すぐ死ぬ女王これで最後にいたしましょう

ろろる

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第五話 王女の初仕事

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……私が、先生のことを気にしてるって?

「やっ、違うから!」
「そうなのですか?お顔が赤いみたいですけど」
「そ、そんなことないわよ!」

その時、コンコンコンと、ノックが鳴った。
「どなたですか?」
「王宮専属医のコルゼです。」

なぜこのタイミング!?
「お、お通してちょうだい。」
「かしこまりました。」

ネアが扉を開ける。
「突然すみません」
「いえ。どうかされましたか?」
「ヤーナの花の効果はいかがでしたか?もしお体に合っていなかったらと思うと心配になって」
「すごくぐっすり眠れましたわ。会ったらお礼を言わなければと思っていましたの。」
「そんな恐れ多い。……所で、少しお顔が赤いようですけど、まだ体調がすぐれませんか?」

心配そうな目で見られる。
……本気で心配してくれている顔だ。
これはさっきの会話で熱くなっちゃっただけなのに、心配してもらって申し訳ない……。

「そんなことありませんよ。」
「…そうですか。あ、午後の会議には私も出席者いたしますので」
「先生が?」
「一応国一番の医者ですので、薬物のことにも詳しいですよ。」
「それは心強いですね。お願いします」
「勿論です。…あ、新しい侍女さんですね。」
「今日から仕えてもらうシャルドです。」
「あ、シャルド・ヴィターと申します。」
「こんにちは。王宮専属医のコルゼ・アルティアです。」

「そろそろ会議ですね。行きましょうか」
「はい。」

「おお、王女殿下、コルゼ殿。ご一緒でしたか。」
「ええ。始めましょうか。」
「では、今から会議を始めます。」

王の間には、私と先生、宰相と宰相補佐のイグレット公爵。
……議題は薬物か。
「詳しいことを把握しておらず申し訳ありません。公爵、説明していただけますか」
「はっ。現在王都で"ラス"という薬物が流行っておるそうで、ラスはこの国で禁止とされている薬物でございます。それで中毒者が増え、犯罪が多発しています。」

……流行っているだけならまだ良かったけど、それの影響で犯罪まで起こってるとなると話が違ってくる…。
「大変由々しき事態であるかと。早急な対処が必要になりますね。」
と、宰相も口を開いた。

「宰相の言う通り、早急な対処が必要です。その薬物は平民の手に届くような物なのですか」

「いえ…。ラスは医療目的に使われることもかなり少ない貴重すぎる薬物です。何故流行っているのか疑問でしかない。」

と、先生が顔を暗くした。
「後、ラスは普通の薬物とは違い、一時的な快楽を得るようなものではなく、自我を失いやすい薬物です。」

……ふむ。自我を失う程強烈な効果の薬物。
しかも平民が手を出せるほどの物でなく、高価。
だが王都で流行っているというのなら……

「……貴族が関与している…」
そう口にすると、3人がバッとこちらを見た。
「いえ、可能性の話です」
「そうは思いたくありませんでしたが、その可能性も十分にあります。……いいえ、その可能性しかないとも言える。」

「……先生、ラスが育つ条件は何でしょうか」
「土地の話ですか?」
「ええ。」
「そうですね…。土地というより、ラスは東の土地に生息する植物です。水はけが悪い所に育つ希少なものですから。ですが危険すぎるので栽培自体されていない…と思いますが、東の土地に山や森の一部
を所有する貴族になら容易に栽培出来るかと…」

…それだ!……ん?東の土地の貴族っていったら、
カーネルの家、クロード伯爵家じゃない?
確か森の一部を土地として持ってた。
乙女ゲームで森の中を散歩するシーンがあった。
……おいおいおいおいおい。

何してんのよカーネル……。
いや、カーネルが関わっているかはわかんないけど、クロード伯爵家が関与しているのは、間違いなさそうだ。
だけど、その目的は?売りさばいて儲けするっていうのは無理だろう。平民には高価な物らしいし?

またその逆の可能性もある。
クロード伯爵家は関与せず、関与しているのはカーネルだけ、とか。

まぁ確認しないことには何とも言えないんだけど…。
「……公爵」
「はい」
「今すぐここにクロード伯爵家一同を呼んでください。」
「クロード伯爵家一同をですか?」
「ええ。クロード伯爵家は東に拠点を置く貴族であり、リンゼの森の一部を所有する貴族です。
もし貴族が関与しているならそれはクロード伯爵家の可能性が高いので」
「!御意にございます」

……もしクロード伯爵家が関与しているなら爵位降格だけじゃ済まされない。
危険薬物を栽培して王都を不安に陥れた罪として、
爵位剥奪か…。確認はまだだけど、その可能性があるならスノーリリーの父、国王に報告しなければならない。

「……先生、お父様は今お休みになっている時間でしょうか」
「いえ、この時間は起きておられるかと」
「ありがとうございます」

席から降りて、国王の寝室へと向かった。
部屋の前まで行くと、兵が頭を下げた。

「第一王女、スノーリリー・ベル・フィオンシーナです。エルイス・ベル・フィオンシーナ陛下にお目通りを」
「はっ!陛下、スノーリリー王女殿下がいらっしゃいました。」
「……通してくれ」
「承知したしました。どうぞ」
「ありがとう」

……大きな部屋。ゲームでこの部屋に入ったのは1度だけ。父を看取った時だ。
国王はスノーリリーに王位を譲ると言って、亡くなった。……また私は物語を狂わせてる。
でも、それが国にとって良い結果に繋がるなら、
ゲームを狂わせようが何だろうがやってやるわよ。

「……スノーリリーか」
大きな寝室の、国王の横たわるベッドのそばの椅子に座った。
……この人が、フィオンシーナ国王…、スノーリリーとスカーレットの父。
病をわずらっていても、国王としての威圧がすごい。
「はいお父様。スノーリリーが参りました」
若干声が震えた。

「……次期女王としてしっかり仕事をこなしているようだな。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「……して、何用だ」

「…現在、王都でラスが流行しています」
「……何?あの危険薬物のラスか?」
「はい。」
「根元は?」
「まだ確証は得られていませんせんが、クロード伯爵家が関与している可能性が高いかと」
「……クロードか…。婚約破棄をして正解だったな。国王として第一王女、スノーリリーに命じる。もし関与していたのが貴族であれば爵位剥奪、
平民であれば打首にせよ。フィオンシーナの悪の根元を断て」

国王の言葉に、体がビリビリとしびれた。
そして、自然に椅子から降りて、膝まづいていた。

「全ては我らが王の御心のままに。
このスノーリリー・ベル・フィオンシーナ、必ず役目を果たして見せます。」
「……よろしい。それとお前は…、スノーリリーではなさそうだ」

……え?今なんて言ったの?私が、スノーリリーじゃないって?
「スノーリリーはそんなに生き生きとした目を持っている女ではない。女王という王座にもまったく執着せず、ただ私の思い通りに動くただのあやつり人形の様であった。何もかも全て諦めていたよ、あの子は。それが今のお前はどうだ?」

国王がじっと私を見つめた。
「目に光がある。次期女王として役目を果たそうとしている。そんな奴は、あのスノーリリーではない」
「……では、私は何なのでしょうか」
「分かっておることを聞くでないわ。…お前、名は?」

……するどすぎるにも程があるでしょ。
いくら親でも性格が変わっただけで中身が違う人間なんて考えない……。…バレたもんはしょうがないか。

「藤崎…陽茉莉。」
「フジサキ、ヒマリ…か。変わった名だ」
「異国の出身なのよ。その国で1度死んで、気がついたらスノーリリーになってたわ。……ごめんなさいね、もうあなたの知るスノーリリーはいないみたいだわ」
「そのようだな。……だが、お前の中身がフジサキ・ヒマリであろうが、娘は娘。中身が違おうが、お前はスノーリリーと同じで利口な人間のようだ。……フジサキ・ヒマリ。この国の未来を、どうか頼む。」
国王が頭を下げた。

「異国から来たどこの者かも分からぬ私にそれを頼むの?」
「それがこの国にとって1番良さそうだ。あのバカに王位を継がせるより良いだろう。」
……スカーレットのことか。
「それは違いありませんね」
と、苦笑いした。

「…もう藤崎・陽茉莉も元のスノーリリーもいない。だけど、元からそのつもりだったから。
……確かに受けたまりました。お父様。」
「感謝する」

「礼には及びませんよ。では、お申し付け通りに仕事をこなします。」
「頼んだ。」

これが、第一王女として、次期女王としての、初仕事だ。

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