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二十四

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 沙弥はいつまでも泣き止まなかった。
 直之が部屋からハンカチを持って来て、沙弥に渡してから、沙弥は目頭にハンカチを押さえ、泣いていた。

「沙弥…………」
「っ!」

 直之が声を掛ける度、ピクッと肩が震え、また泣くの繰り返しだ。
 直之は沙弥の足元に屈み、傍に居てくれているが、背中を擦られている訳ではない。過度の触れ合いに沙弥の許可なく触るのは、藤原と同じ行為と思ったからだ。

「直之様…………」
「な、何だ?何か欲しい物あるか?飲み物でも運ばせようか?」

 思いがまだ一方方向だと思っている直之が挙動不審だ。

「……………申し訳……ありません………」
「っ!」
「あの…………」
「っ!」

 沙弥の一言一言に焦りを直之が見せるので、沙弥は涙が止まる。その直之の顔は、まるで判決を降される容疑者の様だ。

「直之様のお言葉、全部分かる様に勉強します………が、頑張りますから………私を直之様の妻にして下さい」
「………………っ!」
「あ、あれ?…………もっと……気持ちお伝えした方が良いですか?…………わ、私も………直之様が好きで………我儘を思わず言ってしまいそうになってしまって………ご迷惑お掛けしてしまうのではないか、と………すいません、私………何お伝えしたいんだろ…………いつも優しくて、その…………わ、分から………っ!」

 直之が膝立ちになり、沙弥を抱き締めた。

「沙弥…………もう分かった………君が俺を好きだと分かったから………鈍いけど、素直で真面目で、可愛い沙弥が俺を好きでいてくれたのが知れて幸せだ………」
「か、可愛いなんて………言われた事ありませんから!」
「………………それなら分からせてやってもいいか?」
「………………え?………っ!」

 膝立ちから立ち上がった直之は、沙弥の握るハンカチを奪った。奪われた沙弥には何が何だか分からないまま、目に当てていた沙弥の瞼へ口付けを落とされる。

「あ………あの………」
「………………まだこれ以上したいが良いか?」
「え………あの…………その………これ以上って…………房事………を?」
「………………そこ迄してもいいならするが………」
「っ!」
「まだしない………結婚したらな………因みに、この部屋の事なんだが………」
「あ、はい!あの私にはこの部屋が広いと………」
「元々此処、俺の部屋だから」
「………………え?……直之様の………部屋………?」

 沙弥が使う部屋が、直之の部屋だと知り見渡している。それにしても広過ぎて、不思議に思えた沙弥だが、直之も察したのか、言葉を掛けた。

「そう…………それが俺達、夫婦の寝室になる………明日、田辺先生呼ぶから、籍入れよう、沙弥」
「籍?…………って……」
「夫婦になる証明だ………沙弥は風祭から西園寺になるんだ」
「………………それで夫婦になるんですか?」
「いや……………形だけの夫婦。そして気持ちが通じ合えた房事をして初めて夫婦になるんだ…………もし、その房事に沙弥が無理なら待つが、籍は変えておこう………嫌か?」
「嫌では…………でも房事は………まだ………心の準備が欲しい………です」
「分かった………待つよ。その代わり、今夜からこの部屋で俺も寝る」
「……………え?………直之様?」

 沙弥が聞き直す前に抱き上げられ、寝台に下ろされた。

「広いしな、二人で眠ってもまだ広い………子供出来ても、川の字で寝れると思わないか?」
「……………直之様は子供がお好きですか?」
「必要ではあるだろうが、沙弥との子は可愛いと今からでも思えるな」

 寝台に直之も潜り込み、沙弥の髪を弄り始めると、髪の束を唇に押し当てて色気を沙弥に見せ付けた。

「……………直之様……あの………心の臓が、バクバクします!」
「……………あまり可愛い事を言うと、房事を始めるぞ?早く寝た方が良いんじゃないか?」
「っ!…………おやすみなさい!」
「……………あぁ、おやすみ………沙弥……」
「っ!」

 沙弥は直之から背を向けるが、沙弥を抱き締める手は直之は緩めなかった。
 クスクスと沙弥の耳元で直之は笑っていたが、沙弥が寝入ると腕が緩まる。

「忍耐が必要だな…………思わず離れ難く寝台に入ったが、身が持ちそうに無い………」

 沙弥に気持ちを打ち明けられた嬉しさのあまりの事だった。
 片恋だと、数時間前には思っていたのが実ったのだ。離せないと思った気持ちが、更に強まる直之に、もう少し欲が生まれた。

「許せ、沙弥…………」

 眠る沙弥の項を露わにさせ、直之は幾つもの印を残した。

「しっかり俺の気持ち、分からせてやる」
「……………」

 首筋を何度も吸われれば、嫌でも気付く。
 沙弥が直之に好意を抱いたのは数日前だ。片恋だと気が付いて、それが許婚として会ったばかりの直之に、思いを告げられれば嬉しいし、眠れる訳もない。
 寝た振りして場を逃げようとはした沙弥だが、もう逃げれはしないのだと痛感したのだった。
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