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61話

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 隣の部屋を借りている冒険者が獣人で、早ければ明日発生する防衛依頼に参加するらしい。

「……1人で街を防衛する依頼に参加って、獣人はそんなに強いの?」

「獣人は戦闘能力が高いとされていますが、彼は獣人の中でも別格でしょう……気になりますか?」

 そうレーリアが尋ねるけど、ウォルは初めて会話をした獣人だ。

「獣人と会話をしたのが初めてだもの。エルフや獣人が、精霊界からリドラの街に来る理由って何があるの?」

 レーリアの理由はリアークの弟だと解ったけど、他のエルフや獣人がこの街で生活している理由が気になってしまう。

「様々ですね……問題を起こして追い出されたり、人界に魅力を感じたり……彼の場合、単純に強いから冒険者になるのが一番だと考え、精霊界からリドラの街に来ている可能性が高そうです」

「そうなんだ」

 ウォルとは塔に関係する依頼で関わりそうだけど、レーリア以外の冒険者の強さが気になってしまう。

 それは明日以降わかるだろうし……とにかく、今の私は料理スキルを使いたい。

「冒険者ギルドで話をしたり、隣の部屋の住人と挨拶したり……色々あったけど、ようやく料理スキルが使えるわ」

「そうですね……アカネ様は、米を使ってどのような料理を作られるおつもりですか?」

 そう言われると色々と考えてしまうから、迷う前に料理スキルを使ってみる。

 白米を握っただけの幾つものおにぎり――具材を入れず、料理スキルの力で完璧に炊けている。

 炊いたばかりのご飯と、絶妙な柔らかさ……そして塩加減も完璧のはず。

 シンプルだけど、料理スキルで更に完璧になっている。

 ご飯の美味しさをとにかく堪能したいから、最初は塩おにぎりを食べると決めていた。

 今までと違ってシンプル過ぎるからか、レーリアが困惑している中、私は説明する。

「……色々と思いつくし作りたくなっているけど、最初はシンプルにおにぎりにしたわ」 

「美味しそうですね……アカネ様は、この料理を心から楽しみにしていたのですか?」

「ええ。これから色々とお米を使った料理を作るけど……最初は、これにすると決めていたわ」

「そうですか。それでは……いただきます」

 そう言って私とレーリアは、塩おにぎりを食べていく。

 最初こそ困惑していたレーリアだけど、一口食べると目を見開かせて。

「米の美味しさが伝わってきます。流石はアカネ様です……アカネ様、大丈夫ですか?」

「えっ!? だ、大丈夫よ! ちょっと感激しすぎたから……」

 この世界に来て、久しぶりに食べたご飯を堪能して、私は思わず涙を流していた。

 元の世界を思い出したからとかじゃない……もう食べられないとまで思っていたご飯を、食べることができている。

 今この瞬間に――この世界に来てよかったと、私は確信することができていた。

「ご飯が細長かったから少し不安だったけど……魔力が宿っていることもあって、今まで食べたどのおにぎりよりも美味しいわ!」

 リドラの大陸に来て、本当によかった。

 この街を拠点にして、家を購入するためにも……街を破壊するゴーレムを止めるのは当然として、私達は活躍することで冒険者のランクを上げておきたい。

 主に活躍するのはレーリアになるけど、私もレーリアの役に立ちたかった。
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