあるので多少お高め。その分雨に強い。
 マントはかっこいいけど雨対策で考えると下策だね。マントは晴れの日用だよ。逆にブーツは買いの一択。
 ポンチョとジャケットは動きやすさの違いが大きい。ポンチョは動くと足元が濡れるし風に弱い。その代わり静かに行動していればリュックは濡れないし、裾に小さな穴が開けてあって、紐を通してペグ打ちすれば簡易テントとしても使えるし、裾を閉じれば袋にもなる。ジャケットはリュックが濡れる代わりにどんなに動いても濡れる心配はない。けど凄く蒸れると思う。雪の日向けかも知れない。

「汗かきだから、ブーツとポンチョが良いかな」

「良い選択ね。耐水リュックだったらジャケットでも良いけれど、あれはうちには置いてないのよ」

 カエルの皮を革張りする為かなりお高いそうで、中々中古に回ってこないのだとか。いずれは欲しい逸品だと思う。
 ポンチョとブーツで15000ヤンのお買い上げ。その場で装備させてもらうと、とてもオリーブ色になった。カエル色とも言う。お礼を告げて次の店に向かった。


「いらっしゃい。雨具はひっくり返しておいとくれ」

 服屋の女将の言われるままに雨具を畳んで草編みカバンに仕舞う。

「こんにちは、普段着の揃えを二着欲しいんだけど、見繕ってくれる?」

「あいよ。あんた、村の子だね?」

「うん。ツデータ村長の村から来たんだ」

「そうかい。あそこなら知ってるよ。誰の子かねぇ」

 父さんの名前を出すと、やはり知ってた。話をしながら体格に合わせた上下を二揃え用意して貰えたよ。長ズボンにシャツとベスト。街で暮らすならこのセットが基本らしい。2セットで1万ヤン。中古でも服は高いのだ。皮の方が安いので冒険者でなくても皮の服を着ている人は多い。特に荒くれ者とかゴロツキとか野盗とか。後は職人の人だね。
 買い物を終えて露店街に寄ったけど雨足が強くなって誰もいなかった。昼食はソーサーだけか…。

 宿の部屋に戻って濡れたポンチョとブーツをタオルで拭き、テーブルの上に干す。ブーツは椅子を引っくり返して脚に刺して干した。草編みカバンも干しておく。

「結構、荷物が増えたな」

 ベッドの上に荷物を広げて種類分け。依頼に出るのに余計な服は要らないからね。街の子セットは明日着るので1つは枕元に、その他の物は畳んで足元の隅に安置した。今日はもう外には出ないので、装備も外してベッドの隅へ。よれよれ服の僕もベッドに横になった。《洗浄》されてもよれよれはよれよれのままなのな。ソーサーに噛み付き、ふと目に止まったスキルチップの束で思い出した。走るスキルの確認しなきゃ。
 ステータスに集中し、走るのスキルと効果を確認する。

スキル : 走る☆

走る : 早く移動する為のスキル。速度が僅かに増し、体力の消耗を僅かに抑える。

 ☆マークが付いた!?それに効果も極が消えてる!119枚使ってるので少なくとも119回重ねて取得すれば☆が付いて効果が上がる事が分かった。これはカメも千切らねばなるまい…、けど先にソーサー食べちゃおう。
 …で、何枚使えば上がるのか気になったので1枚1枚破いて吸い終わるごとに確認していき現在98枚目。予想なら後2枚。噛み付いてスーハー…まだ。噛み付いてスーハー…あれ?まだだ。数間違えたかな?101枚目に噛み付きスーハーして確認…。

スキル : 硬化☆

硬化 : 攻撃を受ける為のスキル。装備と肉体の防御力が僅かに増し、痛みを僅かに抑える。

 変わった!名前に☆が付いて極が消えてる。数え間違えて100枚だったのか、1枚目で発生したスキルに100枚追加した扱いかは分からないが、とにかく効果が上がったぞ。そんな事をしていたらすっかり夜。集中し過ぎは良くないな。夕飯を食べに食堂へ向かい、お風呂は…まあ良いか。夕食後は再びベッドに横になり、残りのチップを使い切って寝た。スキルチップ千切ってただけなのにすごく疲れた気がするよ…。

 朝になり、廊下からガチャガチャ鳴る音で目覚める。今日は晴れたみたいだね。僕も起きて朝食にしよう。パンツを履き替え街の子セットに着替えたら食堂に降りて朝食だ。娘さんによれよれじゃなくなってる事を指摘され、女将さんにはたかれてた。
 食後は装備を着込んで森に向かう。多少ぬかるんだ街道に耐水ブーツが機能を発揮してくれたよ。走るスキルがそれなりに効いてるみたいで誤差程度には早く木の門にたどり着けた。

「お、ゲインだったな。一瞬カエルかと思って槍握っちまったぜ」

「おはようゲロー。奮発して買っちゃったゲロ~」

「元が取れるように頑張れよ」

 帰りはカエル飛びで来てやるか?槍を投げ付けられそうなので止めておく。それじゃあまたねと畑の柵沿いに森へと向かっていった。

 森の入口の地面は足踏みしたら水が上がってきそうなくらい湿ってる。ウサギノミミモドキは後回しにして、先にデラカライタケやヌメリニガタケを探してみよう。捜索範囲の広いデラカライタケを優先したのは赤くて目立つし、デカいヌメリニガタケより小さいので早く成菌になるからだ。それに、地面を探していれば倒木くらい見つかるだろうし、ヌメリニガタケはデカいからそれなりに気付く。
 木を背にし、視野を広く取って赤い物、倒木、動く物を探す。視野を狭くすると、ここではしないが滑落したり、敵に襲われる事だってあるのだ。今は背後を気にしているが、もちろん木の上からもくる。クモやヘビ、サルなんかがそうだ。奥へ奥へと4箇所程見た所で視野の向こうに赤い物が見えた。見つけたか!
 見つけてなかった!赤い木の実でした。ちなみに有毒。潰した汁が猛毒で、適切な処置をしないと死に至るそうな。幅広の葉っぱに10個程包んでおこう。ナイフに塗って良し、相手の口の中に放り込んで良しの投擲武器となった。
 更に探してやっとこさ、デラカライタケの群生を見つける事ができた。手こずらせやがって。木のナイフで石突きの周りをほじり、グラグラした所で優しく引っこ抜くとキレイに採る事ができる。あとは石突きに付いた土を削り落としてカバンにそっと仕舞うのだ。傷物にすると価値が落ちるのでとにかく優しく、詰め込み過ぎも良くない。数が採れないので高値がつくといいな。
 カバン2つにふんわりパンパン。大きい物を選んでこれなので、この群生は大当たりと言える。おかげで他のは取れそうにないな。早歩きで木の門まで移動して、そこでお昼のソーサーを食べた。

「お前若いんだから肉食え肉ー」

 門番さんに肉食を勧められたけど、調理器具も串焼きを買う時間的余裕もないんだよ。そんな事言ってると干し肉買って持ち歩け、なんて答えが返ってきた。けど実はそれは悪手だったりする。僕が森に入りだして1度もモンスターに出会わないのは、匂いのする食料を持ってないからなんだ。もちろんこの場所にモンスターが少ないってのもあるけれど、泊まりがけの依頼でない限り、肉は持ち歩かない方が良いんだよ。お肉食べたいのでもう帰ろう。露店で串焼き買うんだ!
 走るとキノコを傷付けそうなので早歩きで帰る。時間もかかるしすごくやきもきさせられるが、それでも我慢してギルドに辿り着くと、メロロアさんに褒められた。

「どれもキレイで状態の良い物ばかりですよ」

「数を増やせないのが痛いね。刻んで良いなら詰め込むだけ詰め込めるのに」

「キレイに水洗い出来ればそれでも良さそうですが、手間等を考えるとどちらとも言えませんね」

 刻まれた野菜と丸の野菜、どちらを買うかと言われたら…そう言う事である。小売は儲けられるが生産者である僕は得しないのだ。

「そうだ、これも買い取れるならお願い」

「買い取り出来ない程程度の悪い物ですか?」

「売れなくてもいいけど処分に困る物だね」

 葉っぱに包まれた赤い実を見せてあげた。眉間にシワが寄って、うーーーーんと長く唸った。

「買い取れますけど売り先がないんですよね」

「これ使うと食べられなくなっちゃうもんね。明日にでも森に埋めてくるよ」

デラカライタケ 品質高 86本×250ヤン 21500ヤン
総額 21500ヤン

 メロロアさんから提示された金額は、全てギルド証に振り込んでもらった。単価が高くて嬉しいが、持ち込みが少くて悲しい。哀愁漂わせギルドを出るカエルくんこと僕だった。誰だカエルくんなんて呼んだのは!?
 宿に戻って装備を脱いで、洗濯物をカバンに入れたら露店ではなく洗濯屋へ向かった。洗わないと着られないからね、ヨレヨレだし。洗濯屋のおばちゃんに洗い物とお金を渡すと魔法の力で洗いから乾燥までしてくれるそうだ。すごいおばちゃんだ。量次第だが1回500ヤン。僕の服なら上下10セットくらいまで500ヤンで良いとの事だったけど、そんなに持ってないし溜めとくとキノコとか生えそうだからこまめに洗ってもらいたい。雨の日もやってるけど混んでるそうな。
 1オコン程したらまたおいで、と仕事に入ってしまったので今度こそ露店に向かう。とは言え今串焼きを買うと洗濯物を受け取る頃には冷めちゃうな。露店を見て回ろう。
 露店を見て周り、水瓶になりそうな物を探す。壺でも瓶でも盆でもいい。部屋で水が飲めるなら水筒でもデカいジョッキでも構わない。で、見つけたのがこれだ。

寸胴鍋
鉄製。スープを作る為の調理器具。直径20ドン、容量約6ナリ。1500ヤン

 厚みのある鉄製でこれは激安だ。取っ手が片方ないくらい全然問題ない。木のコップおまけしてくれるって言うので即決した。初めて露店で良い買い物した気がする。

「あんたね?スキルチップ買い占めてる奴は!?」

 洗濯が終わるまで時間を潰そうとぶらぶらしていたら、突然女にあんた呼ばわりされた。

「さあ?」

 買い占めと言われても300枚程度、高いのは買えないし売り側も買えと勧めてくるくらいだ。きっと僕じゃないと思う。

「しらばっくれてんじゃないわよ!」

 赤い髪を振り乱して近寄ってきたので同じペースで後退すると駆け寄ってきた。うわすごく面倒臭い。

「ハチのチップ狙ってたのに!死ね死ね死ね死ねー!」

 女なら男を殴り付けて良いのか?死ね死ね言うって、殺す意志あるんだよな?自分が殺られる覚悟あるのか?飛んでくる拳に寸胴鍋を合わせた。

ゴアン!

 良い音鳴ったな。硬化☆の効果はいまいち実感出来ないが、相手は痛そうだ。

「ハチのチップなら店売り8ヤンだったぞ。そんな物買うのに目くじら立てるならもっと店を調べろよ」

 もっとも、在庫があればだが。寸胴鍋の凹みを確認して更に突っ込む。

「この鍋買ったばかりなんだけど弁償できんの?1500ヤン。出来なきゃ衛兵詰所に被害届けを出すし冒険者ギルドにも報告するから」

「ちょ!それはあんたが勝手に「身を守るための行動が勝手とはなんだ?お前の体は勝手に人を殴るのか?」それは…」

「赤い髪の女で青目の吊り目、200ヤン貯めるのがやっとの冒険者な。受け付けのマーローネさんに報告するから」

 わなわな震える赤女を放置して串焼きを購入し、洗濯屋に移動した。が、まだ早かった。ガタガタ震える木箱の中でどうにかなってる自分の服に思いを馳せながら串焼きに齧り付いた。

 乾いて少し軽くなった服を受け取り、ギルドに向かう。昼過ぎでガラガラの受付けには並ぶ事なくマーローネさんの前に立つ事ができた。

「あらゲインさん。先程買い取りの方にいらしてましたよね?今度はどんなご用ですか?」

「こんにちは。露店街で冒険者に襲われたので報告にきたんだ」

 基本的に、ギルドは冒険者同士のいざこざには関与しない。だが街中でのいざこざであるならば一般にも被害が出る可能性があるのでその限りではない。人気の少ない室内での僕の発言に、周りが耳をそばだてた…気がする。
 状況報告と証拠の提示、女の特徴等を説明していると、マーローネさんの横に、耳の垂れた獣人の受付嬢が立った。どうやら加害者に心当たりがあるようで、なりたて冒険者の女にスキルを増やすのを薦めてたそうだ。女がギルドに来次第問いただすと約束してくれた。
 鍋の弁償も確認が出来次第必ずさせるとの事だけど、200ヤン貯めるのに必死だったヤツに払えるのか聞いた所、最悪奴隷になるそうな。僕が常に予備費を気にするのにはこれもあるからだ。貸し借り双方の都合にもよるが、1ヤンでも奴隷になってしまうのだ。今回の場合は、僕に対して暴力を振るった犯罪か、鍋の弁償金が払えない借金かで対応が変わるそうだが、僕としてはどちらでも良い。奴隷になってここから消えろ、だ。

 鍋を返して貰えたので凹みを直してもらいに行こう。修理してくれそうな宛なんて1つしかないんだけどね。そう、中古武器屋だ。

「こんにちはー。修理お願いしたいんだけどー?」

 カウンターには誰もいない。けどきっといると思う。カウンターの奥を覗き込むと毛むくじゃらと目が合った。

「起きとるぞ?刃でも欠けたか?」

「買ったばかりの鍋を殴られちゃって。直せそうな宛がここしかなかったんだ。ダメかな?」

「…普段はやらんが、見せてみい」

 寸胴鍋を顔の前にかざしてやると、ガシッと捕まえグルグルと見回してる。凹みにヒビがあるそうで、知らずに使っていたら水漏れする所だったのだと。試しにとばかり、奥の部屋から持ってきた柄杓の水を入れて確認すると、凹みの近くからじんわり水が垂れてきた。
 焼いて叩けば直るそうなので、早速修理お願いします。修理費用は刃物の研ぎと同じ300ヤン、完成は明日の午後だとさ。

 部屋に戻ってきた僕は、暇つぶしに工作する事にした。糖の木に登った時に使った綱の残骸で編み込みのカバンでも作ろうと思う。今使ってる草編みのカバンも僕のハンドメイドで、農閑期の主要産業の1つと言える。
 綱を解してバラバラにしたら、細く割いて撚り合わせ0.5ドン程の糸にする。長さは元が1ハーン程なので繋ぎ合わせて1.8~1.9ハーンにした。これをとにかくいっぱい作る。2段で1ドンと少しなので、50ドンの深さにするには100本は必要なのだ。縫い合わせ用や予備も含めて220本。もう夕方だ…。ご飯食べてお風呂に行こう。
 風呂から帰って作業再開。太さ1ドンのロープを3本横に並べて芯にする。これに糸を格子状に編み上げる事100本。密に編んで50ドンの長さになった。
 ここから立ち上げていく。紐を芯に巻き付けたら芯に編み込んだ紐と格子状に編み合わせ、反対側の芯へ、半分回して編み上げて、紐が終わったら二目手前から繋げて…を繰り返し100段。大体50ドンの高さにできたら芯の紐を隣へ隣へ縫い込んでマチにした。3本の芯は三つ編みにして、両端が良さげな長さになったら編み込んで太い三つ編みの肩紐になった。最後に、カバンの口が開きすぎないようにする紐を取り付けて草編みカバン2号の完成だ。
 夜更かしし過ぎたので寝るぞ!



現在のステータス

名前 ゲイン 15歳
ランク F/-
HP 100% MP 100%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る☆
刺突
硬化☆
投擲
急所外物理抵抗
飛躍
木登り
噛み付き
腕力強化

所持品

革製ヘルメットE
皮手袋E
皮の手甲E
皮のエプロンE
皮の脚絆E
耐水ブーツE
耐水ポンチョE
街の子服AセットE
パンツE

草編みカバンE
草編みカバン2号E
布カバンE
革製リュックE

木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
革製ベルトE

冒険者ギルド証 306000→370700ヤン
財布 銀貨1 銅貨8
首掛け皮袋 鉄貨26
 
冊子
中古タオル(使用済み)
中古タオル
中古パンツ
布の服
布のズボン
サンダル
革靴
街の子服Bセット

スキルチップ
ハチ 0/2
ウサギ 0/119
カメ 0/127
石 0/31
スライム 0/1
鳥? 0/2
サル 0/1
オオカミ 0/33
腕 0/10
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