お前の全てを奪いたい【完】

夏目萌

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FOURTH

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 店を出た俺は、さっきの発言は言ってはいけないモノだったと反省した。

 プロなら、感情任せで返してはいけない事も分かってた。

 だけど、俺はもう、我慢出来なかった。

 環奈が好きなのは事実だし、真美をはじめ客の女たちには一切の感情が無いのも事実だから。

 こうなった以上、俺はもう店には居られないかもしれない。

 けど、それでも良いとさえ思っていた。

 そんな事よりも俺には一つ気掛かりな事がある。それは、環奈の事だ。

 HEAVENの前に着いた俺は表から店には入らず、明石さんに直接電話を掛けた。

「あ、明石さん?」
「万里か。お前のとこ、変な書き込みで荒れてないのか?」
「荒れてる。つーか俺の客が怒鳴り込んで来たよ。それでもしかしたらHEAVENにも皺寄せがいってるかもと思って今外に居るんだけど、裏から入っていい?」
「そうか、ああ、入って来い」

 明石さんの了解を得て裏から入ると、環奈が事務所に居た。

 俺が来た事で明石さんは事務所を出てホールへ向かって行き、環奈と二人きりになる。

「万里さん」
「環奈……お前もあの書き込みを?」
「はい、明石さんから見せてもらって。あれ書いたの、一聖くんですよね……」
「……恐らくな」
「すみません、万里さんにまでご迷惑を掛けてしまって」
「俺の事はいいんだよ。それよりも、お前が今考えてる事、当ててやろうか?」
「え?」
「お前、アイツのとこに戻るつもりじゃねぇのか?」
「……っ、そ、それは……」

 図星を突かれて言い淀む環奈。

 やっぱり、俺の予想は当たってた。

 環奈の性格だと自分のせいでこんな騒ぎになったと分かったら必ず、自分で何とかしようと思うはずだから。

「そんな事、絶対させねぇ」
「万里さん……だけど、そうしないと……私よりも、万里さんが」
「環奈、よく聞け。正直俺はもう、ホストに未練は無い。これまでだって別に誇りがあった訳じゃなくて、金の為、礼さんや店の為に続けてただけなんだ。女を騙して、金の為に抱いた事も数知れねぇ」
「…………」
「俺、根っからのクズなんだよ。けどな、環奈と出逢って、初めて人を愛する事がすげぇ幸せな事だって知った。それを知ったら、もう他の女なんて抱けねぇし、今まで金積まれて抱いてきた事すら、後悔してる」
「……万里さん……」
「だから、こうなったのは自分のせいでもあるんだ。環奈だけのせいじゃない」
「でも……」
「俺は、どんな事があってもお前を喜多見の元へなんかやらねぇ!  俺から離れるなよ……俺には、環奈が必要なんだ」

 これ以上アイツの元へ行くと言うなら、俺は環奈を閉じ込めてでも止めるつもりだった。

 だけど、無理矢理閉じ込めるなんて事をしたら、それこそ喜多見と同じになっちまう。

 環奈には自らの意思で、俺の傍にいて欲しい。

 俺の傍に居たいって、思って欲しいんだ。

「……万里さん……私、嬉しいです。万里さんにそこまで想ってもらえて、嬉しい……」
「環奈……」
「……万里さん……私と一緒に、一聖くん……いえ、彼の元へ、行って貰えませんか?  このままでは駄目だから、もう一度会って、きちんと話をしたい。私の想いを伝えたい。だけど、一人じゃ不安だから……万里さんに、付いて来て欲しいです…………駄目、でしょうか?」

 環奈のその言葉に、俺の胸は熱くなる。

 俺を必要としてくれている事が、何よりも嬉しかった。

「駄目な訳ねぇだろ。つーか、言われなくても付いてくつもりだったしな。お前を一人になんかしねぇよ。アイツは何しでかすか分からねぇからな、どんな事があっても、俺が守ってやる」
「……万里さん、ありがとう……。頼りにしてます」

 こうして俺たちは話し合いの末、喜多見の元へ向かう事になった。

 アイツは必ず環奈が連絡をしてくると思っていたのか、彼女が会いたいと言ったら自宅へ来いと言ってきた。

 俺に目配せをした環奈はそれに頷き、これから行く事を伝えた。

 けどまあ、アイツの考えが甘かったとするなら、俺が一緒だというところだろう。

 喜多見の部屋の前に着いた俺たちは、ひとまず環奈だけが来たように見せる為、俺は見えない所に立って身を隠すと、環奈が呼び鈴を鳴らす。

 するとアイツは下卑た笑いを浮かべながら玄関のドアを開けた。

「ようやく来たか、環奈。どうだ?  謝る気になったか?」
「……一聖くん……」
「ま、とりあえず中に入れよ。中でゆっくり、話し合おうぜ」
「や、やだ……」

 そう言いながら環奈の腕を掴んだ喜多見。

 それと同時に身を隠していた俺がすかさず出て行き、

「汚ぇ手でコイツに触んなよ!」

 喜多見の手を払い除けて環奈の身体を胸に引き寄せると、そんな俺の登場が予想外だったようで、もの凄く驚いた表情を浮かべながらわなわなと身体を震わせていた。
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