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第四章
黒野時計堂(4)
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太い柱に埋め込まれた柱時計にはどこか違和感があった。――よく見ると、その時計には時間を示す短針も、分を示す長針もなく、振り子だけがユラユラと揺れている。
「針がない……」
僕がそうつぶやくと、お爺さんはニッコリと笑った。
「シロ、戻りなさい」
おじいさんが優しく命令すると、マルコの膝の上でじゃれていた白猫がピョンと飛びおりる。
「あ! マシュマロ!」
白猫が、柱時計の文字盤に向かってジャンプすると、次の瞬間スルスルと中へ吸い込まれていった。
そして、文字盤の《5》の位置に、さっきまでなかった短針が現れる。
「え! なに? 何が起こったの!?」
マルコがかたまる。
「マシュマロか、いい名前だね。ありがとう。君たちがマシュマロと呼んでくれているあの猫は、じつはこの柱時計の短針なんだ。シロには双子の兄弟がいてね。もう一匹はスラッとした黒猫なんだが、私の不注意で逃げられてしまったんだよ」
長針のない短針だけの柱時計は、なんだかすごく違和感があって、さびしそうだった。
「それが、僕たちの時間の話と、なんの関係があるんですか?」
トントン――とお爺さんが柱時計を指で叩くと、再び文字盤から白猫が飛び出し、マルコの膝の上に飛び乗った。あまりの不思議な出来事に、みんな目を丸くしたままだ。
「黒猫の方はとてもいたずら好きでね。他人の時間を分単位で抜き去ってしまうんだよ」
「じゃあ、今朝や公園での出来事って!?」
「おそらく、クロの仕業だね」
やっぱりそうか。暖かさのせいでぼんやりして、時間が経つのを忘れてしまったとばかり思っていたけど、やっぱり陽気のせいでも、疲れていたからでもなかったんだ。
「時間を抜き取られる前に、君の近くに黒い猫がいなかったかい?」
そうだ! たしかに黒い猫がいた!
町のあちこちでぼんやりして動かない大人たちがいるのを眺めながら、学校に向かって歩いていたら、道路の真ん中にしゃがみ込んで動かない猫がいたんだ。それに近づいていったところまでは覚えている。
なのにジョージに声をかけられて気づいたら、三〇分も時間が経っていて、ジョージに変な顔をされたんだ!
「針がない……」
僕がそうつぶやくと、お爺さんはニッコリと笑った。
「シロ、戻りなさい」
おじいさんが優しく命令すると、マルコの膝の上でじゃれていた白猫がピョンと飛びおりる。
「あ! マシュマロ!」
白猫が、柱時計の文字盤に向かってジャンプすると、次の瞬間スルスルと中へ吸い込まれていった。
そして、文字盤の《5》の位置に、さっきまでなかった短針が現れる。
「え! なに? 何が起こったの!?」
マルコがかたまる。
「マシュマロか、いい名前だね。ありがとう。君たちがマシュマロと呼んでくれているあの猫は、じつはこの柱時計の短針なんだ。シロには双子の兄弟がいてね。もう一匹はスラッとした黒猫なんだが、私の不注意で逃げられてしまったんだよ」
長針のない短針だけの柱時計は、なんだかすごく違和感があって、さびしそうだった。
「それが、僕たちの時間の話と、なんの関係があるんですか?」
トントン――とお爺さんが柱時計を指で叩くと、再び文字盤から白猫が飛び出し、マルコの膝の上に飛び乗った。あまりの不思議な出来事に、みんな目を丸くしたままだ。
「黒猫の方はとてもいたずら好きでね。他人の時間を分単位で抜き去ってしまうんだよ」
「じゃあ、今朝や公園での出来事って!?」
「おそらく、クロの仕業だね」
やっぱりそうか。暖かさのせいでぼんやりして、時間が経つのを忘れてしまったとばかり思っていたけど、やっぱり陽気のせいでも、疲れていたからでもなかったんだ。
「時間を抜き取られる前に、君の近くに黒い猫がいなかったかい?」
そうだ! たしかに黒い猫がいた!
町のあちこちでぼんやりして動かない大人たちがいるのを眺めながら、学校に向かって歩いていたら、道路の真ん中にしゃがみ込んで動かない猫がいたんだ。それに近づいていったところまでは覚えている。
なのにジョージに声をかけられて気づいたら、三〇分も時間が経っていて、ジョージに変な顔をされたんだ!
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