ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ヒスの森ダンジョン

第422話 ヒスの森 その4

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 二十分程歩いて到着した安全地帯、ここはリズモーニで入った事のあるダンジョンと同じ雰囲気だった。
 こうしてみると、やっぱりダンジョンって一元管理されているような気がしちゃうよね。神様の存在は確定した訳だし、もしかしたらワンチャン、本当にダンジョンの神様がいるかもだよね。

「さて、野営の準備は久しぶりだな」

 タニアさん達がテントの道具というか、大きな天幕を取り出しているところでチアキさんが腕まくりをしているんだけど、チアキさんがテントを建てるのかな? 私がお父さんとの旅で使っていたテントは、お父さんのマジックバッグに入っている。大きなお鍋とかはミドウ村で購入したけど、愛用の道具はお父さんの鞄に入ったままなのだ。
 だけど今回のダンジョンに行くのにテントは不要と言われたので、どんな風に準備をするのかワクワクしていたんだけど……。

「す、すっげぇぇぇぇ!」

 隣でキラキラと瞳を輝かせて飛び跳ねているベル君ですが、私も同じ気持ちです。うんうん、チートをぶちかましていた勇者が一般的な冒険者の筈がなかったですよね。
 厨二な呪文は無かったんだけど、五本の指を開いて掌を上に向けたチアキさん、そのまま天につき上げれば「おらに元気をくれ~~~!」って言いそうな感じでしたが、お腹の前で構えたままでした。

 魔力をネリネリしているのは見えていたんだけど、そうこうしているうちに、ズモモと目の前の何もなかった地面に、土で出来た机のようなものが八個、等間隔に現れ、更に机を一台ずつにするよう壁がせり上がってきた。壁が出来てからは中が見えなかったんだけど、完成したのは……家?

「久しぶりだったが覚えているもんだな。ベッドは同じ大きさにしているからベル坊とヴィオには大きいかもしれんが、まあいいだろう。好きな場所を選んでくれ」

 おぉ、やっぱり家じゃないか。成程、これが作れるからあんな何でもない場所で野営をしようと言えるんですね。無茶苦茶だな。
 チアキさんの言葉に走って行ったベル君の興奮する声が聞こえてくるけど、私もかなりワクワクですよ。屋根はないけど、そこはタニアさん達が用意していた天幕を張るみたいだね。幕を張ったら暗くなるからと、先に見て回ることを勧められたので中に入ります。
 机だと思ったのはベッドで、ただの土で作られたはずのそれには短い草が芝生のように生えているからか、非常に柔らかい。

「チアキさん、これって土魔法でベッドを作って、木魔法で草を生やしたんですか?」
「おおそうだぞ。アルプスの山で生活していた少女に憧れてな、実際に藁で寝た時はチクチクして痛かったから寝れなかったが、色々考えてこれに落ち着いたんだ。この上にマントを敷くだけで十分寝れるぞ」

 空中ブランコは何処から吊り下げていますか? のあの有名アニメですね? 
 お部屋はベッドだけがある小さなものだけど、ベッドが隠れる程度に壁があるからパーソナルスペースも確保されている。これは超絶快適空間ではないですか?
 各自が好きな場所を選んで荷物を置いたら、大人達によって天幕がかけられた。既に日が落ちてきていることを思えば、このダンジョンは昼夜があるダンジョンなのだろう。であれば天幕が無くても眠れそうな気はするけど、雨が降ることもあるし、雨は安全地帯でも降り注ぐそうなので屋根は欲しいとの事。
 雨が降るダンジョンは体験したことがないから、このダンジョンで体験できるなら楽しみです。

 マントを脱いで、短剣もお部屋に置いたらお外へ。夕食の準備をしようと思ったら、石を積み重ねる火台が作られていました。私達も前はそうだったんだけど、鍋の量が増えてからはBBQ場にあるコンロ型の火台を作ってたんだよね。安定するし、なにより沢山置ける。
 手慣れた感じで串に肉を刺している大人たち、チアキさんはさっき採集した醤油と味噌を肉に塗って火台に突き刺しています。うん、ワイルドだね。
 しかし、さっきから肉しか準備していないんだけどスープとか、お野菜は食べないのでしょうか?

「ダンジョンだからな、肉串を焼くくらいじゃないか? ああ、そういえば果物も沢山採れたからな、それも食うか」

 そうか、チアキさんのダンジョンはスタンピード時代だもんね、私達の現代ですら調理は驚かれるんだもの、仕方がない。ということで、チアキさんに断って火台をもう一つ作った。

「おぉ、そうか、そうだよな、そっちの火台は全く考えてなかったが、そっちの方が安定するし良いな」
「人数が多いとこっちの方が使い勝手が良いんですよね」
「まぁ、ヴィオちゃんってばお料理もできるの? 私も何か手伝えるかしら?」
「あ、じゃあ野菜の皮むきをお願いできますか?」
「任せて」

 鞄から出した野菜を見て、サクサクと準備を手伝ってくれるタニアさん。土竜の皆のように料理が苦手だったという訳ではなく、ただダンジョンで料理をするなど考えたことがなかっただけのようです。
 お肉が大量なので、お野菜たっぷりのミネストローネスープにしたけど、お味噌汁の方が良かったかな? ああ、折角海の町にいるんだから煮干しとかを作って出汁を作っておけばよかった……。

 スープがあるならとテーブルと椅子を土魔法で作ってくれたのは白雪さん。
 私のスープ皿をみて自分達でも作ろうと木を切り倒してきたのはダルスさん。バレンさんに指導されながら器を削り出しつつ、魔力操作の関係か、削り過ぎておちょこサイズにしてしまっているベル君。
 なんだかお父さん達と一緒にダンジョンに入っている時を思い出して、少しだけ寂しくなった。
 お兄ちゃん達から手紙の返信はない。私が送った手紙が届いていないのかもしれないし、届いていたとしてもまだ金ランクの挑戦中でダンジョンに潜っているのかもしれない。
 もしかしたら届いているけど、もう私の事が――。ああ、ダメダメ、あのお兄ちゃん達が何の連絡もなしに縁を切ろうとするはずがないもの。大丈夫、きっとまだダンジョンに挑戦中なだけだよね。

 時々こうして顔を覗かせる暗い気持ちはどうにかならないのかと思うけれど、これは自分が付き合っていくしかないんだろう。スープを混ぜながら楽し気に作業をしている皆を眺めて気持ちを落ち着かせる。
 こうして元気に楽しむことがお父さんや母さんへの親孝行だと思う反面、こんなに楽しんでいいのかな? と思う気持ちもある。

「お、もういいんじゃないか?」

 耳元で声がして振り返ればチアキさんが覗き込んでいた。手元のスープは確かにトロトロになっていて、器作りを楽しんでいた皆もいつの間にか作業が終わっていたらしく、涎を垂らしそうな状態で待っていた。

「あっ、ごめんなさい、ボーっとしてました。よそいますね」
「まさかダンジョンで温かいスープが飲めるとは思わなかったが、旨そうだな」

 スープ皿にたっぷりよそってもまだ鍋には残っているので、お替り自由だと告げたら大人たちの目がキランと光った気がする。肉串は豪快な大きさで、一つの串に三つも塊肉が刺してある。醤油味と味噌味、一塊だけをもらって、いつもならお兄ちゃんかお父さんに残りを食べてもらっていたけど、明日の朝と昼ごはんにすればいいかな?

「なんだ、ヴィオはそれだけしか食べないのか? だから小さいのか?」
「ヴィオ様、まだ肉はありますし、この先も手に入れることは容易ですから遠慮なさらないで良いのですよ?」

 ベル君、身長の事を言っているのであれば、年齢を考慮すれば私の方が大きいと思いますよ? 

「いや、このお肉が多すぎるだけです。これでも結構食べる量は増えてきているんですけど、ヒト族の7歳なんてこんなものだと思いますよ?」
「そういえば自宅でも少食だったな。まあ無理に食べる必要はないし、残ってる分は俺が貰おう。串四本は流石に多いからな」

 そう言ってチアキさんが残った肉串をヒョイと持って行った。皆は四本も串を食べるようだし、ベル君でも二本を丸々食べるようだ。塊肉は一つが200グラムのステーキサイズで、それが一串に三つもある。という事は一本にステーキ三枚分で、醤油と味噌で味変しているとはいえ六枚だ。それを二本ずつという事は一人でステーキを十二枚も食べるって事、しかもそれに丼サイズの器にたっぷりのミネストローネスープだよ? あとパン。
 土竜の皆はオトマンさん以外全員がヒト族だったけど、かなり健啖家だった。私もあと十年もすればあんなに食べられるようになるのかな? いや、だけどステーキ十二枚は無理な気がする。
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