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第一章
動かない猫(3)
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「はーい、みんな聞いて。来週はグループ毎に分かれて調理実習をします。これからグループ分けのプリントを配るので確認してね」『家庭』の授業が再開される。
グループ分けのプリントが配られる。前席の生徒から受け取り、後ろへ回すと、僕は自分の名前を探した。伊野千斗、伊野千斗……あった! ジョージも一緒だ。Dグループは他に向井マルコ。男子はこの三人。肝心の女子は……湖山紅葉と北川ミチルだった。
マルコは、お父さんが日本人でお母さんがブラジル人のハーフ。ポッチャリ体型で大柄、食べることが大好きで運動が大嫌い。半分ラテンの血が流れてるなんて、本当なのか疑いたくなるほどおっとりしてる。でもジョージいわく、マルコのチリチリ頭は間違いなくラテンの血をクレイジーに継承していると言って一目置いている。
紅葉はスポーツ万能で陸上部の部長。『コスモ小の流れ星』なんて異名がついている。勝気な紅葉はプライドが高くてとっつきにくい。しかも気が短くてすぐに食ってかかる。
北川ミチルとはあまり話したことがない。というのも、一人でいることが多くて、誰かと話してるのをまず見ないからだ。とにかく本が好きで休み時間はずっと本を読んでいる。放課後は図書室に入り浸っているともっぱらの噂だ。一度、貸出履歴をこっそり調べてみたことがあるんだけど、ゲーテとかニーチェとかさっぱりわからない世界だった。
勝手なイメージだけど、ミチルは不思議系女子で間違いない。で、何を言いたいかっていうと、Dグループには料理が得意な生徒が一人もいない。本当に残念だ。
「みんな、聞いて!」先生が手を叩いて注目を促した。「一グループの予算は一五〇〇円です。これで人数分のおかずを二品作ってもらいます。いいですか? 二品です」
先生が口の横に手を当てて声を張り上げるけれど、みんなあまり聞いていない。
「来週までにグループで話し合って、作るメニューと必要な材料を調べておくこと!」
そのとき、タイミングよく終業チャイムが鳴った。
帰り支度をすませたみんながバタバタと教室を出ていくと、ジョージが近づいてきた。
「まったく、クレイジーなグループ分けだよな?」
「頼みの女子メンバーがね……メニューどうしようか」僕は苦笑いで答えた。
「そうだなあ、サラダにでもするか? 二品だろ? ハムサラダとチクワサラダ?」
そのふたつが並ぶのを想像してみる。他のグループがあれこれ頑張ってる間に、僕らの前には、ハムを散らしたサラダとチクワを散らしたサラダがあっという間に完成?
「それ笑えないよ……」
「だよなあ」
僕たちが苦笑いしていると、おっとりマルコが、嬉しそうにやってくる。
「ねえ、ボクも一緒だったよ! ボクはね、ビーフシチューとマカロニグラタンが食べたいんだ! どうかな?」
黙って微笑む僕たちを見て、マルコが不思議そうにした。
「アレ? 二人とも嫌いなの? シチューとグラタン」
「ううん、大好きだよ。うちでも中々作ってくれない、手の込んだメニューだしね」
「でもな、マルコ。このメンバーじゃそいつはノーベル賞を取るより難しそうだぜ!」
「ええ? そんなあ」
がっくりと肩を落とすマルコを、ジョージが励ました。
「ドンマイ! 俺らはサラダ二皿にして、山羊みたいにムシャムシャ食べようぜ!」
「何サラダ?」
「ハムとチクワだ!」
夢も希望もないジョージの言葉に、マルコは今にも泣きだしそうだ。
グループ分けのプリントが配られる。前席の生徒から受け取り、後ろへ回すと、僕は自分の名前を探した。伊野千斗、伊野千斗……あった! ジョージも一緒だ。Dグループは他に向井マルコ。男子はこの三人。肝心の女子は……湖山紅葉と北川ミチルだった。
マルコは、お父さんが日本人でお母さんがブラジル人のハーフ。ポッチャリ体型で大柄、食べることが大好きで運動が大嫌い。半分ラテンの血が流れてるなんて、本当なのか疑いたくなるほどおっとりしてる。でもジョージいわく、マルコのチリチリ頭は間違いなくラテンの血をクレイジーに継承していると言って一目置いている。
紅葉はスポーツ万能で陸上部の部長。『コスモ小の流れ星』なんて異名がついている。勝気な紅葉はプライドが高くてとっつきにくい。しかも気が短くてすぐに食ってかかる。
北川ミチルとはあまり話したことがない。というのも、一人でいることが多くて、誰かと話してるのをまず見ないからだ。とにかく本が好きで休み時間はずっと本を読んでいる。放課後は図書室に入り浸っているともっぱらの噂だ。一度、貸出履歴をこっそり調べてみたことがあるんだけど、ゲーテとかニーチェとかさっぱりわからない世界だった。
勝手なイメージだけど、ミチルは不思議系女子で間違いない。で、何を言いたいかっていうと、Dグループには料理が得意な生徒が一人もいない。本当に残念だ。
「みんな、聞いて!」先生が手を叩いて注目を促した。「一グループの予算は一五〇〇円です。これで人数分のおかずを二品作ってもらいます。いいですか? 二品です」
先生が口の横に手を当てて声を張り上げるけれど、みんなあまり聞いていない。
「来週までにグループで話し合って、作るメニューと必要な材料を調べておくこと!」
そのとき、タイミングよく終業チャイムが鳴った。
帰り支度をすませたみんながバタバタと教室を出ていくと、ジョージが近づいてきた。
「まったく、クレイジーなグループ分けだよな?」
「頼みの女子メンバーがね……メニューどうしようか」僕は苦笑いで答えた。
「そうだなあ、サラダにでもするか? 二品だろ? ハムサラダとチクワサラダ?」
そのふたつが並ぶのを想像してみる。他のグループがあれこれ頑張ってる間に、僕らの前には、ハムを散らしたサラダとチクワを散らしたサラダがあっという間に完成?
「それ笑えないよ……」
「だよなあ」
僕たちが苦笑いしていると、おっとりマルコが、嬉しそうにやってくる。
「ねえ、ボクも一緒だったよ! ボクはね、ビーフシチューとマカロニグラタンが食べたいんだ! どうかな?」
黙って微笑む僕たちを見て、マルコが不思議そうにした。
「アレ? 二人とも嫌いなの? シチューとグラタン」
「ううん、大好きだよ。うちでも中々作ってくれない、手の込んだメニューだしね」
「でもな、マルコ。このメンバーじゃそいつはノーベル賞を取るより難しそうだぜ!」
「ええ? そんなあ」
がっくりと肩を落とすマルコを、ジョージが励ました。
「ドンマイ! 俺らはサラダ二皿にして、山羊みたいにムシャムシャ食べようぜ!」
「何サラダ?」
「ハムとチクワだ!」
夢も希望もないジョージの言葉に、マルコは今にも泣きだしそうだ。
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