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熱。

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家に戻ってきた俺は門の前に車を止め、彼女を助手席から抱え上げた。

門をくぐるなり、リョウが俺の側にくる。




慶「リョウ、医者呼んでくれ。」

リョウ「どうかされましたか。」



石畳の道を歩きながらリョウが彼女を覗き込んだ。



リョウ「!!・・すぐに呼びます。」

慶「頼む。本宅に連れて行くから。」

リョウ「・・・わかりました。」




門をくぐって石畳を歩いていくと、途中で二又に分かれてる。

一つは離れに続く道。

もう一つは本宅に続く道だ。

俺は本宅に続く道を歩いた。

ほどなくして見えてくる大きな玄関。

近くにいた使用人がドアを開けてくれた。




「お帰りなさいませ。」

慶「みんなに静かにするように伝えてくれ。」

「かしこまりました。」




靴を乱雑に脱いで、玄関を上がる。

長い長い廊下を抜けるために歩いてると部下が俺にくっついてきた。



「若!誰ですか?」

慶「その呼び方はするな。うちは暴力団じゃない。」

「あまり変わらないでしょう。」

慶「・・・・。」

「で、そのお嬢は?」

慶「見るな、触るな、近づくな。」




俺は早歩きで廊下を抜けた。

自室に入ってベッドに彼女を寝かせる。



慶「大丈夫だから・・・すぐ元気になるから・・・。」

かえで「う・・ぁ・・・」




眉間にしわを寄せて苦しんでる。

出来れば俺が代わってやりたいけど・・・




頭を撫でてると、部屋をノックする音が聞こえた。





コンコン・・・



リョウ「社長、医師が到着しました。」

慶「入ってくれ。」




ドアが開き、リョウと医者が入ってきた。



慶「熱がある。」

医師「ちょっと診ますねー。」




彼女のことを医師に任せてると、リョウが俺を呼んだ。



リョウ「社長、お話が・・・。」

慶「なんだ?」

リョウ「最近うちの地域にこんなチラシが出回ってます。」




そう言って見せてきたのは『金貸し』のチラシだ。




慶「・・・違法じゃないのか?」

リョウ「まだ調べてる途中なんですけど、返せなくなったやつらがちょっと・・・。」

慶「!・・・早急に調べろ。チラシは見つけ次第回収。出所もな。」

リョウ「わかりました。」




リョウが部屋から出ていったあと、彼女を診終わった医師が俺に告げた。




医師「疲労ですね。明日には熱が下がりますよ。」

慶「!!・・・そうか。ありがとう。」

医師「いえ。では私はこれで。」




医師も出ていき、部屋に彼女と二人になった。

顔の赤い彼女を覗き込む。



慶「疲労か・・・。自分の家じゃないしな・・・。」



アパートに返すとあの男がいる。

そんなところに返せるはずがない。

もう解約も済ませてるし。

それに、熱があっても・・・側に置いときたい。

側にいてほしい。

手放したくない。




慶「・・・重症だな、俺。」



熱い頭を撫で、俺は部屋を出た。

仕事用の部屋に向かうために。






ーーーーーーーーーーーーーーー









ーーーーーーーーーーーーーーー









かえでside・・・




かえで「あつ・・・。」



自分の身体の熱さに目が覚めた私は、辺りを見回した。

見覚えの無い天井。

回りにある家具も全然知らなかった。



かえで「ここ・・・どこなんだろ・・・。」





身体を起こすと、少し汗をかいていることに気がついた。

喉も渇いてる。



かえで「着替え・・・お水・・・」



ふらつく身体を壁で支えながらドアに向かって歩く。

ガチャ・・・と、ドアを開けると長い長い廊下があった。



かえで「・・・ほんとにどこ・・?」




とりあえず壁をつたいながら歩き進める。

歩いても歩いても終わりがなさそうな廊下。

所々にドアはあるけど開けずに歩いた。



かえで「はっ・・・はっ・・・」



歩けば歩くほど重くなっていく身体。

景色も・・霞み始める。




かえで「も・・無理・・・。」




足取りが重くなり、私は廊下に座り込んだ。



「・・・お前、誰だ?」

かえで「え・・・?」



霞む目で声のする方を見る。

たぶん・・・男の人が何人か立ってる。



かえで「はぁっ・・・はぁっ・・・」

「誰か知ってるか?」

「さっき若が誰か連れてきたっぽい話聞きましたけど?」

「新しい使用人ですかね。」

「使用人にしちゃ若すぎないか?それに可愛い・・・。」


かえで「あの・・・ここどこ・・・?」




意識が朦朧とするなか、必死に聞いた。

もう・・・限界だ。



「あぁ?ここは『神楽グループ』の本宅だ。お前はどっから入った?」


かえで「あ・・・・・・」




ぷつん・・・と何かが切れ、私は意識を手放した。






ーーーーーーーーーーーーーーー






慶side・・・





慶「?・・・なんか廊下が騒がしい?」




仕事部屋で書類を片付けてると、ざわざわと声が聞こえてきた。



リョウ「なんでしょうね。」

慶「彼女見に行くついでに見てくる。」



そう言って俺は椅子から立ち上がった。

廊下にでると人だかりができてるところがある。




慶「騒ぐな。静かにしろ。」




そう言いながら人だかりに近づくと、部下の一人が俺に報告しにきた。



「若!」

慶「ったく、どいつもこいつも・・・その呼び方はやめろって。」

「社長!侵入者っぽいのがいます!」

慶「んなわけあるかよ・・・。ここがどれだけ監視があると思ってんだよ。」

「でもいるんです!・・・女が!」

慶「・・・・は?」





俺は人だかりをかき分け、渦の中心に向かった。

そこには・・・顔を床に押し付けて倒れてる彼女の姿があった。




慶「・・・かえで!!!」





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