時間泥棒

虹乃ノラン

文字の大きさ
上 下
44 / 79
第七章

天川の行方不明事件(4)

しおりを挟む
 カーテンを開けて、部屋いっぱいに朝の光を取り込むと、目が一気にさめていく。風も穏やかな暖かい一日になりそうな青空を見上げて、僕は「よし!」と気合いを入れた。
 腕時計は、午前九時を示している。
 僕はみんなより少し早く家を出ようとしていた。キッチンへいくと、お母さんの姿はない。たぶん、町内会の掃除に出かけているんだろう。
 日曜日のお父さんは、いつもお昼になるまで起きてこない。僕は一人で、トーストを焼いて口の中にほうりこむと、オレンジジュースで流し込んだ。
 玄関でスニーカーをはいていると、玄関の扉が開いてお母さんが帰ってくる。
「あら? 千斗、めずらしいわね。日曜日のこんな時間に出かけるなんて」
「うん、ちょっと学校に行ってくるよ」
「あ! そうそう! 千斗! コスモ小の四年生の男の子が、昨日の夕方から行方不明になっちゃたんだって!」
 町内会の集まりでなにか聞いてきたのか、お母さんが急に思い出したように興奮して話し始めた。
「行方不明⁉ それって、誘拐とかなの? それとも家出?」
「それがね、あやまって天川に落ちたんじゃないかって話なの。川岸に、その男の子が乗ってた自転車が倒れてたんだって!」
 それを聞いて、僕はスッと血の気が引いた。
「お母さん? その自転車が倒れてた場所って、もしかして下り坂?」
 ライオン公園の下り坂の事故が、僕の頭から離れない。
 お母さんが、不思議そうに僕を見る。
「さあ? お母さんも聞いた話だからわからないけど、でも男の子の自転車が見つかったのは、蠍通り町の天川だって聞いたわ……」
 天川! 蠍通り町は天秤池町の隣!
 もしも、その男の子が行方不明になった場所が、あのライオン公園の脇道からつながる延長線上にあるなら、この事件もスカーフェイスが関わってる可能性が高い! 
 僕は、居ても立ってもいられなくなって、外へ飛び出して自転車にまたがる。あっという間にスピードに乗る僕に向かって、お母さんが叫んだ。
「千斗ー! 川には近寄っちゃダメよー!」
 夢中で自転車を漕いで、コスモ小を経由! そしてライオン公園に向かう。
 急がなきゃ。獅子丘町に入ると、自転車に乗った紅葉が、右手前から坂をおりてきて僕とすれ違った。まだ時間には少し早いけど、紅葉も急いで家を飛び出してきたのがすぐわかった。誰かに聞いたのか、すれ違いざまに大きな声で僕に叫んだ。
「千斗! 昨日、コスモ小の男の子が、天川で行方不明になったって‼」
 ペダルを漕ぐスピードをこれっぽっちも落とさずに、ショートカットの髪を風になびかせて、紅葉がすごい勢いで、学校に向かって離れていった。
「うん! 僕も聞いたよ! ライオン公園から昨日のルートをたどって、現場に着けるか調べてくるよ!」
「わかった! またあとで!」
 紅葉と別れると、僕はライオン公園まで、上り坂を一気に自転車でかけ上がる。ライオン公園の脇道から乙女町に入り、《北川理髪店》の前へたどりつく。するとちょうど店からミチルが出てきた。
 腕時計を確認すると、時刻は九時三〇分。
「千斗君! さっきお父さんが、天川で小学生が消えたって!」
 ミチルもどうやら行方不明の男の子の話を聞いたみたいで、かなり慌てた顔をしている。僕は足をついて、呼吸を整えて言った。
「……うん! 僕も聞いた! それに、僕たちが花園で聞いたサイレンも、ひょっとしたらスカーフェイスの仕業かもしれないんだ。僕は今からそれを調べにいくよ!」
「わかった! お願いね」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

鍋は鳥にかぎる

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:0

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:804

水しか作れない無能と追放された少年は、砂漠の国で開拓はじめました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:17,289pt お気に入り:1,012

妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,960pt お気に入り:36

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:830pt お気に入り:6,440

あの人によろしく

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:34

かーくんとゆーちゃん

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:398pt お気に入り:4

処理中です...