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淫宴に囀る

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「ぁ……」

 ぐ、と熱杭が埋め込まれ息を詰めた。

「っ、ふぁ……」

 深く貫かれた痛みと恐怖は、すぐに充足感と内襞を抉られる快感に塗りかえられていく。一息に奥まで押し入ったジスランは、余裕なさげに目を伏せて息を乱す。
 ぴっちりと根元まではめ込まれた感触に浸っていると、もう辛抱ならないとばかりに引き抜かれたものが、再び奥へと突き入れられた。その衝撃に甘い声が鼻から漏れる。ずるりと限界まで引き抜かれた欲の、せり出た笠が隘路を引掻き、物足りなさに身をよじらせたところを深く穿たれた。焦らすような動きを繰り返されるほど官能は高まり、声が上ずっていく。

「ぁ、っ、ぁん、や、っ、あぁっ!」
「よかった、気持ちいいだろう、マリー……中がこんなにもとろけて……悦い……ああ、止まらない……」

 眼をぎらつかせ、舌なめずりをして息を荒げながら、ジスランはマリアンナを責め立てた。意地の悪い微笑は、普段のジスランとは別人のように艶めかしく蠱惑的だ。魔族が御使いのふりをして人間を誑かそうとしたら、きっと彼のようになるのだろう。そして愚かな人間はその誘惑に争いきれずに堕落してしまう。今の自分のように。
快感を貪ることをやめられずにいる中で、それでも華奢な身体を気遣う素振りを垣間見てしまうと、愛おしさは膨れ上がるばかりだった。

「あっ、んん、ふか、い、ぁっんんっ!」
「ほら、言いなさい、この腹の内側のところを突かれるといいんだろう? 中が絡みついて、腰が逃げようと跳ねる……」
「や、いや、ぁっ、んんっ、そこ、だめ、い、や」
「これは、嫌、か? マリー…………?」
「い、いいっ! いい、ですっ、きもちい…………あっ、あああっ!」

 蜜洞を穿つ淫らな水音が、肉と肉のぶつかり合う激しい音へと移り変わっていく。ぱちゃぱちゃと、鍛え上げられたジスランの下腹部と、膝が顔の横に付きそうなほど抱え上がられたマリアンナの臀部が規則的な音を立てた。尻たぶを軽く叩かれるような衝撃さえ、甘い快感となって胎の奥で蟠る悦楽を煽ってしまう。
 覆いかぶさるジスランの、解かれた長い髪が頬に落ちる。視界が狭められ、もう彼の熱と肉欲に浮かされた顔容しか目に入らない。彼は、確かにマリアンナの身体を、その欲を吐き出す瞬間を渇望していた。
 自身の浅ましさとつらいほどの心地よさに涙が溢れてくる。罪悪感さえ快感に成り代わってしまうのがぞくぞくした。

「っ、ぐ、で、る……マリー、すま、な……」
「ん、大丈夫、です、からっ、そのまま、ぁ、ぁっ、あっ!」

 理性を取り戻しかけているのか、滲んだ視界で苦し気に呻くジスランを逃すまいと、回した背中に爪を立て、その腰にしなやかな足を絡みつかせる。その媚態がどれだけ男の欲を煽るのかなど、当人には見当もつかない。
 ジスランの動きは激しさを増して、絶頂はすぐそこまで来ていた。ただ快楽を貪るだけの、最奥をがつがつと苛む腰遣いに、惑わされな蜜壁が快感の一片さえ逃すまいと蠢き、絡みついてしまう。

「ぁぁっ、だめ、っ、それ、ぁっ、いっ……!」

 さざ波のような悦楽がじわじわと増幅してすぐそこまで迫っているのがわかった。また、あの背筋が反り返るような絶頂がくる。怖いのに待ち遠しくて腰をくねらせるのをやめられなくなっている。自分がこんなに淫らな女だったなんて知らなかった。いや、違う、これは相手がジスランだからだ。他の誰が相手でも、こんなに悦くはならなかった。いつ気を失ってもおかしくないほどに乱れているけれど、それだけは神に誓うことができる。
 その瞬間を迎えようと、中が蠢いて欲芯を引き込もうとしていた。
 終わりを察したジスランが、だめ、と喘いだ唇を深く塞ぎ、胸の尖頂をきつくひねりあげる。そのまま自重を乗せて最奥まで雄を打ち込んできた。一度に与えられた衝撃の強さに、呆気なく全身をえもいわれぬような快感が迸った。
 腰をがくがく跳ねさせると、奥に収められたままの雄槍が、身震いとともに弾ける。自分がもうどなっているかわからなかった。ただ、ジスランと繋がれたところが熱くて気持ちよくてたまらない。

「~~~~っ、ぁっ、は、はあっ、ふ、あぅっ……」

 唇を解放され、水中から浮上したように空気を求めて胸を喘がせる。
 こういうものなのだろうか――ジスランの楔を打ち込まれたままの蜜路は、まだ緩やかな快感を生み悶え続けている。破瓜は痛いものだと聞いていた。そして、みじめで呆気なく、そうよいものだとは思えないのだとも。酒の美味さを知るように、男を覚えるに連れて悦び方を会得していくのだと。それがどうだろう、もうすでに頭がおかしくなってしまいそうなほどに心地よい。これ以上深みに嵌ってしまったら、いったい自分はどうなってしまうのだろう。これ以上にいいだなんて、本当にそのことしか考えられなくなってしまうのではないだろうか。

「マリー……」

 唐突に呼びかけられて顔を上げ、後悔する。ジスランは、普段の理性的な瞳の輝きを取り戻してしまっていた。欲を放出したことで正気を取り戻したのだろう。その愕然とした表情に心臓がずきりと、針の筵で突き刺されたように痛んだ。
 彼は一体、何に対してショックを受けているのだろう。マリー以外の女を抱いたことか。それともマリアンナに無体を強いたことか。あるいは、マリアンナの痴態を思い起こして軽蔑しているのか。どれも嫌だった。だって、愚かにもそれを承知で誘ったのはマリアンナの方なのだ。

「っ、ぁ、ジスランさま、見ないでっ……ぁ」

 絶望に見舞われたマリアンナを、ジスランが剣呑な面持ちで、三度、揺さぶった。確かに精を吐き出したはずの芯は、萎えることなくマリアンナを貫いたまま、まだ物足りないのだと主張を続けている。暴かれたばかりの秘路は、まだ絶頂の余韻が引いていない。比較にならないほど滑りの良くなったそこを責め立てられると、すぐに軽く達したような快感の波が押し寄せた。

「すまない、すまないマリー……こんなこと……ぐ、すまな、い……!」
「ま、まだだめ、だめ、ジスラ――ひ、ぅっ、あんっ、あぁっ」

 繰り返される謝罪などいらなかった。望んだのはマリアンナだ。そんな辛そうな顔も、声も出さなくていいから、もっと自分を求めてほしい。

「気持ちいい、ジスラン、さま、ん、そこっ」
「ん、く、こう、か?」
「ひゃ、あぁぁ、だめ、そこばっかり、変になっ……きもち、いい、です!」

 どちらの蜜ともわからない白液を秘路からこぼしながら、マリアンナは再び絶頂の波に身を委ねた。浮いた腰を押さえるように抱え込んだジスランの動きは止まない。昇りつめたところから下りられないまま、ずっと責め立てられ続けておかしくなってしまいそうだ。
引かない波に翻弄されながら、マリアンナはもまたジスランを求めた。何度も気持ちがいいと訴えた。あなたが教えたのだ、と。肌を重ねる心地よさも、愛しい男に好き勝手に蹂躙される悦びも、極めたときの天から落ちるような快感も、こうして気持ちいいと声に出すと官能が高まることも。

 この無垢な身体に刻み込んだのは、すべて正気を失っていたあなたなのだと、それを嬉々として受け入れたのだと――言外に、伝えられただろうか。

 貪り合うような淫宴は、夜明けまで終わることがなかった。
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