34 / 79
第六章
スカーフェイスを追って(2)
しおりを挟む
『千斗! 俺だ! 近くにいるから、せめて俺が行くまで待ってろ!』
ジョージの声が腕時計から聞こえる。すると、すぐにサッカーグラウンドのフェンスの隙間からジョージがこちらにすべり込んでくるのが見えた。
「ジョージ!」
グラウンドからスライディングしたジョージが立ち上がり、僕を見つけかけよってくる。
「クレイジー1号参上‼ 千斗! スカーフェイスは?」
僕は走りながら目標を指さした。
「あっちだよ! ジョージ、左右に別れてはさみうちにしよう!」
「ラジャー!」
ジョージは肯き、同時に『1号、2号に合流! スカーフェイスを追います!』と通信すると、僕たちは花見客をはさんで左右に大きく別れた。
「目標まで五〇メートル!」
というところで、突然、スカーフェイスに時間をかすめ取られたように見えた男の人が立ち上がったと思うと、足元にあった黒い物体を持ち上げ、肩からぶら下げたんだ。
僕は目を疑った。急に足の力が抜け落ちると、僕はその場に立ち尽くす。 視線のすぐ先で、やはり同じように立ち尽くすジョージの姿が見えた。
腕時計からは、みんなの声が聞こえてくる。
『千斗⁉ どうなったの?』
『千斗君? ジョージ君? どうしたの⁉』
紅葉もミチルも声を震わせ、とても心配そうに僕らの返事を待った。
『こちらマルコ! 千斗? 応答して! ジョージ? どうしたの⁉』
緊張の糸がほどけて、僕は呼吸を整えるので精一杯だった……。
緊迫した空気を、ジョージの声が打ち消す。
「えー……こちらクレイジー1号。先ほどの目撃情報は千斗の見間違いです。どうぞ?」
すぐそこに立っているジョージの声が、ほんの少しだけ遅れて僕の左手からも響いてくる。僕が見た黒い物体はスカーフェイスじゃなくて、ただのトートバッグだったんだ。腕時計からはみんなが大爆笑する声が聞こえてくる。
恥ずかしさのあまり、とても通信する気分になれない。できるなら、なにも言わずに今すぐ家に帰って、布団に包まって月曜日まで一歩も家から出たくない気分だ。
「千斗? おまえどうしてトートバッグと黒猫を見間違えちゃったんだ?」
ジョージが笑いを堪えている。
「あの……ごめん、なさい」
小さな声でつぶやくので精一杯だった。相変わらず腕時計から響く笑い声に、気が遠くなるような気持ちだ。
「まあ、そんなこともあるさ! ドンマイ!」
結局、その後も公園内を探したけど、なんの手がかりも見つからず、僕たちは一度、グラウンドの時計台前で合流することにした。
ニヤニヤするみんなの前で、僕がトートバッグとの見間違いの件を説明すると、マシュマロが僕を気づかった。
「気にしないで! 遠くからじゃなかなか見分けるのは難しいよ! それにトートバッグとスカーフェイスって、なんだか語呂も似てるしね!」
似てないよ……。
マシュマロの言葉に、みんなが一斉に吹き出しそうになる。
ありがとう、マシュマロ。でもぜんぜん語呂は似てないし、そういう優しさを、僕たちの世界では、たまにイジメと呼ぶんだよ。
僕は顔を真っ赤にして黙ったままだった。
「なにも事件も起こってないみたいだし、ライオン公園にはもういないかもね。とりあえず公園を出て、獅子丘町をざっくり探してみようか?」
紅葉が切り出す。それに賛成して、公園の出入口に向かおうとすると、どこからか救急車のサイレンが聞こえてきた。
「サイレンだぜ⁉」
その音は、ライオン公園付近で鳴り止んだ。
「近いわね!」
紅葉が走り出し、僕たちは後に続いた。
ジョージの声が腕時計から聞こえる。すると、すぐにサッカーグラウンドのフェンスの隙間からジョージがこちらにすべり込んでくるのが見えた。
「ジョージ!」
グラウンドからスライディングしたジョージが立ち上がり、僕を見つけかけよってくる。
「クレイジー1号参上‼ 千斗! スカーフェイスは?」
僕は走りながら目標を指さした。
「あっちだよ! ジョージ、左右に別れてはさみうちにしよう!」
「ラジャー!」
ジョージは肯き、同時に『1号、2号に合流! スカーフェイスを追います!』と通信すると、僕たちは花見客をはさんで左右に大きく別れた。
「目標まで五〇メートル!」
というところで、突然、スカーフェイスに時間をかすめ取られたように見えた男の人が立ち上がったと思うと、足元にあった黒い物体を持ち上げ、肩からぶら下げたんだ。
僕は目を疑った。急に足の力が抜け落ちると、僕はその場に立ち尽くす。 視線のすぐ先で、やはり同じように立ち尽くすジョージの姿が見えた。
腕時計からは、みんなの声が聞こえてくる。
『千斗⁉ どうなったの?』
『千斗君? ジョージ君? どうしたの⁉』
紅葉もミチルも声を震わせ、とても心配そうに僕らの返事を待った。
『こちらマルコ! 千斗? 応答して! ジョージ? どうしたの⁉』
緊張の糸がほどけて、僕は呼吸を整えるので精一杯だった……。
緊迫した空気を、ジョージの声が打ち消す。
「えー……こちらクレイジー1号。先ほどの目撃情報は千斗の見間違いです。どうぞ?」
すぐそこに立っているジョージの声が、ほんの少しだけ遅れて僕の左手からも響いてくる。僕が見た黒い物体はスカーフェイスじゃなくて、ただのトートバッグだったんだ。腕時計からはみんなが大爆笑する声が聞こえてくる。
恥ずかしさのあまり、とても通信する気分になれない。できるなら、なにも言わずに今すぐ家に帰って、布団に包まって月曜日まで一歩も家から出たくない気分だ。
「千斗? おまえどうしてトートバッグと黒猫を見間違えちゃったんだ?」
ジョージが笑いを堪えている。
「あの……ごめん、なさい」
小さな声でつぶやくので精一杯だった。相変わらず腕時計から響く笑い声に、気が遠くなるような気持ちだ。
「まあ、そんなこともあるさ! ドンマイ!」
結局、その後も公園内を探したけど、なんの手がかりも見つからず、僕たちは一度、グラウンドの時計台前で合流することにした。
ニヤニヤするみんなの前で、僕がトートバッグとの見間違いの件を説明すると、マシュマロが僕を気づかった。
「気にしないで! 遠くからじゃなかなか見分けるのは難しいよ! それにトートバッグとスカーフェイスって、なんだか語呂も似てるしね!」
似てないよ……。
マシュマロの言葉に、みんなが一斉に吹き出しそうになる。
ありがとう、マシュマロ。でもぜんぜん語呂は似てないし、そういう優しさを、僕たちの世界では、たまにイジメと呼ぶんだよ。
僕は顔を真っ赤にして黙ったままだった。
「なにも事件も起こってないみたいだし、ライオン公園にはもういないかもね。とりあえず公園を出て、獅子丘町をざっくり探してみようか?」
紅葉が切り出す。それに賛成して、公園の出入口に向かおうとすると、どこからか救急車のサイレンが聞こえてきた。
「サイレンだぜ⁉」
その音は、ライオン公園付近で鳴り止んだ。
「近いわね!」
紅葉が走り出し、僕たちは後に続いた。
応援ありがとうございます!
40
お気に入りに追加
22
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる