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49.王女の縁組3

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「それは当然の事です」

 宰相も外務大臣と同じような事を言う。

「マクシミリアン殿下、そもそもオルヴィス侯爵令嬢であったセーラ嬢との縁組が何故『王命』であったのか理解されていますか?」

「セーラの両親、オルヴィス侯爵夫妻が優秀な外交官だからだろう。何しろ彼らは世界中に知己がいるからな……」

「それもあります。が、それ以上にオルヴィス侯爵夫人が同盟国の公爵令嬢であった事です」

「同盟国の公爵家といっても臣下の出ではないか。それに、かの国は我が国と少々遠い」

「……殿下はオルヴィス侯爵家を何処まで御存知なのですか?」

 何処まで?
 御存知も何も、外交や領地経営に長けた名門貴族だ。
  
「先代オルヴィス侯爵は奥方はクラーク公爵令嬢です」

 ティレーヌ王国には公爵家が三つある。
 コードウェル公爵家、クラーク公爵家、ハイド公爵家。この三家だ。
 他国に比べて公爵家の数は極端に少ない。王位争いを避けるためだとか、王家の血を絶やさないための処置とも言われている。王家の直系が絶えた場合、公爵家の者が即位する。そのため我が国では「三大公爵家」と言われ、他の貴族と一線を化している。
 
 だがそれが何だというんだ?

「先代オルヴィス侯爵夫人は既に亡くなっておりますが、先代コードウェル公爵夫人とは親友同士でした。しかも互いの夫も無二の親友同士。現コードウェル公爵が若くして爵位を継いだ際にはその後見人を務めた程です」

 先代コードウェル公爵夫人?
 ああ、父上の伯母にあたる方だな。確かその方も亡くなっている筈だ。セーラの夫、コードウェル公爵の母親か。

「分かりませんか?」

「何をだ?」

「オルヴィス侯爵が如何に重要な地位にいるのかを」

 宰相が問いかけるように言う。
 質問の意図が分からない。
 セーラの事ならある程度知っている。長年の婚約者でもある上に幼馴染の間柄でもあった。だがそれは、飽く迄もセーラ個人であってオルヴィス侯爵家ではない。侯爵家の内情は実の処よく知らなかった。

「宰相、どういう事だ?」
 
「我が国の三公爵家の内、一家と姻戚関係であり、もう一家とは懇意な関係にあります。それに加えて同盟国の公爵家と姻戚関係。オルヴィス侯爵は国内外に大変な影響力を持っています。地位は侯爵ですが、実質は公爵家同様と言っても過言ではありません。ここで他国に取り込まれでもしたら……そうですね、具体的にはセーラ嬢が他国の王族と結婚して婿入りされてしまう事を私たちは危惧していました。そうなる前に、マクシミリアン殿下との婚約を王命で決まったのです」

「つまり……私とセーラの婚約は成るべくしてなったと……」

「王家としてもオルヴィス侯爵家の力を取り込みたかったのは事実ですが、それ以上に殿下の後ろ盾になって欲しかったのです」

「私の?」

「はい。殿下はティレーヌ王国で後ろ盾が乏しい状態でしたから」

「え? だが……私には母上の母国が、チェスター王国が……」

「確かに隣国という強い後ろ盾がございます」

「ならば……」

「殿下は、チェスター王家の評判の悪さを御存知ですか?」

「ひ、評判……?」

 評判とは何だ?
 悪い?
 一体何だ?
 チェスター王家は美貌の一族として名高い。芸術家達は挙って彼らの『美』を讃え自身の作品に残そうと躍起になっていると聞く。現に私の母上も大変美しい女性だ。

 

 


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