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スピンオフ集

ウィンストンの日常

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俺がロイヤルアカデミーに通っていた頃の担任の先生であり、現在のロイヤルアカデミーを統括している学院長でもある。 俺自身は一度も怒られた事は無いものの、今でもこの人のオーラに圧倒されてしまいそうになる事に変わりは無い。


「前回、頂いた今年の卒業生のプロフィールを確認してきました」
 「ほお? 相変わらず仕事が早」
 「結果としては今年は誰一人、城で雇えるに値する人物は居ないですね」
 「人の話を最後まで聞かんかい」

 この先生の話を最後まで聞いていたら、一日が長くなるんだから仕方がないだろう。 あそこで会話を許していたら次の会話に入る頃には下校時間になってしまう。 昔、大真面目に先生の話に付き合ってしまった経験があるからこそ分かる。

 「しかし……今年は治癒魔法を扱えるシェルフ公爵の息子が居たのだが、見逃し」
 「ああ、あれは論外です。要りません」

 確かに、この国では魔法を扱える適正を持つ方が極めて少ない。 安定した魔法使いを排出し続けているレイティア公爵家と、普通の魔法とは扱いも原理もだいぶ異なる治癒魔法使いを度々、排出しているシェルフ公爵家。

 確かに治癒魔法は、とても希少で価値も高い。 もしも今年卒業するセナ侯爵の息子が長男だったのならば問答無用で採用したであろう……いや実際に採用して活躍してもらっている。四年くらい前に。 だから当時からその弟も治癒魔法を無事に扱えるようになったと聞いた時から採用しようと思っていたし、真っ先にプロフィールも拝見した。

 文面だけは確かに採用をして良いと思った。しかし彼の事を掘り下げれば掘り下げる程に出てくる、王家への侮辱。きっと本人はその場限りのノリで話しているのだろうが、そんなもの、許してたまるか。 彼がシェルフ公爵の息子でなかったら速攻極刑にしてしまいたくなるほどの愚行である。そしてそれをご丁寧に密告してくれた男の方も愚かだ。自分が有利に経つ為ならば仲間はもちろんその情報まで簡単に明け渡すのだから。

 そんな者たちを、王城で働かせるわけに行かないだろう。 奴らが働いているのを想像するだけで虫唾が走る。俺がイライラしている様子が伝わったのか学院長は「すまない、少々からかいすぎた」と笑っている。

 「では、以上で私は失礼いたします」
 「待てウィンストン……もう少し息子を気にかけてあげなさい」
 「……その話なら何度もしている。住処も与えているし、お金だって十分過ぎるほど渡している。これ以上、平民に関わるなんてごめんだ。 血の契約さえなければ――」

 畳み掛けるように学院長に対して、関係の無い事を言ってしまったから、一度深呼吸をして落ち着く。 この人が何ヶ月かに一回の割合で、俺の息子、エドワードに関する事について言ってくるのは分かっていた事だ。

 まだ何かを言いたげにしている様子ではあったが、城に戻ってやらなければいけない書類が山のようにあるからこれ以上滞在する訳にも行かない。

 そんな事を考えながら、馬車の元へ戻りそのうちの一頭に跨る。 もう一つの書類がカバンに入っている事を確認して、城に戻る前に王家御用達の仕立て屋として知られているキャンデウスの屋敷へと向かう。

 貴族にしては珍しく、屋敷と言っても仕事場も兼ねている事もあり、今居る場所からはかなり遠いためあんまりこちらから訪ねたく無い気持ちもある。 しかし、急用であるため行かない訳にも行かない。

 ぶつぶつと文句を言いながら馬を走らせること役30分、馬車が五つくらい並んでいるいつもの光景を横目に、門番への顔パスを済ませて裏口から入る。 裏口を見張っている使用人からはかなり驚かれたが、急用だからキャンデウスを呼ぶように伝えると、少し固まったあとに猛ダッシュでどこかに行く。

 そしてしばらくしてから出てきたキャンデウスもまた、怪訝そうな顔をしながらも、かなり慌てた様子で、こちらに走ってきた。

 「ウィンストン様、手紙もなく突然尋ねてくるなんてどうされました」
 「実は急用でな……すまないが殿下の春用の制服を一着見繕って貰えないだろうか」

 そう言えば、キャンデウスは首を傾げながら何か不備があったのか、など顔を青くしながらぶつぶつと話し出すから、俺もまた訂正するように「キャンデウスに非は無いんだ」と付け足す。

 「それじゃあどうして……自分が言うのもなんですけど、今回は息子に任せたとは言え、私が監修しましたし、卒業するまでは大丈夫なように設計もした」
 「えぇ……どの制服よりも立派に作ってもらっているのは把握しています。 なのでこれからも頼るのは間違いないんです。 しかし……殿下の身長がまた伸びて」
 「また……?」
 「ええまた」

 その言葉にキャンデウスは5cmくらいは余裕を持って作ったはずなのにとかなり驚愕した様子で目を見開いている。俺自身もまた伝えながら呆れ半分でため息を吐く。

 「成長期も終わったと思ったんだが……まだまだ大きくなりそうで……春までに頼んだぞ」
 「王家の依頼は絶対だからなぁ……分かりました!私たちにお任せ下さい」

 その言葉に安心して、キャンデウスに挨拶をしてまた戻る。 王家のためとは言え、かなり無茶を言っている事は流石に分かるから、今度個人的に菓子でも贈ろう。きっと彼の双子の息子であるジェンとジェラも喜ぶことであろう。


――そして城に戻った俺は、残りの書類仕事を片付けてからもう一度アカデミーへと戻って殿下を迎えに行った。本来ならその後も寝かしつけるまで傍でお世話をしたいのだが、やはり来月に控えたアカデミーの書類の山を見るに厳しかったから今夜もまた、徹夜で作業をする事になるだろう。
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