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第6話(後篇):関係

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     偽妹(ぎもうと)
―憎い男に身体を開かれていく―



■第6話(後篇):関係





――放課後




フミはソウタから誘いを受けていた。



「今日ちょっとスーパーに一緒に行かない?」


「うん、いいよ~」



前回と同じように、待ち合わせ場所を決めて別々に学校を出た。


フミは特別なことをしているようで、
待ち合わせ場所に向かう時間が心地良く感じていた。


会うまでは何を話そうかあれこれと考えてしまう。

それが会って彼の顔を見ると、考えていたことなど
もうどうでもよくなって消えてしまう。





――15分後





「え?料理することになったの?」



「最初は弁当でも買おうかなって思ったんだけど、
フミちゃんは自炊してるんだし、ちょっとは見習おうと思って」


聞けば、彼の両親の帰りが遅くなることがあるらしい。
ふたりは慣れた様子で自然に会話が始まっていた。



「普段はどんな料理をしてるの?」




「うーんとね、そんなに手間がかからないものしかできないよ?」



なるべく野菜でボリュームを出そうというのが、フミの料理方針だった。
かといって、野菜も安くはない。安く美味しいものを作るのは大変だった。


彼女がよく買う食材は、キャベツ、白菜、もやしだった。
これに豆腐や鶏のささみなどを合わせて食べ応えのあるものにしていた。


弁当や出来合いの惣菜などで済ませることもできるのだが、
独り暮らしを始めた当初から、なるべく自炊じすいしようと考えていた。


日々、メニューを考え、料理するのは大変だったが、
自炊だと栄養バランスを調整できる。


体重やボディライン、肌荒れに敏感びんかんな彼女にとって、
自炊することは大切なことだった。




「ソウタくんはどんな料理したことあるの?」



「焼きそばとか?焼き飯とかぐらいだよ」


簡単ないため物ならできるようだった。
フミは頭の色んなレシピをめくって、合うものを探した。



「“甘辛味噌炒め”なんてどうかな?」



「へ~それ美味しそうだね!」


念のため、自宅の冷蔵庫に残っているものや、
調味料のことも聞いてみた。

すると、味噌や豆板醤とうばんじゃんはあるらしい。
野菜はもやしと少し人参が残っているようだ。



「じゃ、必要なのはキャベツと肉だね・・・
豚か鶏か・・・豪華ごうかに牛にする?」


声をはずませるフミに、ソウタは肩をすくめてみせた。


「牛は高いんでしょ?鶏にしようかな」


「男の子だと、もっと食べるよね・・・」


フミは肉だと100gもあれば充分だった。

演劇部では激しく身体を動かすことも多いはずだった。
そうした男子の食事量までは分からなかった。



「う~ん、これだと少ないかな・・・」



ソウタは精肉コーナーに佇んで、どれにしようか迷った。
ひと口に鶏肉といっても種類とグラムは様々だった。



「ステーキだと200g弱だよ?」



「へぇ~分かった。それって分かりやすいよね」




「モモ肉とムネ肉ってどっちが美味しい?」




「私はダイエットを心掛けてるから、
いつも脂身の少ないムネ肉にしてるよ」



「そっか~ボクはダイエットなんて気にしないから、
モモ肉にしようかなっと・・・」


そう言って、ソウタはモモ肉のパック200gほどのものを選んだ。
たくさん食べられる男子がちょっぴりうらやましかった。



「男子はいいよね~女子は1食1食がカロリーとの闘いなんだよ」



「君はダイエットの必要なんかないと思うけど・・・
女子はそういうのって大変なんだね・・・」



「ふふっ・・・」





男子と料理の話をするなんて新鮮なことだった。




(・・・恋人同士ってこんな会話するのかな・・・)


めずらしそうにあちこち見回しているソウタを横から見ながら、
フミはちょっとうれしい気分だった。




・・・ピッピッピッ・・・


ソウタがレジに並ぶとき、フミは少し恥ずかしくなって、
少し離れたところで待っていることにした。


食材を選ぶのに、まだ時間がかかるだろうと思っていたのに、
あっという間に終わってしまった。




支払いを待っているソウタを何気なく見てしまう。

その顔はずいぶん大人に思えた。
普段見る顔とは違った一面を知る思いだった。



それが他人行儀にも思えてきた。


クラスメイトで仲のいい男子だが、所詮しょせんは他人・・・。
目の前の光景全てがうつろに思えてくる。







支払いを済ませた彼が作荷さっか台で袋めを始めた。



すぐ終わると思って、フミは近寄ってそれを眺めた。



・・・ザッ・・・ザザ・・・ぎゅ・・・


自分とは違う詰め方だった。
慣れていない所為せいか、どことなくぎこちない。



(あ・・・肉の上にキャベツ・・・)


フミはそのことを何も言わなかった。
その無頓着むとんちゃくさが微笑ほほえましく思えた。






「はぁー終わったぁ~」



気の抜けた無邪気むじゃきな言葉を受けて、
ふたりはスーパーを出た。







――空がかげり始めていた。





買い物を始める前のわくわく感はもうどこにも無かった。
歩く一歩一歩が楽しい時間のカウントダウンのようだった。



「ふたりで買い物すると、あっという間だね・・・」


フミは少しうつむいたままつぶやいた。
言いながら、恥ずかしいことを言っていることに気付く。



「楽しかったよ・・・ありがとう・・・」


「うぅん、こちらこそありがとう」


買い物袋に目がいく。
今夜はどんなふうに料理するのだろう。


ぎこちなく食材をカットして・・・

調味料の分量を間違えて・・・

炒めすぎてげをつくって・・・


そうした勝手なイメージが浮かんでくる。






すぐに、分かれ道にやってきた。










・・・そこで、ソウタは足を止めた。
それに気付いてフミは彼を見る。













「君のこと気になってるんだ・・・」





「・・・・・・・・・」






何気ない言葉だったが、
フミの心にはっきりときざまれた。




(・・・ソウタくんが・・・)



ほのかな興味をもってくれているとは思っていた。
それはさわやか系男子のたしなみかもしれなかった。



高●生になって知り合った男子。
新鮮な関係ができてよかったと思っていた。


そして、演劇部で活動する彼を知ったとき、その意外な一面にせられた。
ステージの上の彼は生き生きとしていた。


いつしか話の分かる男子から、魅力的な男子に変わっていた。
彼女のなかで彼の存在は少しずつ大きくなっていった。



そんな彼から告白とも取れる言葉を聞く。


ほんの一瞬の出来事だったが、
フミにはたまらない瞬間だった。







(・・・応じる資格なんて無いでしょ・・・)



不意に、ゾッとするような声が
頭の奥から聞こえた気がした。



目の前には微笑むソウタがいる。


彼だけを見ているはずなのに、
過去の出来事が一瞬のうちに通り過ぎていく。



ここ最近のフミの移り変わり。



覚えておこうとしなかったのに、
見たくもない自分自身のことが浮かんだ。




・・・続いて、あの日のことがありありと思い出される。


ローターを仕込まれて、戸惑いながらも快感に震えていた。
それは決して知ってはいけない禁断のものだった。




(・・・絶対に知られてはいけない・・・)



そう堅く思って、あのときは気丈きじょうに何でもないように振る舞っていた。


顔には出さなくとも、その厚顔の下では、
ローターのうごめきに身体をかすかによじらせ、快感に耐えていた。



身体は熱く火照り、頭はしびれてきて、
まともな思考ができなくなりそうだった。

彼女の身体の内側と外側では温度が
全く別次元のものになってしまっていた。




(・・・学校で密かにローターの快感に震えて・・・)



(・・・彼の告白に応じる資格がある?・・・)



(・・・ソウタくんに嫌われたくない・・・)



残酷な相克そうこくに思考が乱れるなかで、
フミはそれを一心に願った。






「・・・うれしい・・・これから仲良くなれたらいいね・・・」



フミにできることは、現状を受け入れることだった。
ソウタはにっこりとうなづくと、家路にいた。












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






――その夜








「・・・・・・・・・」






・・・ちゅ・・・くちゅ・・・れろっ・・・






フミはサトシにクンニされていた・・・。


陰部に確かな快感を覚えながら、
それをあえて意識しないようにしていた。





「き、今日・・・告白されたのにっ!」



もう何度サトシに言っただろう。
それでも彼はお構いナシだった。




(彼氏ができれば、サトシは手控えるようになるはず・・・)



そんな考えがフミの心に湧いていた。


ソウタとの関係はまだそこまで進んではいない。
それを無理に飛躍させていた。




「・・・それはよかったな・・・フミはモテるんだな・・・」



サトシの反応は期待を裏切るものだった。
まるで、妹をめる兄のような温度だった。

彼はソウタの告白にあせったり、怒ったりするだろうと思っていた。



「く、くやしくないんですか?」



「え?・・・別になぁ・・・」



フミは彼をあおろうとした。
その言葉を受けても彼の反応は鈍いものだった。



「彼は演劇部で役者もやってるんだろ?
他の女の子にも人気があるだろうな・・・」



それは男の感覚かもしれなかった。


サトシに言われて、今さらのようにソウタがフミと接していない
時間のほうが多いことを思い知らされる。



(ソウタくんが他の女に・・・そんなのあるワケない・・・)



演劇部には女子も多い。つい最近知ったフミとは違って、
彼らは密度の濃い時間を過しているはずだった。


劇を準備し、練習を重ねる。


演技する姿は、素人のフミが見ても目を奪われた。
部内の女子たちはそれをいつも間近で見ている。





(・・・・・・・・・)



頭にもやもやした暗いものが広がっていく。




「・・・これから先、誰がお前と一緒にいるか誰も分からねぇよ・・・」



「・・・っ!・・・何言ってるんですかっ!」



フミは面白くなかった。
ソウタとの関係がサトシにダメージを与えるはずだった。


それが裏目に出てしまった。

サトシに指摘されるまで、ソウタの交友関係など考えたことがなかった。
あの演劇部で何も無いと言えるだろうか。


足元がそわそわとして覚束おぼつかなくなる感覚が湧いてきた。


さらには、あのキザな言葉だった・・・。
これから先、誰が自分と一緒にいるのだろうか・・・。


聞いた瞬間は空虚に感じていた。





それは不思議と消えなかった。
少しずつ重みをもっていった・・・。









(つづく)
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