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すべては運命のままに
(41)くじの結果
しおりを挟む太陽がもっとも高い位置に昇った。
広間の中央に台が運ばれてきて、黒くて口の細くなった壺がそこに置かれる。父はその中に四本の細い棒を差し入れてざらりと混ぜた。
「では、お一人ずつ、順番にお引きください」
私がぼんやり見守る中、立会人の一人である長老が声をかけた。
定めの儀式の主催者として台の横に座った父は、珍しく厳粛な顔をしていた。しかしその目は上機嫌な時の目だ。
対して、父の斜め後ろに立っているカラファンドは、ひどく緊張した顔をしている。きれいな顔は血の気が引いていて白いくらいだ。いったいどうしたのだろう。姉の運命なのに、自分のことのように感じているのだろうか。
……私も手が震えているのを隠しているから、偉そうなことは言えないけれど。
私が苦笑を押し殺して考えていると、まずメトロウド殿が立ち上がって前に進み出た。
淀みなく台の前まで歩き、無造作に壺に立てたくじに手を伸ばした。
その手が一瞬止まった。メトロウド殿の繊細な眉がわずかに動き、主催者として最後にくじを触った父を見やる。しかしそれほどの時間を置かず、何事もなかったように一本のくじを選んで引き上げた。
次にルドヴィス殿が立ち上がった。
ルドヴィス殿はしばらく壺の口から出ているくじを睨むように見ていたが、やがてふぅっと息を吐いて目を閉じた。それから目を開けると、軽く首を振ってから一本を引き上げた。
三人目がファドルーン様。
台の前に立ったファドルーン様は、二本だけ残っているくじを見てなぜか微笑んだようだ。どこか楽しげに見える麗しい笑みを浮かべたまま、優雅な手つきで一本を選んで引いた。
そして最後に立ち上がったのはアルヴァンス殿。もう選ぶ余地はないから、残っている一本を淀みなく引いた。
三人はどういう表情をしているだろうか。
木を細く削ったくじの根元には印がついている。ただ一本にだけある印こそ、マユロウ家の紋章であり、私の夫になることを意味する。
父の楽しげな唸り声が聞こえた。私はようやく我に帰って見回した。
気が付くと、アルヴァンス殿がいよいよ困惑した顔で私を見ていた。彼が手にしているのは、マユロウ家の紋章が入ったくじ。他の三人はそれぞれ目をそらし、印のないはずれくじを手にしていた。
ずっと握りしめていた手から、すうっと力を抜けていく。
力が抜けたのは手だけではない。私は椅子の背もたれに体を預けていた。
「決まったぞ、カジュライア。そなたの夫はアルヴァンスだ」
定めを告げる父の声がする。
朗々と響いた声は、しかしすぐにいつもの声に戻った。
「カジュライアよ。そなたは実に良い求婚者を得たものだな。これで縁が切れてしまうのは実に惜しいですな!」
「……ち、父上、お願いですから……!」
高らかに笑う父を見ながら、なぜかカラファンドは気を揉んでいる。その目がちらちらとハズレくじの三人に向いているから、三人への配慮を促しているのだろうか。
その前でため息をついたルドヴィス殿は、潜めていた眉を戻し、口元を歪めた笑みを浮かべて私の前に立った。そしてまだ力が抜けたままの手を両手で握った。
「最悪の事態でなかったから、運命には感謝しておこう。初めてお贈りするドレスが他の男のための花嫁衣装になるのは気に入らないが、あなたを美しく飾る権利は私が頂く」
否とは言わせない語調でそう言い切り、ルドヴィス殿は私の手に口付けて低くささやいた。
「……あの秀才殿が物足りなくなれば、いつでもお呼びください。パイヴァーの財力も私自身も、あなたのものだ」
もう一度私の手を握りしめ、ルドヴィス殿は離れた。
はずれくじを父に渡したファドルーン様は、座ったままの私の前で身を屈め、頬に唇を長々と押しあてた。
「傾城になってみたくなったら、ぜひお知らせください。帝国全土を献上する覚悟で参上します。……ところで知っていますか? アルヴァンス殿も皇帝陛下のお気に入りなのですよ。陛下が私室に頻繁に招く程度に」
耳のすぐ横で紡がれたその言葉を聞き、私は慌ててアルヴァンス殿に顔を向ける。
今、ファドルーン様は何と言った?
「……皇帝陛下の、お気に入り?」
「そうです……だから私は辞退しようとしたのですが……」
まだ当たりくじを見ていたアルヴァンス殿は低く呻き、重苦しいため息をついた。顔色が悪い。
すっかり青ざめた勝者を横目に、メトロウド殿はどこか不機嫌そうな、だが最高ににこやかなままはっきりと告げた。
「ライラ・マユロウ。私はあきらめませんよ。特に相手がアルヴァンス殿ならば」
なんだか三人に好き放題に言われている気がする。
だがなぜ父はあれほど上機嫌なのか。なぜカラファンドが青ざめているのか。アルヴァンス殿以外の三人は、なぜこれほど落ち着いて見えるのか。
……私はまだ頭が良く動かない。
だが、たぶん全てがおかしい。それだけはわかった。
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