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九話「着替え」
しおりを挟む兄上との長い長い親密な触れ合いを終え、お風呂から上がったのは三十分後のことだった。少々のぼせてしまった。
ボクは白のバスローブを羽織る。
ボクのバスローブでは小さいので、兄上はバスタオルを腰に巻いている。
腰にバスタオルを巻いているだけなのに、ギリシャ彫刻みたいに美しいとかずるい。
濡れた髪が太陽の光でキラキラ光って、妖艶な色気を醸し出している。
とはいえずっとバスタオル一枚ではいられない。これから父上(国王)に謁見するのに、牢屋で着ていた服では嫌だろうし、だいいち昨日のは濡れている。
兄上の服を早急に調達しないと。
「兄上の服はどうしましょうか?」
「問題ない」
兄上が入口の扉を開けると、執事のアデリーノが広蓋(ひろぶた)を持って立っていた。
アデリーノずっとそこにいたの?
「ヴォルフリック様、こちらをお召しください」
「分かった」
アデリーノから広蓋を受け取り、兄上が扉を閉め鍵をかけた。
広蓋とは衣装を人に与える時に使う蓋のない長方形の漆塗りの箱のことだ。
広蓋は二つあり、片方には兄上の服が、もう片方にはボクの服が入っていた。
ボクの服は、白のシャツに、水色のジュストコールに、白のアスコットタイ。ジュストコールの襟と袖口には金の刺繍がほどこされていた。
兄上の服は、紺のジュストコールに、白のシャツに、ストリングタイ(紐ネクタイ)。ボクのコートと同じようにジュストコールの襟と袖口には金の刺繍が施されていた。
国王に謁見するので執事のアデリーノが気を利かせて用意してくれたのだろう。
それとも父上の命令かな?
どちらにしてもこれで兄上の服問題は解決した。
だけど困ったな、いつもメイドさんに着替えさせてもらっていたから、服の着方がわからない。
前世の記憶はあるが、前世で着ていたのは普通の服で、王子様の服なんか着たことがなかったし。
広蓋の前で固まっていると、既に着替えを終えた兄上が。
「心配いらない」
と言ってボクに服を着替えさせてくれた。
「兄上はご自分で着替えができるのですね」
感動してそう伝えると。
「牢屋に着替えをさせてくれるメイドがいるとでも?」
冷たく返されてしまった。
「ごめんなさい」
兄上の気持ちも考えず、無神経なことを言ってしまった。
「気にするな、今更誰かに着替えを手伝われるのも不愉快だ。それにお前の着替えをこうして手伝ってやれる。牢屋暮らしも無駄ではなかった、怪我の功名だな」
兄上が苦笑いを浮かべる。
兄上は強いな。
「自分で着替えられるように、ボクも服の着方を覚えますね」
「お前は覚えなくてもいい」
「どうしてですか?」
ボクも自分の服ぐらい自分で着られるようになりたいのに。
「お前に服を着せるという私の仕事がなくなる、だから覚えなくてもいい」
兄上はやっぱり家族との交流に飢えているんだな。弟の着替えを手伝ってあげたいなんて、やさしい人だな。
兄上の指が胸の突起に触れる「ぁっ……」思わず声を出してしまい、羞恥で顔が赤くなる。
そんなボクを見て兄上が嬉しそうに笑う。
やっぱり自分の服は自分で着られるようになろう。
また胸の突起に触れられてエッチな声を出したら恥ずかしいし、その度に兄上の妖美な笑顔を見せられたら心臓に悪い。
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「第七回なろうデスゲーム」の商品として、Jam様にエアネスとヴォルフリックのイラストを描いていただきました。このページに書いてある服のイメージて描いていただきました。製作者の許可を得て挿絵として使用させて頂いております。Jam様ありがとうございます!2023/05/09
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応援ありがとうございます!
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