ホテルエデン

虹乃ノラン

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第二章

大切な想い出(3)

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 ベッドの横に置かれたサイドテーブルの上で蝋燭の灯りが揺らめく。
 アケルの寝顔を見ながら、このホテルエデンに迷い込んでからの今までのことを考えていた。
 自分の理解が追いつかないほどの不思議な体験に、無邪気で明るいアケル、それになにを考えているのかまったくわからないけど、少し間抜けで憎めないケルビム。
 最初はここのすべてに嫌悪感を持っていたけれど、楓を失い、つらいだけだったあの現実よりかはいくらか気持ちが楽だと思える自分に気がついた。
「ここでアケルやケルビムと毎日不思議な生活を送るのも悪くないなぁ」
 私はアケルの頬をそっと優しく撫ぜながらひとりつぶやいていた。
 優しい蝋燭の灯りが燈る中、ゆらゆらと影が揺らめくのを眺めながら私は眠りに落ちていた。
 コンコン。
 部屋をノックする音とともにケルビムが部屋に入ってきた。
「おはようございます! 北館からは外の景色や様子はわかりませんが、本日も快晴でしょう」
「おはよう、ケルビム。あなたっていつでも元気なのね」
 私はまだ起きてない頭のままケルビムに言った。
 横ではアケルが口を開けたまま寝息を立てている。
「さぁさ! 食堂へおいでください。わたくし、腕によりをかけましておふたりのためにサンドイッチとスープを作りましたので」
 私はまだ起きられずにベッドの中でモゾモゾしていた。
 ケルビムが部屋を出るときボソッとつぶやいた。
「おふたりのお口に合えばよろしいのですが……」
 そう言ってドアを閉めて出ていった。
 今の台詞、どこかで聞いたなぁと、私はベッドの中でいまだまどろんでいる。
 お口に合えばよろしい…………。
 私は目を見開きベッドから飛び起きた。
 隣で寝ていたアケルもびっくりして飛び起きる。
「アケル! 大変! またケルビムに料理食べられちゃうよ!」
 急いで部屋を飛び出るとアケルも「おねえちゃん待ってー!」と走ってきた。
 私はアケルの手を握り階段を駆け降りていった。
「おや? 残念。目が覚めてしまったのですか?」
 二階の踊り場でケルビムを抜き、「残念でした!」と笑顔でアケルと一気に一階まで駆け降りた。
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