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   1章4部 トワの答え

リアの頼み

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 シンヤはフローラと別れてトワと合流し、リアの祖父との話し合いについて報告を。そして現在、宿屋に戻ろうと教会の出口の扉前まで来たところであった。

「ふう、それにしてもミルゼちゃんの封印が解かれたこと、責められずに済んでよかったよ」

 トワは改めてほっと胸をなでおろす。

「勇者としては、なんとしてでも阻止しなくちゃいけない場面だったからな。話がわかる人でよかったな」
「ほんとだよー」
「シンヤさん! トワさん!」

 教会から出ようとすると、リアが駆け足でシンヤたちの方へと来る。

「あ、リアちゃんだ」
「リア、もう大丈夫なのか?」
「はい、ごらんの通り、もうバッチリです! これもリアをおんぶしてリザベルトの街まで運んでくれた、シンヤさんのおかげです!」

 リアは両腕でガッツポーズしながら、まぶしい笑顔を。
 ハクアとミルゼが去ったあと、目を覚ましたリアであったが足取りが怪しくフラフラな状態だったという。そんな状態で歩かすのはかわいそうだと、シンヤがリアを背負ってリザベルトの街まで帰ったのだ。ちなみに道中リアは気持ちよさそうに寝ていて、教会に着いてからはベッドに運んでそのまま寝かせていたのであった。

「そっか、よかった」
「あの時はすみません。シンヤさんだって疲れていたのにもかかわらず、おんぶなんかさせてしまって」
「ははは、オレがやりたくてやっただけだから、気にしなくていいぞ。ただでさえあんなにフラフラな状態だったんだし、無理させるわけにはいかないさ」

 申しわけなさそうに目をふせるリアの頭に手を乗せ、ほほえみかける。

「あ、ありがとうございます。でもやっぱり謝らせてください。本当は少しの間だけのつもりだったんです。ちょっと休ませてもらったら、あとは自分の足で歩こうと思っていたのに……。でもまさか、シンヤさんの背中があんなにも心地よかったなんて!」

 リアは両腕をブンブン振り、熱くかたってくる。

「うん? どういうことだ?」
「ええと、つまりですね。お恥ずかしい話、もっとシンヤさんに背負われていたいという誘惑に負けちゃったんです! あの男の人の大きな背中。そのぬくもりがすごく夢心地だったといいますか。そのせいでこれ以上はシンヤさんの負担になるからいけないと思いつつも、もう少しだけとついつい甘えてしまい……。そう心の中で葛藤かっとうしていたら、いつのまにかあまりの気持ちよさに寝てしまい、街に着くまでおんぶしてもらっちゃって……。ずっと重かったですよね?」

 手をもじもじさせ、恥ずかしそうに当時の心境を告白するリア。

「ははは、大丈夫、リアは軽いから、そこまで苦にならなかったよ。それに気に入ってもらえたなら、おぶった甲斐かいがあったってもんだ。リアのかわいいスヤスヤな寝息も聞けて、いやされたし」
「リアちゃんかわいかったなー。ときよりシンヤの背中にほおずりして、幸せそうに笑っててさ! ほほえましいのなんの! あまりのかわいらしさに天使かと思っちゃうほどだったよ!」

 二人でリアの寝ているときの様子を思い出し、ほほえましい気持ちになってしまう。それほどまでに彼女のあどけない寝顔は、破壊力抜群であったのだ。
 これには顔を両手でおおい、恥ずかしさのあまり打ち震えるリア。

「――うぅ……、お恥ずかしい。ですがそれであの至福の時間を味わえるなら、安いものなのでは? またシンヤさんにお願いして……。いえいえ! なに考えてるんですかリアは!? ただでさえ迷惑かけたのに、これ以上してもらうだなんて!」

 リアははっとなにか思いつくも、すぐさま首をブンブン横に振り自重じちょうしだす。

「ははは、リアはまだまだ子供なんだから、我慢なんてしなくていいんだぞ。それぐらいでよければいくらでもしてやる。どんと甘えてくれ」

 そんないじらしい彼女の頭をやさしくなでながら、頼もしげに笑いかけた。

「わぁぁ! あこがれの優しくてかっこいいおにいちゃんだ! シンヤさん! ぜひともリアの心のお兄ちゃんになってください!」

 シンヤの心意気に、リアは大変感銘かんめいを受けたらしい。目をキラキラさせながら、祈るように手を組んで頼みこんでくる。

「まあ、オレなんかでよければいいけど」
「やったー! おにいちゃんだ、おにいちゃん! えへへ、これからいっぱい甘えちゃおー!」

 そして彼女はシンヤにぎゅーっと抱き着き、すりすりほおずりを。

「ははは、なんかかわいい妹ができてしまった」
「いいなー、シンヤ。リアちゃんにそんなにもなつかれて」

 もはやあまりにかわいすぎるリアのはしゃぎように、ほほえましいまなざしを向けるシンヤとトワ。

「はっ、うれしさのあまり、ついはしゃぎすぎてしまいました!? リアにはまだ謝らないといけないことがあったのに……」

 甘えていたリアだったが、はっと我に返りシンヤから離れた。

「ほかになんかあったか?」
「はい、一番重要なことが。シンヤさん、リアさん、このたびはほんとうにすみませんでした!」

 リアは呼吸を整え真剣な表情に。そしてガバッと頭を下げ謝ってきた。

「敵にむざむざ連れていかれてしまい、みなさんには多大なるご迷惑をかけてしまいました。しかも挙句あげくの果てには邪神の眷属の復活を解かれてしまい……。ああ、封印の巫女として、ありえないレベルの大失態。先代たちに合わせる顔がないとは、まさにこのことです……」

 胸をギュっと押さえながら、目をふせ自身を責めるリア。

「リアちゃんだけの責任じゃないよ! 捕まったのだって、もとはといえばわたしがあんなにもふがいなかったせいで……」
「いえ、初めての戦闘だったので、ああなるのも仕方のないことですよ。そもそもその穴はシンヤさんが埋めてくれてましたし、あの有利な状況で油断し背後をとられたリアが悪いんです」

 ちなみにリアが捕まってからのことは、彼女がシンヤの背中で寝てしまう前にある程度話していたという。なのでトワの戦えなかったときの事情も説明済みであった。

「――でも……」
「それにトワさんはあのあと大活躍だったそうじゃないですか! ゴーレムを瞬殺したり、魔人を一人で追い詰めたり! そしてシンヤさんと二人で見事あの魔人を倒したんですよね!」

 思いつめるトワに、リアは尊敬に満ちたまなざしを向け笑いかけた

「う、うん、それは本当のことだけど……」

 その活躍には女神の怨念おんねんの力を借りていたこともあってか、素直にうなずけない様子のトワ。

「すごいじゃないですか! やっぱりリアの目に狂いはありませんでした! トワさんこそまごうことなき勇者さま! あー、リアもトワさんの活躍、近くで見たかったです! きっとすごくかっこよかったんでしょうね!」
「あの魔人ガルディアスに最後の一撃をくらわすところなんか、圧巻だったぞ。敵のふところにもぐりこみ、華麗に極光の斬撃を放つところなんかさ!」
「わぁぁ! その話もっとくわしく聞きたいです!」

 リアはぴょんぴょん跳びはねながら、ねだってくる。

「もう、シンヤ、テレるなー。まあ、わたしにかかればあれぐらい当然だけどねー」

 トワはもてはやされ気分がよくなったのか、両腰に手を当て胸を張りだす。

「ははは、言うじゃないか。なら最後の魔人戦の全容も、リアに教えてやろうかな。トワが黒雷に」
「ちょっと、シンヤ! それは勘弁してよ!? わたしの勇者としての威厳いげんが!?」

 暴露しようとするシンヤに、トワは手をあわあわさせ必死に止めようと。
 ガルディアスの黒雷に怯えまくっていた姿は、勇者として情けない光景。せっかくかっこよく決めていても、あれのせいで台無しにされかねないほど。トワとしては自身の名誉のためにも、絶対知られたくないみたいだ。とくに自分にあこがれている子供の前ではなおさらに。

「シンヤさん、リアさん。二人はこれからこの世界を邪神の魔の手から救うため、旅に出るんですよね?」

 トワとじゃれあっていると、リアがどこか意を決したようにたずねてくる。

「そうだよ。勇者としての使命を果たさないといけないからね!」
「お願いがあります。どうかリアを二人の旅の仲間に入れてもらえないでしょうか?」

 そしてリアは胸にバッと手を当て、一心に頼み込んできた。
 その予想外のお願いに、二人で目を丸くするしかない。

「「え?」」
「すでにおじい様からは許可をもらいました。邪神の眷属が解き放たれた今、当代の封印の巫女としていつまでも指をくわえたままではいられません。あの失態を取り返すためにも、リアはみなさんの役に立ちたいんです! だからこの封印の巫女の力を、ぜひとも勇者さまのもとで役立たせてもらえないでしょうか?」
「リアちゃんが仲間に!? そんなの大歓迎に決まってるよ! えっへへ、すごくうれしい! じゃあ、これからはずっと一緒だね! よろしく! リアちゃん!」

 そんな彼女の熱意のこもった想いに対して、トワはリアにがばっと抱き着く。そしてぎゅーと抱きしめながら、満面の笑みで迎えいれた。

「はい、まだまだ未熟者ですが、どうかよろしくお願いします!」
「リア、本当にいいのか? オレたちと旅に出たら、なかなかこの場所に戻ってこれなくなるぞ?」

 リアがパーティーに入ってくれ、力にになってくれるのはこちらとしてはすごいありがたい話。しかし彼女はまだまだ子供。そんな彼女を連れまわしていいのだろうか。そうなるとしばらく親しい人たちとも、離れ離れにさせてしまうのだから。

「お気遣いありがとうございます。もうみんなと別れ、旅に出る覚悟はしました」

 シンヤの心配に、リアは静かに瞳を閉じて決心をあらわに。

「えへへー、それに少し不謹慎ふきんしんなことなのですが、こんな事態になって少しわくわくしている自分がいるんです。封印の巫女は本来、邪神の眷属の封印になにがあってもいいように、常に封印の森の近くに待機し見守り続けないといけません。なのでこの先、旅にでるのはもちろん、リザベルトの街周辺からずっと出られないんだろうなって、思っていたその矢先。まさか旅に出られるチャンスが来るなんて……」

 リアは少しばつの悪そうにほほえみながらも、自身の秘めた思いを告白してくれる。

「しかもそのメンバーが勇者であるトワさんに、心のお兄ちゃんであるシンヤさん! そんなのドキドキワクワクの大冒険が待ってるに、決まってるじゃないですか! リアは楽しみで楽しみでしかたありません!」

 そして彼女は抑えきれない興奮のあまりぴょんぴょん跳びはねながら、瞳をランランと輝かせた。

「ははは、そっか。ならリアもぜひついてこい。オレたちはこの世界を救いながらも、旅をいっぱい満喫まんきつするつもりでいるからな。きっと楽しいぞ。な、トワ」
「うん! 目指すは大陸の街々や観光名所の完全制覇だね! いろいろ見て食べて体験して、満喫しまくろう!」
「わーい!」

 シンヤたちに歓迎され、両腕を上げ喜ぶリア。

「そうと決まればさっそく準備をしてこないとですね! 今のうちに必要なものとか一式そろえておきます! それではおやすみなさい! シンヤさん! トワさん!」

 リアはぺこりと頭を下げ、はずむ足取りで戻ろうと。

「おやすみ、リアちゃん」
「今日は疲れただろうし、無理せず早く寝るんだぞ」
「はーい!」

 そして彼女はシンヤたちのほうへ大きく手を振り、教会の奥へと去っていった。

「リアちゃん、あんなにはしゃいじゃって、かわいい」
「ははは、ほんとだな。それじゃあ、オレたちは宿屋に戻って、休むとするか」
「シンヤ、その前に、少しいいかな?」

 宿屋に戻ろうとすると、トワがシンヤの上着のそでをつかんできた。
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