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1人分軽くなったが作業量は2倍だ。
しおりを挟む「真っ向から殺り合うには頭数が足りないからな。カウモアと俺はメロロアと出る。タララとアントルゼはここでセイコーを守ってくれ」
「あたい、役立たず?」
「セイコーにアントルゼを乗せて走り回らせても良いが、馬車が壊されたら大損だからな。だから籠城したいんだ。タララが居てこその作戦だよ」
タララをなでなで言い聞かすと、今度はアントルゼが客車の外で拗ねる。
「私が役立たずなのね。否定はしないけど」
「セイコーに乗りながらの射撃が当たるとは思えんが、壁の上からなら当たるだろ。お前も籠城向きなんだ」
外に出てアントルゼも撫でる。とにかく人が足りないんだ。
「物は言いようね」
「感情で行動は出来ないんだ。ごめんな」
「知ってる。キスしてあげるわ」
戦場に行く者にされるキスは戦女神の加護を賜る、なんて言う。物語によくある文面だ。身をかがめると首に抱きつき舌を絡めてねっとりとしたキスを賜る。賜る…長いよ。
「ぷふ…。私、あンたの子なら産んでも良いと思ってるの。だから、生きて戻りなさい」
「落ち着いたらお願いするよ」
「ゲイン様。私にもお慈悲を」
ブロードソードを腰に提げたカウモアが膝を着いて待っている。これどうすりゃ良いの?キスすんの?
「キス、して良いのか?」
「時間がありません」
唇が触れ合うと、アントルゼ同様首に抱きついて来る。…だから長いって。
「ゲインさぁん」「ゲイ~ン」
んもう!メロロアにもぶちゅ~っと、タララにもべろべろ~ってしたよ!壁に穴を開けて外に出ると、すぐにメロロアは消えた。俺とカウモアは出来るだけ静かに、そして迂回しながら村へと移動する。
「土だと不安だが、ブロックを持っておこう」
「了解です」
移動しながら地面を切り出し、村の側面の畑の中に身を隠す。均一に植わってないから草藪と変わらんな。俺達が身を隠すのと同時に、家々から火の手が上がった。メロロアだ。突然の火事に狼狽える賊共。狙う対象はアレか。
「射撃する。間違えるなよ?」
「了解。いつでも」
火を消そうと動き出した村人を装った賊に向けて小石を射出する。狙いと威力が完璧な一撃が、賊の後頭部に直撃し、倒れた。カウモアの方も1人、また1人と倒して行く。2人で10人程倒した所で、村の家の全てが燃えていた。
火事の処理を諦めた賊が人質の周りに集まりだした。馬に乗ってる奴も居るな。
「弓は得意か?」
「一通りは」
「なら弓なりにブロックを撃てるか?」
「3発で一斉射ですが、やれます」
「頼まれて助ける訳じゃない。誤爆しても気にするな。寄って来たのは俺が殺る。撃て」
「了解です」
切り出したブロックを縦に3発。ぼろぼろと粉を撒き散らして飛んで行く。昼間なら丸見えだろうが炎揺らめくこんな夜では見えはしない。1回目の射撃では1人が倒れた。人質が!とか卑怯とか聞こえるが、戦争に卑怯もクソもあるか。バカみたいに固まって寄って来ないのでブロックを渡す速度を早める。
賊共が射出方向に気付いて人質を前に出す。やっとか。後はメロロアに当たらないように撃ってやれば良い。アイツは好き好き大好きーって感情を敢えて出してるのでそこを狙わなければ良いだけだ。カウモアは気にせず狙ってるが。
家の屋根が焼け落ちて一瞬光量が変わる。それに合わせて小石を射出。棒立ちの賊を落としてく。
「そこかっ!」
馬に乗った賊が足音を立てて走って来るが、馬に乗ってる時点で負けだ。振りかざされる剣を右腕ごと収納してデリートウォーター。馬はゆっくりと足を止め、跨っていた賊はドサリと畑に落ちた。
「おいで」
草を食んで、寄って来る。よく調教されているな。軍馬じゃ無いけど似たような事はしていたのだろう。朝、行商に来てた子の一頭だ。鼻を撫で、鞍に跨り柵へと近付いてもらう。その影をカウモアが続く。
「だいぶ減ったな」
「てめぇ!よくむぎゃっ!」
口より体を動かすべきだろ。人質を立たせて壁にしようなんて輩はメロロアに後ろから首スパーされてるけどな。
朝になり、被害を確認する。賊は全て死亡、総数58。人質の死者は2人でいずれも冒険者。生存者14人で冒険者は3人。馬車及び馬に被害無し。
「感謝するよ。お前等のおかげで死んだのは俺達のメンバー2人だけだ」
嫌味にも聞こえるが、それ俺達のせいじゃないだろ?前衛らしき若い男が声をかけて来た。
「1度街に戻った方が良いかもな。先は長いだろ?」
「国境越えの依頼なんだ。戻るに戻れんよ」
「そうか。3人でやれるなら頑張ってくれ。俺達は手伝わないからな」
「なっ!お前それでも冒険者か!?」
俺が前もって手伝いを拒むと途端に怒りを顕にした。
「足手まといじゃん、お前等。野盗狩りに戻れよ」
そう言って男から離れた。眠いけどやる事あるんだよ。
「ゲインさん。死体の剥ぎ取り始めてますよー」
「ああ」
そう。戦利品の回収だ。58体の死体に前日狩った5体からも金目の物を頂いて、ゴミは埋めなきゃならん。カウモアには前もって穴を開けてもらってて、メロロアは剥ぎ取り終えたゴミを穴に投げてる。一々鑑定しながらでは効率が悪いので布以外は全て回収し、後で検める。
死体が終われば今度は家の中。燃えカスの中からはろくな物が出て来ないが、片っ端から回収すると鍋や包丁、鍬の頭等が拾えた。お金は銅貨と銀貨がちょこっと。燃えた死体やら燃えカスは穴に投げ捨てる。
「ゲイ~ン。もう朝だよ~?」
野営地を簡単に片付けたタララとアントルゼが馬車に乗ってやって来た。装具がちゃんと着けられてるのはアントルゼがやったのか。偉いぞ。
「こっちはもう終わったよ。飯は食べたか?」
「まだよ。それに眠いわ」
「ゲイン~、また女が増えてる~」
「馬だろ」
あの時跨った馬が俺の傍から離れないのだ。村の馬ならまだ分かるが、この子は他の村の子だ。
「モテモテね。セイコーが妬くわよ?」
「セイコー。この子は飼い主を亡くしたんだ。一緒に暮らしちゃダメか?」
「……」
「セイコー」
「……ブフー…」
どっちなんだよ。取り敢えず、この子はメロロアに乗ってもらう事にした。
「んでさ、飼うなら名前付けなきゃ」
「そう言うの、父さんがやってたからなぁ」
「可愛い名前にしてあげなさいよ」
「可愛いなぁ…」
タララの言葉にアントルゼが乗って来て、名前を付けなきゃならない雰囲気。他の面々も俺を見てる。セイコー、お前もか。
「じゃあ…、ベガで」
「可愛い名前にしてあげなさいよ!濁音しかないじゃない」
「美しさを名前にしてみた」
「ブヒヒーッ」「ブヒーーーッ」
どっちなんだよ!ベガと名付けた子は擦り寄って来るので気に入ったのだろう。多分セイコーは違うよな。撫でてあやして撫でておく。
「アイツ等動かんし、俺達も野営地で1日過ごそう。眠いや」
「そうですね。朝ご飯もまだですし」
馬車に乗り込み野営地へと帰る。乗り合い馬車は動かないみたいだな。野営地に戻ってみると、結構壁がボロボロだ。土だから長くは持たないのだろう。賊は殺ったが、敵が居ない訳じゃないので泊まるなら作り直しをしないとな。
取り敢えず馬車を野営地に入れて、みんなが朝食を作ってくれてる間に外をウロウロする。盆地の壁はそこそこ硬いようで、1つ試しに切り出すと日干しレンガ程度には硬かった。これを堀抜いたら馬房に出来そうだな。高さ3ハーン、幅3ハーン、奥行5ハーンで切り出してみた。中々良さそうだ。横に1ハーン程開けてもう1つ。切り出したブロックを並べていると、朝食の支度が整ったとアントルゼが呼びに来た。
「以前掘った石窟みたいね」
「雨さえ降らなきゃ1日は持つだろ」
「この場所は丸くした方が良いわね」
「それは美的感覚としてか?」
「石橋とか、聖堂とか、みんなそうなってるわよ?何か理由があるのよ」
「そんなもんか。後でやってみるかな」
ひとまず戻って遅い朝食を食べる。腹いっぱい食べて、寝ざるを得ない。見張りをタララとアントルゼに任せ、しばし寝る…。
目が覚めて昼前。昼食は干し肉で済ませるとして、タララとアントルゼは寝てしまった。籠城とは言え起きてたのだろうからな。カウモアに見張りを頼んでメロロアを連れて外に出た。
「もしかして、こんな昼間から…ですか?」
「せめて壁で囲ってからにして欲しいな」
「そんなに良かったですか?」
「当たり前だろ。金持ち貴族だったら一生耽ってられる自信があるぞ」
「落ち着いたら、また。さて、ちゃっちゃと壁を建てますか!」
ブロックの切り出しに慣れたメロロアが壁を切り出し盆地の壁に空間を作ってく。所々に柱を残し、強度は考えてるみたいだな。俺は地面に壕を掘り出して、10ハーン四方程の広さの野営地となった。壁は4ハーンの予定で積み上げる。3割程積めたかと言う所でカウモアが馬車に乗ってやって来た。そろそろ昼飯だな。
セイコー達を馬房に入れて水と干し草を与える。2頭共もりもり食べてるよ。俺達は干し肉と水。食休みして午後はみんなで壁作り。夕方前には堅牢な要塞となった。
「ゲイン、トイレと水浴び場なんだけど」
「トイレは壁を個室分切り出して板を立てるか。水浴び場はその中で良いだろ」
「そうね。分かったわ」
トイレ作るの忘れてたぜ。アントルゼがトイレを作る中、俺達は夕飯の支度だ。薄ソーサーを焼き、干し肉を炙り、スープを温める。干し野菜はすぐに火が通るから便利だ。暗くなる前に食べてしまおう。
水浴びは俺が最初で後はおいおい浴びると言う。自分の食器をまとめると、ランタンを持って穴の中に入ってく。場所は馬房の裏にした。奥はメロロアがどこまで掘ってるのか分からないからな。
ウォーターウォールを浅く広く、2回で座って入れるくらいの浴槽になった。壁に背中を付けると汚れそうだ。板で囲めば良いかも知れない。
「ふぅ…」
水風呂は入るのに気合いが要るが、入ってしまえば慣れて来て、こんな吐息も出てしまう。顔を洗って髪をゴシゴシ。汗と汚れを水に溶かし出す。
「ゲインさん、来ちゃった」
「あ、メロロアさん早いってー」
背後からメロロアが、そしてタララも来た。メロロアは既に裸で俺の背中に柔らかい物を当てているし、タララは躊躇なく鎧をしまってザバザバと水壁に入って来た。
「交代か?」
「そのまま居て下さい。見張りは私達がしますから」
「ゲイン、心配したんだからね?いつまでも帰って来ないで…」
「人質が敵になるかも知れなかったからな。呼びに行けなくてごめんな」
横に座るタララの肩を抱き、頭を撫でる。密着するタララも柔らかい。
「生きてて良かったよ…」
「アントルゼ嬢と子作りするんですもんね」
「ゲイン~…」
「俺平民だけど、タララが良いならみんなともしたい。好きだって言ってくれる子を無碍にはしたくないもん」
「だよね。分かってる。みんなゲインの事好きだもん。けど、あたいが1番好き!」
飛びかかられてべろべろされた。ヨダレまみれの顔を洗う間もなくメロロアからも舌を入れられた。
「ん…んふぅ、私、好きな人と一緒に生きられる生活なんて、出来ないと思ってたんです。なのでゲインさんには感謝しかありません」
「メロロアさんおおげさだよー」
「私、暗殺者ですから…」
「今は俺達の大事な仲間だ」
「そのうち可愛い奥さんになるんですね?頑張ります」
「そうだな。タララも頑張ろうな」
「うん。だから、キス、して?」
甘えるのが上手くなったな。チュッチュしながら手早く体を洗うとアントルゼ達と交代した。
「ねぇゲイン。私、あんたに初めて全部見せるの」
「隠しても良いと思うぞ?その方が恥じらいある女に見えるし」
「恥ずかしいわ。自信も無いもの」
そう言って、背中を合わせて座るアントルゼ。
「昼寝した時は柔らかかったよ。期待できるんじゃないか?」
「だと良いわね。出来ればあのくらいにはなりたいわ」
「私に誇れるのはこの程度ですから」
腕を組んで胸を強調させて俺の前に座るカウモアのおっぱいがぷかぷかと水に浮かんでる。目が離せない。
「それ、浮くのか」
「いつも眼福させて頂いてますので、どうぞごゆっくり凝視してくださいませ」
「今敵が来たら立ち上がれないよ…」
「これ、性欲なのよね?」
「触れないでくれるとありがたい」
「そうね。敏感だって、メロロアが言っていたわ」
「そうだな」
「私ね、もう平民だから。あンたと離れたら生きて行けないの。早く恩を返したいけど、今の私じゃ満足させられない。役に立てるように頑張るから」
俺の背中を抱きしめて、優しく体を撫でるアントルゼの頬にキスをする。
「戦女神のキス、嬉しかったよ」
「いつでもして良いから」
「そんなに何度も命懸けにはなりたくないよ」
そう言って唇を重ねると前に回り込んで俺の上に座り直す。咄嗟にカウモアがアイツを押し下げてくれたが、離してはくれないようだ。
「手、離しなさいよ…」
「今はダメです。街に行ったら教えますので」
「次の街では長居するから、その時には、な?」
「そんなの、恥じゃない…」
「恥じゃないよ。それに、こっちが先な」
アントルゼを抱き上げて、薄く膨らむおっぱいを吸う。初めての感覚に、頭に抱きつく圧が強い。両方大きくなるように均等に吸ってやると、小さな声を漏らして体を預けて来た。
「次は、私の番だから…」
小さく呟くと、体も洗わず出て行った。
「体を洗いますのでお立ちください」
もう洗っちゃったんだけど、カウモアの言葉に素直に従った。
カウモアとの長風呂ですっかり体の冷えた俺は竈の火で温まりながら夜の番をする。その横ではタララが熊皮の腕に抱きついている。
「寝るなよ?」
「ん~」
「寝るなら寝て良いから、客車で寝れ?」
「ん~」
「燻し肉食うか?」
「ん~ん。ねぇゲイン。カウモアさんとエッチな事、した?」
ドキッとする事を言う。女の勘か?それとも匂いか?
「したよ」
「そか。気持ちかった?」
「凄くな。タララもそうだし、みんな我慢させてるのは分かってる。俺ばっかりでごめんな?」
「次の宿、二人部屋じゃ、ダメかな?」
「四人部屋と一人部屋で、どうだ?」
「ん。それで…」
「体が落ち着くまでは依頼は受けないで、ある物を切り売りして行こう」
「ん。……」
その時、タララが壁の外を指差した。本数は1。感知系スキルを集中させると誰かが1人で忍び寄ってる。警戒に、小さな殺意。俺は容赦せず、捨て切れなかった土のブロックを射出した。
撃ち方はカウモアのを見て、そして壁を作りながら練習した。縦に並ぶ3発が、高い放物線を描いて音も無く飛んで行く。
ドサッ!ぐあっ!ドサッ!
1発で真ん中に命中すると、メロロアが起きて来た。
「回収します」
「よろしく頼む」
スっと消えて、しばらくすると、男を担いで帰って来た。朝、俺に話しかけて来た冒険者の男だった。
「何しに来たんだろね」
「協力を得ようとするなら昼間のうちに金でも持って来りゃ良いのにな」
「大方、寝込みを襲って誰ぞ人質にでもしたかったのでしょう」
「やってる事が賊と変わらんな」
装備を剥ぎ取り、金は…持ってないか。ギルド証を引き千切ったら、このゴミどうするか。
「片付ける時にでも一緒に埋めてしまいましょう」
「そうだな」
女達に持たせたくないし、俺が回収した。
朝になり、朝食を食べたら壕を埋めて出発する。壁がまだ残っているが、ここなら誰の迷惑にもならんからな。穴の入り口だけ埋めて、後は放置した。冒険者の死体は土の下だ。
俺達が出発するのを見て乗合馬車が寄生するようで付いて来た。助ける義理は無いのでセイコーには足を使ってもらう。メロロアがベガと先行してるので1人分軽く、騎馬であるベガの足も早いのでほぼセイコー自身のペースで走れている。鎧が無ければもっと楽だろうが、それだけは勘弁してくれ。
運良く1つ目の休憩地まで会敵無く進めた。すぐに2頭に水を出し、みんなには干し肉を配る。昨日同様休憩は短めで、ベガの様子を見てその場を離れた。
「居るんですけど逃げちゃいますね」
馬足が早いからか、それとも斥候が出てるおかげか。とにかく野盗の斥候が逃げて行くとメロロアが報告に来た。メロロアはベガを置いて行く訳には行かないので確実に殺れる位置でなければ対応出来ないと言う。大して金も無いだろうし、食えもしないので放って置くしかない。それからしばらくして2番目の休憩地に着き、少しだけゆっくりとした昼食を食べて村へと向かった。
「ここは村ですが多少物が揃ってるそうですよ」
「みんな、大きい村だが寄りたいか?」
「ねね、お風呂屋さんあるかな?」
寄るかと問うとタララが応えた。タララは風呂好きになったか。良い事だ。
「無いと思います。村ですから」
「それに川も無いよな」
街であれば井戸水を使えるだろうが、村の井戸はそんな事には使えない。大きい村であってもその辺の認識は変わらないのであろう。
「ん~。じゃああたいはいーや」
「なら私も良いわ。アレの後だから治安悪そうだし」
「馬車の見張りをする必要があるのですから、宿に泊まるのは無駄ですね」
「ですよね。では進んだ先で良さそうな場所を探しますか」
村へ向かう側道を無視して進む。村を過ぎて畑を越えると、背の高い草藪が生い茂っていた。隣を歩くメロロアはここに決めたいようで口を開く。
「ゲインさん。この辺りでどうですか?」
「反応はひとまず無いけど…、寝るなら少し奥まで行くべきだろうなぁ」
「ゲイン様、それでは草を払います」
飛び出してツーハンドソードを抜くカウモアを止める。道は敵を呼んでしまうからな。
「カウモア、ちょっと待って。アントルゼ、手網を頼む」
「分かったわ。停めてちょうだい」
「どうしましたか?」
馭者席から降りてアントルゼと交代すると、カウモアに理由を説明する。
「確かに、道を作ると間違えて入る者や狙って入る者もおりますね」
「だから少し奥に入ってから道を作り始めて貰いたい。入口は俺が作ろう」
理解をすると待機するカウモアの横に馬車が出入り出来る程度の幅で広く浅く、板のようなブロックを切り出した。幅5ハーン、奥行10ハーン、深さ2ドン程の段差を切り出すと、カウモアは中に入って草藪を切り始める。それを見てアントルゼがセイコーを出来たての側道に移動させ、さらにメロロアが続く。俺は刈り取られた草を集めながら切り取った草藪を元の位置に張り直した。
「ゲイ~ン、あたいやる事な~い」
「壁作るまで待っとれ~」
街道から100ハーン程進み、干し草の材料は充分過ぎる程採れた。飼葉にするには毒草と薬草を除けて乾燥させる。毒草はポイして、薬草は後でおやつにしたり尻拭く葉っぱになる。装具を外され自由になったセイコーとベガは俺の近くで草むしり。左右からくっ付いて来て潰れそうだ。
「ゲイン~、壁手伝って~」
「今行くー。セイコー、ベガもちょっと行ってくるよ。トイレは端の方でしておくれ?」
「ぶる」「ぶるる」
首元を撫でて語りかけるとちゃんと理解して離れてくれる。2頭共良い子だ。壕と壁、馬房の壁には板を乗せ、トイレと水浴び場をこさえたら一通り完成した。みんなが料理を始めるので荷物を降ろし、俺はセイコー達を洗いに行く。洗う量が倍になり全身ビタビタ。俺も一緒に水浴びしちゃおう。鎧を仕舞って水壁に突入した。
「あ~、ゲインがセイコーちゃん達と水浴びしてる~」
「良いんじゃない?私達もしたでしょ」
「ゲインさんは人より馬の方が好きなのかも知れませんね」
「馬の発情期は、確か暖かくなる季節でしたね」
「ゲイン!?馬人はダメだかんね?」
何を訳の分からない事を言っているのか。キレイになったセイコー達を乾燥させて馬房に入れたら、自分と装備を乾燥させる。一仕事終えた気分だ。
「俺はもう水浴びしたから夜の番は最初にやるな」
「あたいもゲインとするー」
その一声で俺とタララ、アントルゼとカウモア、最後にメロロアの順に決まり、食事が揃ったのでいただきます。
「明日はいよいよ国境ですね」
「そうだな。国境のどっち側で寝るのが良いかな」
「どちらもそれ程変わらないと思いますよ?強いて言うならまだ土地勘のあるこちら側でしょうか」
「セイコーちゃんに無理させる事はないわ。焦らず行きましょ」
「同意です」
「だな。もう村に寝泊まりするのはこりごりだよ」
片付けしたり水浴びしたら夜の番。薄ソーサーを焼いて過ごす。
「なーんも来ないねー」
「昨日来たからしばらく来なくて良いよ」
「まーねー」
その日の夜は野盗もお休みだったようで、兎1匹出る事無く朝を迎えられた。毎回こうなら楽なのにな。馬房から出て来たセイコーに顔をべろべろされて起きる。次からは馬房柵作るかな。
「お目覚めのキスなんて情熱的ですね」
メロロアがからかって来るので頬ずりしてやろう。…あ、消えやがった。
セイコー達にご飯をあげて、食事を作りながら身だしなみを整える。ベガよ、洗った顔はタオルで拭くから舐めなくても良いんだぞ?
「愛されてるわね」
「嫌われてるよりずっと良いさ」
アントルゼがタオルを手渡そうとしてくれるので、舐められないうちに顔を洗って拭う。セイコー達に装具を着けてたら食事の支度が整ったそうなのでメロロアを起こして朝食だ。
ガポガポガタゴト馬車が行く。国境に近付くに従って、森の中の街道が広くなって行く。これは騎馬隊の足を遅くする効果があるのだそうで、ワーッと来た敵の騎馬隊は、狭くなりゆく道幅に少しずつ隊列を伸ばされ、出口である草薮で待つ弓兵や槍兵にチクチクされたり、道を塞いで森の中からチクチクされたりするのだと。
「普通は歩兵が先行するんですけどね」
「戦闘中の引き込みでは効果があります」
「この辺りは戦争する為の場所なんだな」
平民に被害が出ないように戦争するのは人道的云々だとかそんな理由では無い。労力だからだ。飯作る者が居なくては兵隊は3日と生き長らえないからな。
1つ目の休憩地で馬に水、人に水と干し肉を与え、短い休憩の後すぐに移動する。国境越えの乗合馬車が居たのだ。敢えて見送ってから出ても良かったが、前に居て賊に襲われてたら自己防衛であっても助ける事になるし、タダ働きになる可能性もある。それなら先行して殺った方が気分的にマシだ。
だがそんな妄想も杞憂に終わり、2つ目の休憩地を越えて国境である高い壁が見えて来るまで野盗も野獣も出なかった。あの村に居た賊がこの辺りの諸悪の根源だったのかも知れない。
「みんな、順調に国境まで来てしまったが、進むか止まるかを決めたい。まだ日が高いから進むのもありだと思うのだが、どうだろう?」
「んー、そだねぇ…」
「壁の先がどうなってるかよね。メロロアに斥候してもらったら?」
「出来なくも無いですが…」
「見つかったら追われる立場になりそうですね」
「ヘマをするつもりはありませんけどね。ただ、手練の人が居たりすると看破されかねません」
「堂々と見てくるーって言って行けばい~んじゃないの?」
俺もそう思うが、メロロアがチラチラ見て来るのが気になって、結局国境を越えて野営する事に決めた。
「もうここまで近づいちゃったら戻る訳には行かないもんな」
「そう言う事です。待ってるだけでも不審がられますからね」
「そこの馬車、止まれー!」
国境を跨ぐ橋に近づくと、橋の入口に立つ2人の門兵に誰何された。推して参るのは愚策なのでちゃんと止まりましたよ。
「家紋が無いが何処の家の者か」
「俺達は貴族ではないよ。長距離の旅に出る冒険者だ」
「冒険者だと?奮発したな」
「この子は家で飼ってた子なんだよ。馬車は頑張ったけどね」
「へぇ、馬産地か。だから農耕馬なのだな」
貴族じゃない事に気が抜けたのか。俺が村育ちと聞いて思う事があったのか、2人の門兵はにこやかに対応してくれて橋を通過できた。けど入国審査と入国金はしっかりやられたよ。1人5000ヤンの1頭5000ヤンで35000ヤン。意外と取られた感じだけど渋らず払ったらすんなり通してもらえた。これがギルドの依頼や行商等の仕事、永住目的とかだとまた値段が違ったりするんだって。
門を抜けると太い街道が伸びていた。この街道もすぼまって行くのだろうか。
「ゲインさん、金貨足りてます?」
「街に着いたら金策しなきゃならん程度にはあるよ」
「良い依頼があると良いですね」
「売る物いっぱいあるからへーきへーき」
「ああ、あるんですよね。ヤバいのが」
「石だとか布だとか、売れる物はたくさんあるからな」
「野盗の武器とかもあるわね」
「ああ。とっとと売り払ってしまおう」
こっちの道は野盗こそ出ないが野獣やゴブリンはうろちょろしてる。一々相手してたら夜になっちゃうのでゴブリンだけ殺して野獣は無視して移動して、森の中にある1つ目の休憩地に到着した。後発の乗合馬車は国境手前で泊まるのか、陣地を作って夕飯を食べても来なかった。
「水浴びしたかったわ」
「贅沢は敵です」
「着くのが遅くなっちまったからなー。お湯沸かしてるからそれで勘弁してくれ」
「ねえゲイン、馬車の中にウォーターウォールしたら良くない?」
「水って重いんだぞ?車輪やら車軸が持つかどうか…」
「あ~ね~。考えてなかった」
だろうな。
現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/D
HP 100% MP 100%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D
所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き 噛み付き
肉体強化 肉体強化☆ 肉体強化☆
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆ 短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
マジックボックス
鑑定☆ 鑑定
魅了
威圧
壁歩き
水魔法☆ 水魔法
|├ウォーター
|├ウォッシュ
|└デリートウォーター
├ウォーターバレット
├ウォーターウォール
└ボーグ
土魔法☆
├ソイル
├サンド
└ストーン
火魔法
├エンバー
├ディマー
└デリートファイヤー
所持品
革製ヘルメット
革製肩鎧
革製胴鎧
皮手袋
皮の手甲
混合皮のズボン
皮の脚絆
水のリングE
水のネックレスE
水のブレスレットE
革製リュックE
├草編みカバン
├草編みカバン2号
├紐10ハーン×9 9ハーン
└布カバン
├冊子
├筆記用具と獣皮紙
├奴隷取り扱い用冊子
└木のナイフ
革製ベルトE
├ナイフ
├剣鉈
├剣鉈[硬化(大)]
├解体ナイフ
└ダガー
小石中472
小石大☆450
石大☆20
冒険者ギルド証 0ヤン
財布 ミスリル貨231 金貨31 銀貨8 銅貨9
首掛け皮袋 鉄貨74
箱中 428,359→393,359ヤン
ミスリル貨 金貨7 銀貨267 銅貨560 鉄貨359 砂金1250粒
マジックボックス
├猪(頭・皮)燻292枚
├戦利品
├箱
|└シルクワームの反物×33
├未購入チップ各種箱
├医薬品いろいろ箱
├食料箱×2
├調理器具箱
├ランタン箱
|└油瓶×10 8.9/10ナリ
├竈、五徳
├蓋付きバケツ大
├テントセット
├マット×4
├中古マット×5
├毛布×9
├洗濯籠
|├耐水ブーツ
|└耐水ポンチョ
└宝石
鉄兜E
肩当E
胸当E
腰当E
上腕当E
ゲル手甲E
ゲル股当E
帆布のズボンE
脛当E
鉄靴E
熊皮のマントE
籠入り石炭0
石炭80ナリ
ランタン
油瓶0/0.8ナリ
着火セット
服箱
├中古タオル
├中古タオル
├未使用タオル×2
├中古パンツ
├パンツE
├未使用パンツ×2
├ヨレヨレ村の子服セット
├サンダル
├革靴
├街の子服Aセット
└街の子服Bセット
スキルチップ
ハシリウサギ 0/4521
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 0/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 0/2859
ハチS 0/1
カメ 0/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 0/1861
石S 0/1
スライム 0/2024
オオスズメ 0/1573
トンビS 0/4
フォレストモンキー 0/972
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体G 0/1
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