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恋愛開始

多忙過ぎて

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「んっ………ふっ……」

 くちゅ、くちゅ、と卑猥な音が、バーカウンターの片隅から聞こえる。
 バーの開店前の準備中だが、紗耶香と裕司しか居らず、お互いに抱き締め合いながら、身体を密着していた。
 毎日のキスだけを、ずっと繰り返してきた紗耶香と裕司。
 紗耶香は次に進まないのか、と思っていても言い出せてはいない。それは、裕司が紗耶香の唇しか愛撫をしないからだ。ただ、抱き寄せてきても、他の場所を触ってくる事もない。
 だが、キスだけは長く時間を取る裕司に、紗耶香は毎日、キスだけで夢心地だった。

「………今日もエロい……」
「っ!」

 紗耶香の唇に垂れた唾液を裕司の指で拭われ、裕司の唇には紗耶香のリップの色が移った。

「メイク直しとけよ……オープンするし」
「………う、うん……」

 場所も考えず、一緒に居る時は裕司は紗耶香の唇を奪っていた。
 会社だろうと、紗耶香がオーナーをしている店舗の控室だろうと、街中だろうと、裕司がキスしたくなる時に1日1回だ。
 街中で、キスをされるのは紗耶香も恥ずかしくて嫌だが、逃がしてくれない裕司に従う様に応じて1ヶ月は経っていた。

「…………オープン準備手伝わなくていいの?」
「バーの事務仕事あるだろ、お前は」
「………その後でやれるけど……」
「オーバーワークするんじゃねぇよ……只でさえ働き過ぎなんだから」
「それは裕司だって……」
「そろそろ、この店も他の奴に任せられねぇか?」
「クラブのバーテンダーが、大会に出たいって言ってて、その結果によってはこっち任せてもいいかな、とは思ってるけど」
「…………頼むわ……俺も本腰入れてかねぇと」
「………経営の方?」
「あぁ……睡眠時間足りてねぇ」
「眠れてないとか?」
「…………まぁな」

 ぐっすりと眠れていないのは、裕司も分かっている。だが、解消方が分かった所で、紗耶香の準備が出来ていない気がするのだ。

「他のスタッフ出勤したら今日はもう帰ったら?」
「………そうさせてもらうわ」

 裕司が家に帰っても、経営学の勉強をする為、眠る時間も元々少ないので、実質睡眠時間は2、3時間だ。

 ―――性欲溜まり過ぎて、眠れねぇんだけどな……

 毎日のキスでセックスしたくなるのは紗耶香だけではないのだ。裕司も溜まって行くが、紗耶香を誘う場所が思い付かない。
 外泊は先ず無理な紗耶香。出張もあるが、紗耶香の父は紗耶香が出張になると、裕司を手元に置き、代わりに経営を傍で学ばせる。それが、紗耶香の父のちょっとした牽制なのだろう。
 昼間は紗耶香は仕事でそんな暇は全くなく、先に進めていないのだ。
 それなら、裕司が紗耶香の時間に合わせるしかなく、仕事が終わってデートに持ち込み、日を跨ぐ前迄、紗耶香とイチャつければな、と思っているのだが、全く持ち込めないでいた。

 ―――マンションに誘うのもあからさまなんだよな……

「………じ」
「…………」
「裕司ってば!」
「あ?………悪い、聞いてなかった……如何した?」
「やっぱり疲れてる……私が店に居るから帰ってもいいよ」
「それは駄目だ、1人になる………それに次見回る店あるなら、俺も付き添うし」
「………ここだけだから、帰れるけど……」
「それなら終わったら帰る準備しとけ………送ってく」
「…………うん……」

 何かを含む表情の紗耶香であったが、裕司も考え事をしていて気が付いていない。

 ―――今日、絶対に裕司のマンションに行くんだから!さっきの私の話聞いてなかったみたいだけど………

 スタッフが出勤し、紗耶香と裕司は店を任せ、店を出る。

「裕司、私を送ってくれなくていいから、迎えに来る迄、裕司のマンションで待たせてもらってもいい?」
「…………いいが、送ってった方が早く帰れるじゃないか」
「いいの!裕司が二度手間だし、ここから裕司のマンションの方が近いのに、余計に疲れさせちゃう」
「…………早く迎えに来させろよ?」
「うん」

 だが、紗耶香はスマートフォンを出さない。家に連絡せずに、どうやって迎えに来てもらうのか。

「連絡しないのか?」
「歩きスマホは危ないでしょ」
「止まりゃいいじゃん」
「裕司のマンションに着いたら連絡するよ」

 裕司の住むマンションは、バーから歩いて行ける距離だ。繁華街の中にあった。夜の仕事をしている者達が、多く住む単身者用マンションに住んでいる。バーから近いので、紗耶香が迎えを待つのは構わないが、迎えに来る迄の時間が手持ち無沙汰になりそうで、微妙な空気感を漂わせていた。
 マンションに到着すると、紗耶香は絶句する。

「な!ちゃんと掃除してるの?」
「暇ねぇ………」

 ゴミは纏めてはあるが、服が散乱し勉強していたであろう、本やノート、経済新聞等の整理はされていなかった。

「少し片付けるよ」
「お前………そんな事出来るのか?」
「整理整頓ぐらいは出来ます!」
「それより、迎えは?連絡しねぇのか?」
「後!」

 迎えの事より、裕司の事をやりたくて、紗耶香は片付けを始めてしまった。

「俺が連絡しとくか」
「!………待って!」
「あ、おい!引っ張るな!」

 裕司が電話をしようとスマートフォンをポケットから出そうとしたが、紗耶香が裕司の腕毎引っ張ってしまう。それが急過ぎて裕司がバランスを崩す。
 倒れかかった裕司だが、紗耶香も倒れそうになったので受け止める裕司。その為に、紗耶香を抱き締める形になってしまった。

「っ!」
「…………あ……」
「………物が今溢れてんだ……足元考えてくれ」
「…………ごめん……」

 その勢いで、裕司がテーブルに乗り上げ、足の間に紗耶香の身体が挟まる。

「………どけ、紗耶香……」
「…………も………駄目?……キス……」
「………今したら……自制効かねぇぞ」
「っ!」
「悪いが、無理だぞ?」

 ベット以外、散乱している物達の中で、紗耶香の始めての経験は嫌だと思った裕司は紗耶香に問た。
 裕司にとってもチャンスではあり、この部屋の状態は嫌で仕方ないが、同意があれば紗耶香を抱こうと思っていた。
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