5 / 28
5 刺さった釘
しおりを挟む
未婚の男女が密室に2人でいることはあらぬ疑いを生む。そのため、扉は開けたままだった。静かになった部屋に居心地の悪い空気が流れる。
「王子、あの、…ありがとうございました」
「さっきも聞いた」
「あ、…そうですね。えっと…お怪我はありませんか?」
「ない。…お前は?」
「え?…あ、はい。大丈夫です」
「ならいい」
「心配、してくださるんですね」
「目の前で女に怪我されたら胸糞悪いからな」
きっと、こんな言い方しかできないのだろうな、とサーシャは苦笑する。
「それより、今の話、聞いてたな。さっきのこともある。口輪をつけさせろ」
「承知しました。説得してみます。…そのために呼ばれたみたいですし」
小さな皮肉を言ってみる。しかし、ユリウスはサーシャを一瞥しただけで、何も言わず、ソファーの上に腰かけた。そのぞんざいな態度にオースはあきれ顔を浮かべた。
『サーシャ、王子って性格悪いんだな』
「奇遇ね、オース。私も同じこと思ったわ」
『ま、助けてくれたけどね』
「まあ、…そうね」
「ユリウス王子」
「入れ」
入室の許可にハリオは頭を下げ部屋に入る。ハリオの後ろには屈強な男が3人。纏う服の豪華さからそれ相応の地位の人物であることが見て取れる。
「ユリウス王子、盾をお持ちしました。それから、サーシャ様には、これを」
ハリオは手に持っていた盾をユリウスに、口輪をサーシャに渡す。
「それから王宮に常駐しております、獣医と、念のため医者も連れてきました」
「いい判断だ。ただ、人数が多いとライオンが興奮する可能性がある。ドアの外で待機させろ」
「御意」
短く返事をすると、ハリオは獣医たちに指示をする。音を遮断するように扉は閉め、その外で彼らは待機することとなった。
部屋の中には、ユリウスとハリオ、それから男たち3人とサーシャ、オースだけが残る。ユリウスはハリオと男たち3人の方を向いた。
「お前ら、よく聞け。俺がライオンの釘を抜く。口輪に鎖が付いているから、お前らはその鎖でライオンを押さえろ」
「ユリウス様がやらずとも我らで遂行します」
一人の近衛兵が言った。ユリウスはライを一瞬見て、すぐに近衛兵に視線を戻す。
「…いや、いい。俺のペットだ。俺がやる」
「王子、でも…」
とっさにそう答えたハリオをユリウスは睨むように見た。
「俺に口答えする気か?」
その視線の鋭さに、近衛兵は首を横に振る。ハリオは何か言いたそうに口を開けたが、すぐに口を閉じた。
「お前らが押さえていれば、問題ない。違うか?」
「…いいえ」
「ハリオ」
「はい」
「俺を信じろ」
ハリオは一瞬目を丸くした。そしてユリウスの目を見る。先ほどとは違う視線の鋭さに、今度はゆっくりと頷いた。
「お怪我だけは、なさいませんように」
「当たり前だ。…おい、お前。その口輪早く付けろ」
強い口調でサーシャに指示する。
「わかりました。でも、ちょっとだけ待ってください」
サーシャはゆっくりとライに近づいた。
「サーシャ様!?」
先ほどの光景が目に浮かぶのか、ハリオは驚いてサーシャの名を呼ぶ。
「おい、黙ってろ」
「ユリウス王子。…でも」
「あいつに任せると決めたらな、やりたいようにやらせろ」
どこか信頼しているような言葉に、サーシャは気合を入れる。そして、まっすぐライを見た。どこか不安そうな目。サーシャはにっこり笑って見せた。
「大丈夫だよ、ライ」
『…さっきは、ごめんね』
「ううん。私が悪かったの。痛かったでしょう?私こそごめんね」
『怪我しなかった?』
「ええ。王子が助けてくれたわ」
『それならよかった』
「…ねえ、ライ。今から王子があなたの釘を取ってくださるそうよ。でもそのために、この口輪をつけてほしいの」
『…僕、それ嫌いだよ。息が苦しくなるんだ』
いやいや、と首を横に振る。そんなライのたてがみにサーシャは手を伸ばした。ゆっくり撫でる。
「わかっているわ。でもね、さっきのことがあるでしょう。だから、とっても心配なの」
『…』
「ねぇ、ライ少しの我慢よ。終わればすぐに取るわ。約束する」
『だけど…』
「お願いよ。少し我慢してほしいの。そうすれば王子があなたを痛みから解放してくれるわ」
『……ほんと?』
「ええ。本当よ」
『…わかった。いいよ』
「いいこね」
サーシャの言葉にライは一つ声を出して吠えると、口輪をはめやすいよう、自ら屈んだ。そんなライにサーシャは微笑みを浮かべる。
口輪を付け、ライの立派なたてがみを2、3回撫でた。そしてユリウスの方を向く。
「どうかよろしくお願いします」
「お前に言われるまでもない」
「王子、笑ってください」
サーシャは、自身の両頬を人差し指で持ち上げた。そんなサーシャに向けるユリウスの視線は冷たい。
「…バカなのか」
「バカじゃないつもりです。王子様、知らないんですか?笑えば大抵の事は上手くいくんですよ?」
「そんなわけあるか」
「そんな怖い顔をしてたらライが心配します。大丈夫だよ、って笑顔でお願いします」
「お前の指図は受けない」
「わかりました。それじゃあ、代わりに私がにこにこしますね」
宣言どおりサーシャは満面の笑みを浮かべた。ユリウスはサーシャを一瞥し、一瞬呆れた表情を浮かべた。
「勝手にしろ」
吐き出すようにそう言うと、一度ハリオたちの方を向く。
「行くぞ」
「はっ!!」
男たちの声が重なった。一斉に動き出す。ハリオを先頭に男たちは、ライの後ろに回った。口輪の鎖を手に持ち、足を踏ん張る。けれど、まだ引いてはいけない。余計な行動はユリウスの身を危険にさらすだけだということをよくわかっていた。
ハリオたちの顔に緊張が走る。けれどユリウスは気にせず、ゆっくりライの左前脚に手を伸ばした。
息を大きく吸い、深く吐き出す。目に力入った。そのまま、一気に釘を引き抜いた。
「王子、あの、…ありがとうございました」
「さっきも聞いた」
「あ、…そうですね。えっと…お怪我はありませんか?」
「ない。…お前は?」
「え?…あ、はい。大丈夫です」
「ならいい」
「心配、してくださるんですね」
「目の前で女に怪我されたら胸糞悪いからな」
きっと、こんな言い方しかできないのだろうな、とサーシャは苦笑する。
「それより、今の話、聞いてたな。さっきのこともある。口輪をつけさせろ」
「承知しました。説得してみます。…そのために呼ばれたみたいですし」
小さな皮肉を言ってみる。しかし、ユリウスはサーシャを一瞥しただけで、何も言わず、ソファーの上に腰かけた。そのぞんざいな態度にオースはあきれ顔を浮かべた。
『サーシャ、王子って性格悪いんだな』
「奇遇ね、オース。私も同じこと思ったわ」
『ま、助けてくれたけどね』
「まあ、…そうね」
「ユリウス王子」
「入れ」
入室の許可にハリオは頭を下げ部屋に入る。ハリオの後ろには屈強な男が3人。纏う服の豪華さからそれ相応の地位の人物であることが見て取れる。
「ユリウス王子、盾をお持ちしました。それから、サーシャ様には、これを」
ハリオは手に持っていた盾をユリウスに、口輪をサーシャに渡す。
「それから王宮に常駐しております、獣医と、念のため医者も連れてきました」
「いい判断だ。ただ、人数が多いとライオンが興奮する可能性がある。ドアの外で待機させろ」
「御意」
短く返事をすると、ハリオは獣医たちに指示をする。音を遮断するように扉は閉め、その外で彼らは待機することとなった。
部屋の中には、ユリウスとハリオ、それから男たち3人とサーシャ、オースだけが残る。ユリウスはハリオと男たち3人の方を向いた。
「お前ら、よく聞け。俺がライオンの釘を抜く。口輪に鎖が付いているから、お前らはその鎖でライオンを押さえろ」
「ユリウス様がやらずとも我らで遂行します」
一人の近衛兵が言った。ユリウスはライを一瞬見て、すぐに近衛兵に視線を戻す。
「…いや、いい。俺のペットだ。俺がやる」
「王子、でも…」
とっさにそう答えたハリオをユリウスは睨むように見た。
「俺に口答えする気か?」
その視線の鋭さに、近衛兵は首を横に振る。ハリオは何か言いたそうに口を開けたが、すぐに口を閉じた。
「お前らが押さえていれば、問題ない。違うか?」
「…いいえ」
「ハリオ」
「はい」
「俺を信じろ」
ハリオは一瞬目を丸くした。そしてユリウスの目を見る。先ほどとは違う視線の鋭さに、今度はゆっくりと頷いた。
「お怪我だけは、なさいませんように」
「当たり前だ。…おい、お前。その口輪早く付けろ」
強い口調でサーシャに指示する。
「わかりました。でも、ちょっとだけ待ってください」
サーシャはゆっくりとライに近づいた。
「サーシャ様!?」
先ほどの光景が目に浮かぶのか、ハリオは驚いてサーシャの名を呼ぶ。
「おい、黙ってろ」
「ユリウス王子。…でも」
「あいつに任せると決めたらな、やりたいようにやらせろ」
どこか信頼しているような言葉に、サーシャは気合を入れる。そして、まっすぐライを見た。どこか不安そうな目。サーシャはにっこり笑って見せた。
「大丈夫だよ、ライ」
『…さっきは、ごめんね』
「ううん。私が悪かったの。痛かったでしょう?私こそごめんね」
『怪我しなかった?』
「ええ。王子が助けてくれたわ」
『それならよかった』
「…ねえ、ライ。今から王子があなたの釘を取ってくださるそうよ。でもそのために、この口輪をつけてほしいの」
『…僕、それ嫌いだよ。息が苦しくなるんだ』
いやいや、と首を横に振る。そんなライのたてがみにサーシャは手を伸ばした。ゆっくり撫でる。
「わかっているわ。でもね、さっきのことがあるでしょう。だから、とっても心配なの」
『…』
「ねぇ、ライ少しの我慢よ。終わればすぐに取るわ。約束する」
『だけど…』
「お願いよ。少し我慢してほしいの。そうすれば王子があなたを痛みから解放してくれるわ」
『……ほんと?』
「ええ。本当よ」
『…わかった。いいよ』
「いいこね」
サーシャの言葉にライは一つ声を出して吠えると、口輪をはめやすいよう、自ら屈んだ。そんなライにサーシャは微笑みを浮かべる。
口輪を付け、ライの立派なたてがみを2、3回撫でた。そしてユリウスの方を向く。
「どうかよろしくお願いします」
「お前に言われるまでもない」
「王子、笑ってください」
サーシャは、自身の両頬を人差し指で持ち上げた。そんなサーシャに向けるユリウスの視線は冷たい。
「…バカなのか」
「バカじゃないつもりです。王子様、知らないんですか?笑えば大抵の事は上手くいくんですよ?」
「そんなわけあるか」
「そんな怖い顔をしてたらライが心配します。大丈夫だよ、って笑顔でお願いします」
「お前の指図は受けない」
「わかりました。それじゃあ、代わりに私がにこにこしますね」
宣言どおりサーシャは満面の笑みを浮かべた。ユリウスはサーシャを一瞥し、一瞬呆れた表情を浮かべた。
「勝手にしろ」
吐き出すようにそう言うと、一度ハリオたちの方を向く。
「行くぞ」
「はっ!!」
男たちの声が重なった。一斉に動き出す。ハリオを先頭に男たちは、ライの後ろに回った。口輪の鎖を手に持ち、足を踏ん張る。けれど、まだ引いてはいけない。余計な行動はユリウスの身を危険にさらすだけだということをよくわかっていた。
ハリオたちの顔に緊張が走る。けれどユリウスは気にせず、ゆっくりライの左前脚に手を伸ばした。
息を大きく吸い、深く吐き出す。目に力入った。そのまま、一気に釘を引き抜いた。
8
あなたにおすすめの小説
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
私が生きていたことは秘密にしてください
月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。
見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。
「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」
君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
*こちらは元の小説の途中に、エピソードを追加したものです。
文字数が倍になっています。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる