放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 皇女宮のアニースの部屋の準備が出来る迄、ラメイラとアリシアの誘いで、アニースはリビングでお茶会に参加している。
 セシルは執務があるとの事で、皇女宮からは去っている。
 セシルは『推察通り』と言って、アリシアは納得していたようだったが、アニースから話を聞きたかったようだ。

「アニース様はどうしてアードラに居たのですか?」
「私は旅に出ていたんだ。ボルゾイに居てはいつか殺されると思ったから。」
「え!!」

 淡々と語るアニース。
 その言葉と裏腹に平然と話したアニースの言葉で、アリシアは持っていたティーカップを落とした。
 ラメイラも食べていたクッキーに咽る。

「お、王女なのに殺される、てボルゾイはそんな国なのか!!」
「…………私の出自が問題だったんだ……母は旅の踊り子だった。父に見初められそのまま第二妃に………そして私が産まれた。正妃の嫉妬からの虐めで、自ら命を絶ったんだが、それから私にその嫉妬が向けられ、兄弟姉妹全員が私を虐めるようにな………だから逃げて来た。」
「…………アニース様……なんて辛い。」

 一夫多妻制の国にはよくある話だと、アニースは納得している。
 円満な家族があるのかさえ、分からない環境なのだ。

「もう2年ぐらい前の話だ、私はお父様がご無事ならそれでいい…………旅は楽しかったしな。」
「………に、2年………。」
「正確に言えば3年弱だな。レングストンの建国500年周年の頃だったから。確か、レングストンに連れて行く行かない、で姉妹達が揉めていたのを覚えてる。」

 侍女達が、アリシアのドレスに付いてしまった染みを必死で落としているのが視界に入る。

「アニース様、苦労されたのでは?」
「ん~ん、衣食住が出来れば、なんという事もなかった。金は身に付けていた装飾品売ったり、日雇いで働いたり出来たしな。」
「わ、わたくしには無理ですわ………。」
「わ、私は出来そうだが、一人旅は嫌だ………。」
「ラメイラお姉様は出来ますわね………。」

 アニースは、アリシアとラメイラの仲の良さに疑問が出る。
 妃同士が仲が良いのを見た事が無かったのだ。
 お互い牽制しあい、夫の寵を取り合う。
 ラメイラとアリシアは同じ男を取り合っては居ないからだろうが、女の裏の顔しか見た事がアニースにはない。

「其方達は仲が良いのか?妃になるのだろう?」
「仲は良いよ、性格も皆違うけど。」
「わたくし、ラメイラお姉様もナターシャお姉様も大好き。」
「ナターシャ?………他の妃か?」
「ナターシャお姉様は皇太子妃、ラメイラお姉様はトーマス殿下妃ですわ。」
「あ、そうか………一夫一妻制だったな、レングストンは。」

 物静かに語るように話すアニースを、ラメイラは気になっていた事があるのだろう、唐突に聞き出した。

「アニース……私の服の方が合いそうだな。」
「ラ、ラメイラお姉様!!デリカシーがなさ過ぎですわ!!」

 一瞬、何を言っているか、と思っていると、アリシアも同意見のようで、アニースは笑う。

「………プッ………実は似合ってないのは自分でも分かってる。むしろ、ラメイラ公女の様な服のが好きだ。」
「ねぇ、アニース、私の服着てみないか?」
「…………いいのか?私、アードラで荷物が奪われてしまったから、何も無くてな………。」
「ラメイラお姉様!袖を通していない服をアニース様用にしてはどうですか?」
「確かに何着かまだ着ていないのはあるけど………採寸合うかなぁ?アニースの胸周り、私より………大きい………。」

 ラメイラは、自分の胸とアニースの胸を見比べている。
 アニースより、2歳下だという彼女は、まだ成長はするだろう。
 しかし、もっと成長するであろうアリシアに呆れられている。

「………それは知りません。」
「プッ…………面白いな、あなた達は。」

 ラメイラの部屋に移動したアニースはラメイラの服を鏡の前で充てる。

「うん、やっぱりこちらの方がしっくりくるよ。ラメイラ公女、このドレス前開きだが、今其方が着るようにするのか?」
「そうだね、それなら男物のシャツで胸を隠して、腰はベルトで締めて、膝上までボタンを止めるかな、膝下はズボン履くし。」
「…………私好みにして良いか?要らないストール等あれば借りたい。」
「ストールならあるけど………この色とかどう?髪色に似ているし、合うと思う。」
(…………ストールを胸に巻くか……ボルゾイのような感じに出来るかも。)

 ストールを受け取ると、胸を露わにし胸に巻くアニース。
 アリシアとラメイラはアニースの着方を黙って見ていた。
 男物のズボンは、ラメイラと採寸は合っているようで、胸周りと下半身意外は露出した状態で、前開きのドレスを羽織っただけで、終わらせた。

「モルゾイの女は胸と下半身しか隠さないんだ。あとは透ける布を頭や肩から掛けるぐらいで靭やかな身体付きを男に見せ魅了するんだ。」
「うわぁ……かっこいい!アニースお姉様!」
「うん、かっこいい!!」
「失礼致します。アニース様のお部屋のお掃除終わりましたので、お入り頂いて結構です。」
「ありがとう、世話になる。ラメイラ………数日服を借りて良いか?」
「あ、いいよ。そこに出した服あげる。袖を通してないし、採寸合うなら着てくれ。」

 ラメイラとアニースの身長差もなくお互いに細身の美女。
 違うのは胸の大きさだけだった。
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