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5 出張旅行編
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翌日。
レストスに来て三日目の今日は、朝早く起きて東の遺跡に向かっていた。
レストスを丸一日楽しめるのは今日で最後。
レストスから王都まで飛竜で半日はかかるので、遅くとも、明日のお昼にはここを立たないといけない。
ちなみに、三番目の探索も、ユクレーナさんの実家との話し合いも、今のところ収穫ゼロ。
「何の進展もないし、成果もないよね」
ポツリと口から出た言葉をラウが聞き咎め、私の頭をポンポンと手で触った。
「本来の目的はイチャイチャ旅行だろ?」
「でも」
「向こうの要望の対価としてもらった休暇なんだ。仕事をするのは俺たちじゃない」
私はラウと並んで、東の遺跡へと続く山道を登っていた。
ユクレーナさんとジンクレストは、私たちの前を歩いている。
「だから、成果が出せなくて困るのは第一塔の情報室と第七師団なんだ。フィアが心配することは何もない」
「ユクレーナさんの件は?」
私は前をヨロヨロ歩くユクレーナさんに目を留める。ちょっと体力的にきつそうだね。
「成人している以上、意志決定権は本人にある。それに確固たる役職に就いているんだ。親が口出しする隙などあるわけがない」
「それでも家族と話し合った方が良いと思ったから、塔長が実家帰省をさせたんじゃないの?」
「それはどうだかな」
ラウも前を歩く二人に目を留めた。少し間が離れているので、私たちの小声はおそらく聞こえていない。
「フィアをここに来させる、ついでだったのかもしれんぞ」
「あー、あり得る」
「ともかく、フィアはイチャイチャ旅行を満喫すれば、それでいいんだ」
ラウはそう言って爽やかに笑った。
「ここ、本当に東の遺跡ってところ?」
「はい、間違いなく東の遺跡なんですが、これは」
しばらくして、私たち四人は、昨日と似たような石造りの場所にたどり着いた。
ついたはいいけど、昨日とは打って変わって、死んだような静けさ。
不自然なほどの静寂の中、私たちの足音だけが嫌に大きく聞こえる。
「ずいぶん静かだな」
「静かなんてものではありません。ここは精霊が……」
「うん、いないね」
私も鑑定眼で辺りを見回した。
私は技能なしなので、精霊魔法技能がなくて精霊力が使えない。
ところが、《鑑定》で精霊力が分かることを教えてもらってからは、世界が一変した。
ここが静かな理由が精霊のせいだということだって、誰かに説明されなくても分かるようになった。
昔は精霊魔法技能様々だと思っていたけど、今は鑑定技能様々だと思っている。
話がずれたので元に戻そう。
精霊がいない。そんな場所はエルメンティアではあそこしかない。
ジンクレストが気味悪そうにつぶやく。
「混沌の木こそありませんが、ここの精霊力はまるで赤の樹林のようです」
そう、赤の樹林。
中立エリアの中にあって、金竜さんの力さえ及ばない場所。三番目が隠れるのにうってつけの場所。
「つまり、ここが潜伏場所である可能性大ってことだね」
そもそも、三番目は北で待ってるって言ってたからね。
三番目の隠れ家までたどり着いたというより、誘いに乗ってやってきたというべきかもしれない。
入り口から中に入っても、静けさは同じだった。ちょっと違うのは、僅かながら精霊の気配があるということ。
四人の中で一番精霊力に敏感なラウが、クンクンとあちこち嗅ぎ回る。
魔力やら精霊力やら混沌の気やら、そういった類のものは、すべて臭いが違うんだそうだ。
まー、私の場合は視えるわけなんだけど、ラウの場合は鼻で分かるらしい。
ラウがときおり私をクンクン嗅いでいるのは、わたしの魔力を嗅ぎ分けているってことじゃ、ないよね?
少ししてから、ラウが遺跡の奥を指差した。
「向こうから、精霊王クラスの反応はあるぞ」
「行ってみる?」
「あぁ。でもな。狂ってる」
「何が?」
「精霊王」
「え?」
それはマズいんじゃないの?
首を傾げるだけの私に対して、ユクレーナさんとジンクレストはビクッとした後、動きを留めた。
この二人、精霊魔法技能は超級だったはずだ。超級が揃いも揃ってビクつくなんて。
狂った精霊王って、かなりマズそう。
ラウは落ち着いたもので、なにごともなかったかのように話を続ける。
「この様子だと、下級精霊は狂気に耐えられなくて消滅したようだ。精霊王のような上級精霊だけ、かろうじて存在している」
「でも狂ってるんだよね?」
「あぁ、おかしくなって暴走してる」
狂って暴走した精霊王って、マズい予感しかしない。
「どうしてそんなことに?」
「さぁな。解析は専門外だ」
私も遺跡の奥に目を向けた。
奥へ行くほど暗くなっていて、先がよく見えない。
「西の遺跡で精霊力が荒れていたのと、何か関係するんでしょうか」
「チビの言ってた『赤の樹林が新しくできる』ってやつの影響かもな」
「それも考えられますね」
ここで話していたところで、何か解決するわけでもない。
私は頬を手のひらでペチンと叩いて気合いを入れる。
ラウを見るとラウは大きく頷いた。私が次に言う言葉が分かっているようだ。
「とにかく、行ってみるんだよね?」
「あぁ、今回の目的は探索だからな」
こうして、私たちは遺跡の奥へと足を踏み入れた。この先に待っている者の正体も分からないまま。
レストスに来て三日目の今日は、朝早く起きて東の遺跡に向かっていた。
レストスを丸一日楽しめるのは今日で最後。
レストスから王都まで飛竜で半日はかかるので、遅くとも、明日のお昼にはここを立たないといけない。
ちなみに、三番目の探索も、ユクレーナさんの実家との話し合いも、今のところ収穫ゼロ。
「何の進展もないし、成果もないよね」
ポツリと口から出た言葉をラウが聞き咎め、私の頭をポンポンと手で触った。
「本来の目的はイチャイチャ旅行だろ?」
「でも」
「向こうの要望の対価としてもらった休暇なんだ。仕事をするのは俺たちじゃない」
私はラウと並んで、東の遺跡へと続く山道を登っていた。
ユクレーナさんとジンクレストは、私たちの前を歩いている。
「だから、成果が出せなくて困るのは第一塔の情報室と第七師団なんだ。フィアが心配することは何もない」
「ユクレーナさんの件は?」
私は前をヨロヨロ歩くユクレーナさんに目を留める。ちょっと体力的にきつそうだね。
「成人している以上、意志決定権は本人にある。それに確固たる役職に就いているんだ。親が口出しする隙などあるわけがない」
「それでも家族と話し合った方が良いと思ったから、塔長が実家帰省をさせたんじゃないの?」
「それはどうだかな」
ラウも前を歩く二人に目を留めた。少し間が離れているので、私たちの小声はおそらく聞こえていない。
「フィアをここに来させる、ついでだったのかもしれんぞ」
「あー、あり得る」
「ともかく、フィアはイチャイチャ旅行を満喫すれば、それでいいんだ」
ラウはそう言って爽やかに笑った。
「ここ、本当に東の遺跡ってところ?」
「はい、間違いなく東の遺跡なんですが、これは」
しばらくして、私たち四人は、昨日と似たような石造りの場所にたどり着いた。
ついたはいいけど、昨日とは打って変わって、死んだような静けさ。
不自然なほどの静寂の中、私たちの足音だけが嫌に大きく聞こえる。
「ずいぶん静かだな」
「静かなんてものではありません。ここは精霊が……」
「うん、いないね」
私も鑑定眼で辺りを見回した。
私は技能なしなので、精霊魔法技能がなくて精霊力が使えない。
ところが、《鑑定》で精霊力が分かることを教えてもらってからは、世界が一変した。
ここが静かな理由が精霊のせいだということだって、誰かに説明されなくても分かるようになった。
昔は精霊魔法技能様々だと思っていたけど、今は鑑定技能様々だと思っている。
話がずれたので元に戻そう。
精霊がいない。そんな場所はエルメンティアではあそこしかない。
ジンクレストが気味悪そうにつぶやく。
「混沌の木こそありませんが、ここの精霊力はまるで赤の樹林のようです」
そう、赤の樹林。
中立エリアの中にあって、金竜さんの力さえ及ばない場所。三番目が隠れるのにうってつけの場所。
「つまり、ここが潜伏場所である可能性大ってことだね」
そもそも、三番目は北で待ってるって言ってたからね。
三番目の隠れ家までたどり着いたというより、誘いに乗ってやってきたというべきかもしれない。
入り口から中に入っても、静けさは同じだった。ちょっと違うのは、僅かながら精霊の気配があるということ。
四人の中で一番精霊力に敏感なラウが、クンクンとあちこち嗅ぎ回る。
魔力やら精霊力やら混沌の気やら、そういった類のものは、すべて臭いが違うんだそうだ。
まー、私の場合は視えるわけなんだけど、ラウの場合は鼻で分かるらしい。
ラウがときおり私をクンクン嗅いでいるのは、わたしの魔力を嗅ぎ分けているってことじゃ、ないよね?
少ししてから、ラウが遺跡の奥を指差した。
「向こうから、精霊王クラスの反応はあるぞ」
「行ってみる?」
「あぁ。でもな。狂ってる」
「何が?」
「精霊王」
「え?」
それはマズいんじゃないの?
首を傾げるだけの私に対して、ユクレーナさんとジンクレストはビクッとした後、動きを留めた。
この二人、精霊魔法技能は超級だったはずだ。超級が揃いも揃ってビクつくなんて。
狂った精霊王って、かなりマズそう。
ラウは落ち着いたもので、なにごともなかったかのように話を続ける。
「この様子だと、下級精霊は狂気に耐えられなくて消滅したようだ。精霊王のような上級精霊だけ、かろうじて存在している」
「でも狂ってるんだよね?」
「あぁ、おかしくなって暴走してる」
狂って暴走した精霊王って、マズい予感しかしない。
「どうしてそんなことに?」
「さぁな。解析は専門外だ」
私も遺跡の奥に目を向けた。
奥へ行くほど暗くなっていて、先がよく見えない。
「西の遺跡で精霊力が荒れていたのと、何か関係するんでしょうか」
「チビの言ってた『赤の樹林が新しくできる』ってやつの影響かもな」
「それも考えられますね」
ここで話していたところで、何か解決するわけでもない。
私は頬を手のひらでペチンと叩いて気合いを入れる。
ラウを見るとラウは大きく頷いた。私が次に言う言葉が分かっているようだ。
「とにかく、行ってみるんだよね?」
「あぁ、今回の目的は探索だからな」
こうして、私たちは遺跡の奥へと足を踏み入れた。この先に待っている者の正体も分からないまま。
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