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スピンオフ集

ウィンストンの日常

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ウォーラー王国で私は若い頃から今に至るまで、王族の執事として使用人や料理人、騎士に至るまで様々な管理を任されている。

 今日もまた、鳥の鳴き声と共に城内の使用人エリアの一室で目を覚ました。昨晩は確か、ロイヤルアカデミーの卒業が来月に控えているとの事で、四年生のプロフィールを確認して……しながらそのまま眠ってしまったらしい。

 本来であればとても大きいであろう、机に散乱した山積みとなっている書類をみて皺の寄る眉の間を抑え込む。 入学者の数が変わる事は無いものの、年々減っていく優秀者。 全体的に勉強への関心意欲が低くなってきている事がとても問題だ。この調子では、今年の使用人は限りなくゼロに近いことになるだろう。

 人手に関しては何も問題がない。この私が一人一人、しっかりと審査をした上で選び抜いた者たちだ。もしも人手が足りなかったのだとしても、選ぶ基準を下げる訳にも行かない。

 どのみち来年にもなれば、私の甥であるフェンスや、キャンデウスの双子の息子のジェンとジェラが少なくとも十年以上は働いてくれる事になるだろう。 性格には多少なりとも……いやかなりの問題児が二人居るがそこは同期としてジェンに一任すれば何とかなっていくだろう。

 フェンスに限っては、あまりにも酷いようなら私の傍に置けば良い事だし。まぁ確実にフェンスは私の元へ来るであろう。 あの子は私と似て……というよりもリントン公爵一族らしく純血主義な上に人一倍にプライドも高い。

 何よりも、ジェンはともかくジェラは明るい性格で身分差に緩い一面もある事からフェンスとは普段からいがみ合っている事が多いと双子の父親であるキャデウスから聞いている。

 色々と考え込んでしまったが、部屋に掛けられている時計がそろそろ一周をする頃合なのを見計らって、簡単に書類をまとめてから席を立ちがある。

 前日には既に用意してあった樽の中にある水を、別にバケツの中にある程度注いで自分自身の顔を洗ってからしっかりと髪の毛を整える。 そして今まで着用してあった長めの白い手袋を取り外して新しいのと交換をする。

 燕尾服も既に整えてあるものに着直してから適当に籠に投げておく。そうすれば後でメイド長が回収をするであろう。親戚筋である事も影響はしているが、使用人の中でも俺と対等に会話を交わす事のできる数少ない人物だ。

 身支度をしっかりと整えてから、一日のスケジュールまとめた手帳を手に部屋を出て真っ先に厨房へと向かう。王族の今日のメニューと提供時間を把握するために。

 その道すがら既に今日の窓の解錠の担当である部下が活動をしている事もあって、心地よい風が城内に吹き込んでくる。少し肌寒いくらいだから、王子を起こしに行く時は暖かいお茶も一緒に持って行こう。

 「おっと」

 しかし厨房に行くためには一度、使用人の棟から外に出ないと行けないのだが、両扉の比較的に大きなドアを開けると目の前に居る大きな人物につい、情けない声を上げてしまった。

 赤い短髪の髪の毛に、赤いタレ目を持つウォーラー王国の近衛騎士隊長であるウーロン・ディーラー。 ディーラー侯爵家の現当主だ。この家系は代々、優秀な騎士や隊長を出している事で有名で、ウーロンもまた例に漏れず近衛騎士隊長として立派に勤めを果たしている。

 「ロン、おはよう」
 「ウィスか! 相変わらず早いな!これから王子を起こしに行くのか?」
 「先に厨房に行かないと行けないがな……ロンは聞かなくても朝の訓練か」
 「俺にも言わせてくれよ!」

 そしてウーロンと俺は、互いに同じ年齢で、同じ時期に城に見習いとして入った唯一の同期でもある。当時の筆頭執事が二人のみを採用した事が原因であるが当初は互いの性格の違いに喧嘩をしてばかりだった。 まぁ何十年も同じ目標の元、働いていく内に互いにロン、ウィスと呼び合いたまにお酒を交わす程にまで仲良くなっていると思う。

 今日も簡単に言葉を交わしたら、また目的地へと歩き出す。少し時間が押している事もあって、先程よりも若干早歩きになってしまった。

 きっともう少ししたら、訓練場の方からロンの怒声や他の騎士達のうるさい掛け声が聞こえてくることだろう。 あんまりにもうるさいと頭が痛くなる事も両手じゃ数え切れないほど経験している。
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