ホテルエデン

虹乃ノラン

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第一章

美しい変化(17)

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 どのくらい眠ってしまったのか、ケルビムが肩を揺すって、私を起こした。 
「あっ、ごめん、私いつの間にか寝てしまったのね……」
「はい、あまりにおふたりとも気持ちよさそうに眠っていらっしゃったので、しばらくそのままにしておきました……」
 私とアケルの上に、薄いピンクのガーゼケットが掛けられていた。肌触りがとてもいい。アケルはまだ眠そうに目を擦りながら、ゴニョゴニョとひとりごとを言っている。
 ようやく目が覚めてきた私は、周りの情景に驚いた。
 植物の枝に付いていた、蕾という蕾が花を咲かせ、食堂を彩っていたからだった。自分たちが眠っている間に咲いたのだろう。今や咲き誇った花々が、食堂を巨大なアーチのように鮮やかに覆っている。アケルはこの食堂に入ってきたときと同じように、目も鼻も口もまん丸く開けて天井を眺めていた。私も天井を見上げる。
 あまりに美しすぎる花々が、まるで造り物のように木漏れ日に照らし出されて赤や黄や青の色を成し、降り注ぐ光の筋を跳ね返して煌かせ、さらに幻想的な世界を作り出していた。私たちはその光景にまるで溶かされるように魅入っていた。
 時間を本当に忘れそうになる。惚けるっていうのはこういうことね……。
「そろそろお目覚めかと思い、お茶を淹れておきました」
 ガラスポットの中に、美しい青いお茶が淹れられていた。マロ―ブルーの花だ。紫とも青とも見紛う、美しい花。
「……そう言えば、アケルをオーナーさんのところに連れていかなきゃいけないんだっけ?」
「左様でございます。オーナー様はアケル様を首をながーくしてお待ちでございます」
 ケルビムがそう言うとアケルが反応した。
「おーなーさんはキリンみたいなの?」
 今度は私がアケルの言葉に反応する。
「アケルはオーナーさんに会ったことがないの?」
「うん!」
 アケルは大きな声で答える。私が疑問に思ってケルビムに視線をやると彼が言った。
「なにぶん、随分と昔のことですからね。アケル様が覚えていらっしゃらないのも無理はありません」
 まあ、こんなすごい建物をひとりでデザインから施工までするような建築家なら忙しいのもわかるけど、ずっとほっておくなんて親として失格なのでは? とも思ったが、他所の家のことだし、色々と事情があるんだろう……。
「で、オーナーさんは今どこにいるの?」
「オーナー様は当ホテル本館にいらっしゃいます」
「じゃあ、さっそく本館に行こうか」
 私がそう言うと、ケルビムはそれはできないと言い出した。
「実はこのホテルエデンの本館へは南館からしか行けないのでございます」
「そうなの? というか、今ここは何館なの?」
 ケルビムは私の問いに丁寧に説明し始めた。
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