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第二章

二十話

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「レイ……そういえば、さっき襲った人と言っていたが、レイに酷いことをした例の闇魔法師は一人じゃないということなのか?」
「私に酷いことをしたのはその一人よ。でも……連れていかれた変な部屋には、たぶん他に何人か居たと思う。暗くて姿はよく分からなかったけど、沢山の目で見られているような嫌な気配は強く感じた……」
 それだと、やはり組織的に動いているということだろうか。
 いきなりそんな環境下に置かれて、額に焼印なんて非人道的なことをされて……レイは本当に辛かっただろうな。
 しかも、それを国がやらせたと思っていたなら尚更だ。
 自分を待ち受ける未来に、酷く絶望したことだろう。
 私は初めて会った時の、あの諦めていた感じの彼女をふと思い出す。
 確かに転移サークルを展開させて、人を勝手に遠くへ飛ばしたことについては、嫉妬の嫌がらせにしてはいき過ぎだったと思う。
 だけど、隠密部隊の格好をしていたその闇魔法師たちの目的は、おそらくではない。
 例えばそのチート能力が使われたことによって、すぐに封印を要するがあった……とかね。
 まぁこの辺はあくまでも私の憶測なのだが。
 でもこの憶測もあながち間違ってはいないと思うんだ。
 それは私も同じチート能力持ち、そして転生してきた元地球人として、なんとなく感じる予感みたいなもの。
 何か大きな野望を企てている者が、脅威になりそうな能力保持者を先に押さえてしまおうと考えていたのだとしたら、そういった凶行の理由も容易に想像がつく。
(今後もこういう異様な出来事が、国の周りで増えてきそうな気がするな……)
 
「無抵抗な女性一人に集団で……なんて卑怯な……」
 ユケル騎士団長は悲痛な面持ちでそう呟くと、自身の着ていた隠密部隊のコートを速やかに脱いだ。
 コート下から出てきたのは騎士団の制服ではなく、高級そうなブラウスの私服である。
 そして彼は私たちから少し離れた場所で火の魔法を使い、隠密部隊の服を一瞬で灰にしてしまう。
 ユケル騎士団長のその行動にはさすがのレイも驚いていたが、逆に私は彼の気持ちがよく理解できた。
 そんな非人道的な人間たちと同じ服に袖を通していたくはないという怒りの現れ……そしてレイの気持ちが少しでも軽くなるようにという彼なりの配慮なのだろう。
「フォルティエナ譲、そしてレイさん……私にもその封印を解く手伝いをさせてください。王国に仕える者として、私には責任を取る義務があります」
 ユケル騎士団長はそう言って、深々と頭を下げた。
「……フォルはどう考えているの? 私はあなたの決定に合わせるわ」
「ユケル殿はとてもお強い。頼りにはなると思うが……私たちを力強くで城に連れ戻したりなんてことは、絶対にしないんだな?」
「そう言った命は受けておりません。あなた方のことは私とレイグラート様、そして脱走時に看守だった者しか事実を知りませんから」
「それならば護衛として、ぜひとも同行をお願いしたい。それと今後は私のことをフォルと呼んでほしい」
 私の言葉にユケル騎士団長は頷いた。
「承知いたしました。様付けだと目立ちそうですので、今後はフォル殿とお呼びします。それで……話は変わりますが、隠密部隊の不可解な行動については、王子に今から書簡を送り、極秘の調査を求めるつもりです」
 ユケル騎士団長はそう言うと、笛を吹いて鷹を呼んだ。
 そして何やら報告書作成のための準備をしている。
 私とレイはその様子をただ黙って見ていた。

 こうして彼の仕事が終わるのを待っている間に、少し事実関係の方を整理してみよう。
 ユケル騎士団長の言葉が正しいのなら、今の私たちは王国に追われる身ではなく、ある程度自由を許されているという認識で大丈夫だろうか。
 まぁ、私とレイグラートが婚約破棄にまで至っていないということから、そういう意味では私自身に自由はないが。
 しかしこれで、私たちが慌てて亡命する必要がなくなったのは確かだ。
 犯罪人として国から追われるよりは、ずっと良い境遇だろう。
 ただ問題は、レイに非道な仕打ちをした隠密部隊の真意が実際のところ何も分かっておらず、さらに今後も狙われる可能性があるということだった。
 そして、レイの封印を解く方法を探さなければならないことに変わりはない。


「……これで、私の仕事は一先ず終わりました。さぁ、二人とも今日は疲れたでしょう? 今後のことは村の宿にでも戻って、ゆっくり相談いたしましょう」
 ユケル騎士団長の言葉に促され、村まで戻ってきた私たちはそのまま宿屋の食堂に入る。
 ここの食事代と宿泊代はユケル騎士団長殿の奢りだ。
 というか公費で落とすつもりらしい。(いいのか?)
 私たちは食事をとりながら、周りにいる他の客には聞こえないよう音量を抑えて、今後のことを話し合う。
「とりあえずこのまま当初の予定通り、まずは港があるヒエウの街に行こうと思う。そしてレイはヒエウにあるクラン同盟で試験クエストを受けて、冒険者登録するのはどうだろうかと。レイが冒険者になれればクランへの出入りも増えるし、有益な情報もきっと手に入りやすくなる。それにヒエウの街でこれサファイアを換金できれば、今よりももっと良い装備が買えると思うしね」
  私はそう言って、自分の持っている鞄を指差した。
「そうね。仮に世界を周るとしても、まずはそこからよね。うん、試験……頑張ってみるわ」
 レイはそう言って意気込みを見せる。
 クランの試験クエストはそこまで難しくはなかったが、それはあくまで王都のクラン同盟での話。
 ヒエウの街での試験内容は私たちにはまだ未知のことなので、一体どんな対策を打てば良いのか見当もつかないが、レイは攻撃魔法の能力に長けているから、そこが活かせる依頼だったら良いのだけど。
「フォル殿はご実家を頼らない方向で行くのですね。それと言い忘れていましたが……私がお二人の手伝いができるのは残念ながら国内までです。なのでもし他国へと移動される予定があるのでしたら、もっと自由が効くを派遣させますので……そこは安心してください」
 ユケル騎士団長が私たちと一緒にいられるのは国内までなんだな。
 まぁ当たり前か。
 彼は王国の騎士でしかもそこの団長様なんだものな。
 勝手に国外へ出るわけにはいかないよな。
「よその国では、フォルと私の護衛に別の人が来るの?」
「ええ、私と同等の強さがあり、人としても信頼できる優秀な冒険者です。それに国に有事の際は騎士団の長として即刻戻らねばならないので、その際にもお願いするかと思います。その件につきましては先ほど王太子様に報告がてら、その者にもすでに書簡を届けさせましたので……」
 おぉ、随分と手際がいいな。
 しかし……ユケル騎士団長が信頼してる優秀なかぁ……一体どんな人物が来るのだろう。
 女性か男性かも分からないが、彼に信頼されているくらいだから、きっととても礼儀正しくて素敵な人なんだろうな。
 それに私にとってもクランの先輩に当たるわけだから、ぜひとも会ってみたいものだ。
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